スタジオマン時代〜メインスタジオマン編〜 「有名フォトグラファーから得たもの」

次回に続いてスタジオマン時代のお話です
初めてメインのスタジオマンを任せてもらった時の経験談になります。
スタジオに入社しようかなと考えている方に参考になればなと思います。

スタジオで半年経った頃マネージャーに呼ばれました
また怒られるのかなぁ、なんて思っていたら
『そろそろ一人でスタジオ回してみる?自信ある?』
と言われ即答
『はい、やらせて下さい』

正直不安はあった、一番小さいスタジオではあるが
ライティングの知識やセット組の技術はまだ未熟
フォローなしで一人で全てを判断してクリエイターのお手伝いをすること
ライティングの理解、セット組の速さ、コミニケーション。

大変だった研修を明けて、サードからセカンドスタジオマンにもなっていた。
すでに、先輩に言われなくても自分で考えて効率よくできている自負もあった。
何より、早く上に上るためには良いチャンス。
うまくやれば大きなスタジオのメインスタジオマンに近づく。

しかも担当するフォトグラファーさんは広告でも写真集でも、コマーシャルフォト(業界誌)でも目にして来た方だ。
15年経った現在も広告を中心に活躍されており、Youtubeも初めており、自身の写真館もお持ちの方だ。写真作家でもあり写真集もいくつも出している。

つまり超売れっ子、なぜ一番小さいスタジオを利用するのか不思議なレベル
きっと厳しい方だろう。なんで俺に入社半年スタジオマンつけるの?なんて言われたらどうしよう。。。
でも、このチャンスものにしてやると、かなり意気込んでいた。

そんなやる気に満ちて当日来るカメラマンの過去の『日報』を漁る。
この『日報』には初めてきた時のフォトグラファーの特徴や、よく組むライティングが書かれている。
つまり、スタジオマンが変わっても2回目以降きてもらえれば簡易的な引き継ぎ内容が書かれていて、準備やコミニケーションに役立つ。

そこで問題が起きた、、、

な、無い。そのフォトグラファーは今回初めて来る方で情報がなかった。。。
一気にハードルが上がる。

そんな状況で迎えら当日、一本の電話が入る
『今日の予約なんだけど、急遽夕方入りになりました』
『スタジオマンは多分帰れない時間に(まで撮影に)なるのでよろしく』

どうやら同じ撮影企画の他のCUTをスタジオ外で撮影し終えてから
スタジオに入るようだ。
しかもテッペン超え(24時を超える事)決定。

ソワソワしながらもスタジオで雑務をこなし
とうとうフォトグラファーが到着

恐る恐る挨拶『今日担当します○○です、よろしくお願いします』
すると意外にも『うん、遅くなるけどよろしくね、楽しくやろうよ』
と握手を求められた。

やっぱ有名なフォトグラファーさんは違う。
スタジオで先輩やOBにずっと下僕の如くこき使われていた、
それに慣れてしまっていた自分に気がついた。

この人は『分け隔てなく一人の人間として扱ってくれる。』さらに気合が入った。

フォトグラファーから指示を受け
アシスタントさん(弟子)と二人でセットを組む
全部一人でなんて意気込んでいたけど安心だ。

そう思っていたが違和感。なんかこのアシスタント不安そうだ。。。

それを感じ取ったのかフォトグラファーさん
『この子うちに来てまだ1週間なんだよね、スタジオも出てなくて』
『だから色々教えてあげてね』

なるほど、、、もう自分も入社半年なんですよね、、、なんて言えるわけがない

運よく指示されたセットは王道の物撮りのセットだった
アシスタントさんも頼りにしてくれて、やりやすい。

会話の中で、小さいスタジオを使う意味がわかった。

普段は広告で人物(タレント)が多い印象のフォトグラファーさんだったが
今日はミュージシャンの何周年かのファンクラブ向けの冊子の撮影。
スタジオに来る前にミュージシャン本人の撮影をすませ
スタジオではファンにとってはお宝の過去のグッズ全てと
非公開の私物などの物撮りの為だった。

物撮りは基本大きなセットは必要ないし、
長い撮影になるからスタジオ代も抑えたい。

そんなことまで会話の中で教えてくれた。
これも大事な経験と知識の学びになる

会話をしながらグッズの撮影を数点撮り進めて一言
あと、切り抜き写真だから撮ってみる?

