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ある日の駅の改札で

普段は気にも留めない団地のポストから

窮屈そうにはみ出した封筒

それを見た瞬間に

無意識に緊張が走っていた

「どうか受かっていてほしい・・・」

そう叫ぶ心の声を

身体が代弁しているようだった

誰もいない部屋に戻り

静かに恐るおそる封筒を開けてみる

この生活から早く抜け出したい

もし雇ってくれるなら俺、死ぬ気で働くから

そんな願いを込めて書類を取り出してみる


「不採用」



飛び込んで来た二文字は残酷な現実を突きつけるには十分な破壊力だった

いや、わかっていた

あの面接会での自分の振舞いを思い返せば

逆にどこに受かる要素があるのであろうかと

そう思うのが普通である

しかし

それでもやはり人は希望を持ってしまう生き物なのだなと

そこにわずかでも望みがあれば

そのわずかな欠片を握りしめて

祈ってしまう

信じてしまう

そしてそんな信じる気持ちから目が覚めた時

降りかかった現実との落差にどうしようもない気持ちになる

もう何度目の不採用通知だろか

履歴書でもダメだし

面接をしてもダメ

もう何をしてもダメだなと

そう思いながらも

度重なる不採用を経験して

少しずつ達観してくるもう一人の自分もいた

やはり出来ることをしようと

そうすることが心の安定にもつながるから

あまり心が揺れ動かないように

ハローワーク通いと自宅での英語学習を黙々とこなす日々を続けた

そして季節は進み

23歳の春

今でも忘れられない光景がある

いつもの電車に乗り

少しばかり込み合った電車に揺られ

程よく世の中ってやつを感じながら

相変わらずのハローワーク通いの日々だった

ターミナル駅の改札を出ると

そこには真新しいスーツに身をつつんだ新入社員と思われる人たちが

皆楽しそうに同じ会社の同期と思われる人たちと話していた

年のころも自分と同じ

そんな同世代のキラキラした未来に溢れた姿と

みじめな今の自分を重ねずにはいられなかった

この光景ほど胸に刺さるものは無くて

居ても立っても居られなくなって

光り輝く勝者の群れを振り切るように

早歩きで人込みを駆け抜けて近くのカフェに逃げ込んでも

先ほどのシーンが頭から離れなかった

ニート時代

この瞬間が一番つらかったな

勝者とか敗者とか

そういうのは好きじゃないけれど

でも、もし世の中にも勝ち負けがあるなら

それがあんなにもわかりやすい構図で示されるなんて

何て残酷なのだろうと

そう感じずにはいられなかった


希望の手前にはどん底があって

勝者がいれば敗者がいて

光があれば陰がある

そんな世の中のコントラストの中を

あの日から10年

何度も何度も行き来しながら生きてきた

だからこそ

光の中にいるときには、陰にいる人を思いやれる人でありたいなと

そう心から思うわけです

そして暗闇の中にいる人に少しでも届くような

そんな願いにも似た思いをカタチにして

これからも綴っていきたい

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