伊邪那岐の遺書⑥
ぶつぶつとか細い声で一言つぶやいてから、あなたはそのままあ仰向けになって寝入りました。
あなたの最後の言葉を聞いて、わたしの両目からは、涙が溢れ出しました。
わたしは前日まで、告白しても失敗するかもしれないという恐怖に押し潰されそうでした。いえ、むしろあなたに女としてみられるわけがないと確信し、そのときはきちんとあきらめなくてはいけないと悩んでいました。失敗したときの段取りまで、眠れぬ夜に繰り返し考えていたほどです。
それでも自分が考えていた以上に、あなたと結ばれたい気持ちは強かったようです。
大粒の涙が、滝のように頬をつたって流れ続けました。
その場でうなだれ、畳を強く爪で引っ掻き、胃液が線を引くほどに嗚咽しました。
我慢していた感情が、洪水のように堰をきって全身から溢れました。
あなたに女として拒否された絶望感で、気が狂いそうでした。
どのくらい、そうやっていたのでしょう。
やがて泣きつかれたわたしは、部屋の灯りが消えていることに気付きました。つけようと紐を引いても、電球の寿命が尽きているのか、かちかちと音がするだけで点灯しません。
星の光が窓から入りこみ、かすかに部屋を照らしていました。
すでに真夜中となり、外は静かでした。ドブ川の流れるせせらぎだけが、かすかに聞こえました。
兄さんが風邪をひいてしまうと思い、暗い中、わたしは急いで食卓を片付け、布団を敷きました。
あなたの体を動かし、布団の上に転がしました。あなたは深い眠りに落ちているようで、ぴくりとも動きません。その顔を見ていると、ふたたび涙がこぼれてきました。
昏倒する前に、あなたは、しどろもどろながらも伝えてくれました。
「那美子、誕生日おめでとう」
寝顔を見つめながら、あなたをあきらめることはできないと思い知らされました。
睡眠薬は、告白に失敗したの場合の計画でした。
わたしは、眠っているあなたに口づけをしました。
愛おしさが胸に込み上げました。
あなたの頬に両手をそえて、先程よりも長い口づけをしました。あなたの舌を吸い、あなたの唇を嘗め続けました。
自分の着ていた衣服をすべて脱ぎ、あなたの上に覆い被さりました。目を覚まさないかと怖れながらも、あなたと体温を分かち合っていることに満たされました。
愛情が生き物のように、わたしの体の中で躍動します。
あなたの手のひらに胸を握らせ、あなたの指先を太股のあいだであそばせました。
星の明かりに照らされながら、わたしはあなたへの永遠の愛を誓いました。この想いが成就するのならば、悪魔にさえ魂を売ってもいいと、声を殺して祈り続けました。
伊邪那岐の遺書⑦
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