アシスタントさんいきなり撮影チャンス!と顔を見ると
アシスタントさんはこちらを見ている
ふと顔を上げてフォトグラファーさんを見ると彼もこちらを見ている

え?俺ですか?いいんですか?

すると即答で『うん、できるでしょ?てか、できるよ、見ててわかる

スタジオマンの俺、いきなり撮影チャンス!まさかのまさかだけどシャッターを切らせて貰える。断る理由もなく引き受けた。(弟子が撮ることはあっても、スタジオマンがシャッターを切れるチャンスはそうそう無いです

数時間かけて何十点もの切り抜きをこなした。

その間フォトグラファーさんは何かをずっと読んでいた
こちらの進展を見届けつつ
『まじかぁ』『え、すでにこの時にこの歌詞できてたの?』と独り言を言っている。

『切り抜き終わりました』と声をかけると彼は立ち上がった

『後、数カットなんだけど、あとは僕が撮るよ』

『このミュージシャン知ってるでしょ?僕はデビューから彼女のファンで
どうしてもこれだけは自分に落とし込んで撮りたかったんだよね。
事前にできればよかったんだけど、今日しか手元にないから切り抜きやってもらえて助かった。ちゃんと読み込んで僕なりに落とし込めたから撮れるよ

そんなフォトグラファーさん初めてだった。さすが作家さん。
でも何を撮影するのだろうか。

フォトグラファーは大学ノートを何冊か持ってパラパラページをめくる
『悩むけど、やっぱこのページだな』と言ってカメラを構えた

そこには大物ミュージシャン(10代で世に出て現在も活躍している女性シンガーーソングライター)のデビューヒット曲の歌詞が書かれていた
彼がさっき驚い感心していたのは、あの有名デビュー曲の歌詞の一部が高校生の時の授業中に書いたような感じでノートに書かれていたからだった。
その後、リリースして次々にヒットして来たいくつかの曲も高校時代のノートに書かれていた。
ミーハーレベルで彼女のことを知っていた俺ですら感激。
とともに、高校生の自分を振り返ると感性の圧倒的な差に落ち込んだ。

ライティングも変えず、カメラを構えパシャリ。

ミーハーな自分がシャッターを切るのと、彼のように自分に落とし込んでからシャッターを切る違いがあるのか気になった。
(人物撮影なら被写体との心的距離や向き合い方で写真が変わるのはわかるが、物に対して違いが出るという考えがなかったので)

PCモニターに映る歌詞ノートの写真を見ると
なんだか歌詞が踊ってるように見えた。
深夜テンションのせいかもしれないし、気のせいかもしれないけどすごく感動した。

その後何ページかを開いては撮影して撮影終了
深夜2−3時だったと記憶している。

『今日は色々ありがとうね、よく休んでね』
そう言って再度握手をすると一切疲れを見せずに明るく帰っていった。

多くの学びがある撮影だったし、
今思えばスタジオマンの約3年の経験の中でも稀な経験だった。

ライティングや技術は盗めても、なかなか被写体との向き合い方を学べる機会は少ない。

こうして俺の初めてのメインスタジオマンとしての仕事は無事に成功した。

それから約15年、、、
自分は結婚して子供ができた。
たまたま彼の人気写真館が同じ区内にある。
本人は覚えてもないだろうし、本人が撮ってくれる可能性は低いが
家族3人で写真を撮って貰えたらなとタイミングを探している。


また徒然なる書き方になってしまったけど最後まで読んでくれた方ありがとうございます。
スタジオマンで得れるものは、結局自分次第。
慣れてくると『学び』が減るのではなく、自ら放棄していることが多いので
これを読んでスタジオマンを始める方は最後までどんなフォトグラファーが来ようと『学び』を見つけてくれたら嬉しく思います。

次回はメインスタジオマンでの経験談でも書けたらなと思います
では、また


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