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読み聞かせ 敵を助けた上杉謙信


信玄と謙信

むかしむかし、今から500年ほどむかし。

日本にはふたりのつよい殿さまがおりました。
ひとりは、甲斐(いまの山梨県)の武田信玄(たけだ しんげん)。
もうひとりは、越後(いまの新潟県)の上杉謙信(うえすぎ けんしん)
です。

このころの日本には、たくさんの殿さまがいて、それぞれ自分の国を守っていました。
殿さまたちはみんな、

「とちをひろげて、おれの国をゆたかにするぞ!」

「となりのくにをおれのものにしてやる」

とかんがえていました。

戦ってほかの国をたおすと、勝った殿さまは
その国のお金や食べものを手にいれることができたのです。

そうやって、日本じゅうで戦いばかりおきていました。
このじだいを、戦国じだいといいます。

そんななか武田信玄も、まわりにいる敵をたおして、自分の国を大きくしたいと考えました。

いっぽう上杉謙信は自分のためではなく、人のために戦をしようという当時ではめずらしい殿様だったのです。

上杉謙信

上杉謙信は、いまから490年ほどむかし、越後にうまれました。そして、7歳になったころ、林泉寺(りんせんじ)というお寺にあずけられたのでした。
謙信にはお兄さんがいて、すでに国をまもっていたので、弟である謙信はお寺で修行をすることになったのです。

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「お寺で修行なんてたいくつそうだなあ」

謙信はそうおもっていました。

ところが、お寺には天室光育(てんしつこういく)というえらいお坊さんがいて、謙信をりっぱなおとなにしようと、まちかまえていたのです。

光育は謙信にいいました。

「あなたはしょうらい、この国をまもる殿さまになるかもしれないのです」

「そのときのためにこの寺でしっかり修行をするのですよ」

そう言って謙信にいろいろなことを教えてくれたのです。

謙信がいちばんすきだったべんきょうは「お城の攻め方」のべんきょうでした。

お城の模型(もけい)をつくって光育と謙信は

「この城はこうやって攻めよう。」

「いやいやそうしたらこうやって守りましょう」

といって光育とあれこれ話し合っていたのでした。

そうしているうちに謙信は知らず知らずのうちにいくさの方法を勉強していたのでした。

そしてもうひとつ、謙信がだいすきな修行がありました。

それは、「座禅」といってなん時間ものあいだ、ただ目をつぶって「座る」だけの修行でした。

けれども謙信はこのただ「座る」だけの修行がだいすきだったのです。

どうしてかというと、ただ目をつぶって座っているうちに、いろいろなことが心のなかにあらわれては消えていくのが面白かったのです。

むかしあそんだお城のおもいで

おかあさんとの楽しいおもいで

おにいさんとけんかしたこと

などなど、たくさんのことがまぶたのうらにあらわれるのでした。

「あっおかあさん!」

「ははは、お兄ちゃんのばーか」

謙信はまぶたのなかにあらわれるせかいのなかであそぶのが楽しかったのです。

そんな修行をくりかえしていると、だんだん、だんだん、世の中でおこっているできごとのほとんどがじつはどうでもいいことなのだと思えるようになってきたのでした。

どうしてかというと、座禅でこころがきたえられた謙信は、ちょっとやそっとのことでは驚いたり、泣いたり、心を動かされることがなくなったからでした。

心が動かされないのでこだわりがなくなったのです。

「世の中はくだらない領地あらそいばかりだ。
おれは大人になったら、この争いばかりの世で、おれの力を人のために使ってやる」

7歳の謙信はお寺の修行をくりかえすなかで、そう思うようになっていったのです。


父の死

それから4年のつきひがながれ、謙信は11歳になっていました。

謙信はすっかりたくましい少年に成長していました。

あるとき謙信がいつものようにお寺のなかで座禅をくんで修行をしていると、突然、はや馬のかけるおとが聞こえてきました。

はや馬というのは重大なしらせをとどけるために、足の速い馬にのってやってくる人のことです。

「謙信さま!謙信さま!たいへんです!お父様がなくなられました」

「なんだと!」

謙信はそのしらせを聞いておどろきましたが、つぎのしゅんかん、けらいにはおどろいた様子をみせないように、落ちついて
「そうか」
とだけ答えました。

「父上がなくなられたか。。へたをすると国じゅうが戦争になるな。。」

謙信はかんがえました。

するとそばで聞いていた光育が言ったのです。

「謙信さま、いよいよあなたのちからを使う時がきましたな。いまこそお城へ帰り、人のためにそのちからを使いなされ」

謙信は大きくうなずいたのでした。

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