未熟成のウイスキー:ニューメイクスピリッツをいろいろ飲んでみた

かなり前のことですが,日本のウイスキー蒸留所が出しているニューメイクスピリッツなるものをいろいろ飲み比べて,おいしさを評価してみるという場がありました.ニューメイクというのは,熟成がまだ進んでいない状態のものですね.
関わってみて,少し無理があったかな,と思いました.
そもそも,わたしがニューメイクを飲む機会はあまりありません.生産に関わっていれば自前のものを日々試飲するのでしょうが,わたしのような飲み手としては,蒸留所を訪ねた際に少し舐めさせてもらうことがある程度です.

熟成が進んでいないのですから,酸素化合や樽材成分の溶出によるウイスキーならではの好ましい変化は期待できません.アルコールと水が馴染んでおらずトゲトゲしい口当たりですし,臭みが抜けていないので不快な匂いがしたりもします.完成されたウイスキーと比べると,さしておいしいものではありません.アルコールの度数も,樽出しのままの強過ぎるものばかりです.つまりは,飲みにくくて,良し悪しを判断するのは苦しいことでした.

熟成の進んだ将来に期待して評価するのは,ちょっと違うと思います.
蒸溜所でいただくのなら,熟成庫や周囲の環境なども見ながら,成長した姿を思い描くことができるかもしれません.しかし,ボトルになったものを別の場所で飲みますと,樽の状態や熟成環境,熟成の方針などがわかりません.生産者も,販売して評価を求めている以上,その時点での中身で勝負しているのでしょう.

その時に飲み比べたニューメイクには,それなりに成長した,ウイスキーとして扱われる寸前のようなものもありました.一方で,蒸留した直後のような,まったく熟成感のないものも多くありました.いわば,中学生の土俵に赤ちゃんも出ている感じです.そんなものが勝てるわけがありませんが,親はどういうつもりで出場させたのでしょうか.

別のところで書きましたが,ウイスキーの蒸留ビジネスは,初期投資や運転コストもかかる一方,良い商品を育てて販売するまでには時間がかかります.生産者としては,早く資金を回収したい思いはあるでしょう.しかし,未熟なものを販売して評判を落とすことになると,将来的には逆効果です.

5年ほど前に,創業間もないある蒸留所の人から聞いたのですが,ニューメイクを記念品として配ろうと日本酒用の一合瓶に詰めたところ,変に注目されて,問い合わせが殺到したとのことでした.まさか売れるものだとは思いもしなかったそうです.
それが,本来のニューメイクに対する考え方だと思います.商品が何であれ,未完成品などは,堂々と世に出るべきではないはずです.

ウイスキーの中には,数十年間といった長い熟成期間を生き延びたものがあります.熟成が長いほどおいしいというわけではありませんが,それらは数が少なくて希少価値はあるでしょう.しかし,蒸留は日々行われていますから,ニューメイクは別に珍しいものではありません.それなら,そうしたものを高額で買う人の目的もよくわからなくなってきます.何を期待して買うのでしょう.

そうした市場の傾向に乗っかって,新興の蒸留所がニューメイクを立派なボトルにしつらえてけっこうな値段で販売することが流行しているようです.そういうのを見ると,少し蒸留所のセンスを疑ってしまいます.だって,おいしくないのですから.そこには自信も誇りもないはずです.

(ひろかべ)

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