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WEBマンガの作り方(第2回)〔出版社幽霊にならないために〕

みなさんこんにちは。みなさんは楽しい金曜日の午前をお過ごしでしょうか?

私の方は、例によって、船橋ドトールのパソコンが接続できる1人用の椅子に腰かけて、あれやこれや、色々な案件をやっています。今日は主に「似顔絵アイコン」の制作をしています。今回仕事を受けた29名の方たちのLINEとかで使える似顔絵イラストのアイコンを作るのです。この仕事は、あまり手間暇がかからない割りにみなさんに喜んでもられるので好きな仕事です。

さて、今日はWEBマンガの作り方に入る前に、何故私たちが紙ではなく、WEBマンガを作らなければならないかのお話をします。

新人賞を受賞すると、何が起きるのか?

みなさん、例えば講談社の「ちばてつや賞」や「四季賞」をご存知ですか?四季賞は数年前から紙ではなく、WEBでの公開になってしまいましたが、私が生徒たちと必死に「3か月に1本の短編マンガを作る」のモチベーションは、この「ちばてつや賞」を取り、ちば先生も参加される受賞パーティだったり、「月間アフタヌーン」の付録として自分のマンガが四季賞として掲載せれる、ということでした。実際に、私の生徒たちは過去にちばてつや賞や四季賞を取っています。

さて、時代が10年前ならば、それを目標に大手出版社の大きな賞に向かって短編投稿作をひたすら作っていけばよかったのですが、2020年において、実はこの大手出版社の新人賞を狙って作品を描き、デビューを目指すのはとてもとても危険なことであり、結果として「マンガ幽霊」になってしまう話をします。あ、これは特に大手出版社に恨みがある訳ではなく、自分のプロデュース能力がなければ、WEBコミックスなどでもあり得る現象だと思うのですが、私の周りの生徒の多くは例えば「モーニング」や「ヤングジャンプ」で連載を狙っている子たちが多かったからです。

さて、今でも大手出版社には新人賞があります。佳作なども含め、それぞれの大手出版社でおそらく、年間30~50人ぐらいが何かしらの賞を取り、担当が付き、「一緒にデビューを目指しましょう!!」という状態になります。当り前ですが、作者のテンションはマックスです。「これで私の努力が報われ、私はジャンプやマガジンレーベルからガシガシ単行本が出せ、全国のみなさんに愛と感動を伝えられる!!」みたいな気持ちになります。

が、ここからが地獄の始まりで、担当編集者は次は連載、というスタンスで来るので、まず新人の企画はほとんどが否定されます。ネームを描いても、あそこを直し、ここを直しとしている間にあっという間に半年、1年と時間が経ちます。

やっと担当がOKを出したネームが描けた。これで天国に行けると思いきや、担当から申し訳なさそうな電話がかかってきます。「やー、今回の作品、編集長や副編含め、あまり評価が高くありませんでした。すいません。また、1から作りましょう」。

新人賞をとっても、なかなか連載に至らない理由

今、紙の雑誌は、とにかく売れないのです。単行本・コミックスは売れるので、雑誌はそのコミックスを買ってもらうための展示会のような位置づけです。出版社からすると赤字が垂れ流される困った商品です。そう言えば、コンビニの雑誌コーナーもとても狭くなりました。雑誌は売れないのです。

さて、大手出版社で新人賞を取ったのですから、みなさんにはある何かの才能かセンスがあるのでしょう。

しかし、実際に赤字になることが確定の雑誌に、みなさん新人の連載がいきなり載るか? よほどの、よほどのことがない限り、載らないでしょう。何故ならば、上もつかえていて、連載浪人をして、必死で連載を取りたがっている中堅マンガ家も沢山沢山いるからです。

編集者や編集長の気持ちを考えれば、「ここでまったく未知数の新人を使うより、あの中堅マンガ家にこんな作品を作らせたら売れるんじゃないか? 少なくとも、Twitterを見る限り、何万人のファンもいるから、ある程度の保険がかけられるのじゃないか?」となります。雑誌で、実績のない新人が連載は、ほとんどできないのです。

出版社幽霊とは、そういうマンガ家志望者・一度デビューしたけれど、連載が取れないマンガ家を言います。彼らは、「ヤンジャン」で2年間ひたすら編集者と打ち合わせをし、結局どうもならず、他誌・他社で新しい担当が付き、そこでもダメでまた別の雑誌に流れ、神保町界隈をさ迷い歩きます。気づけば3年間、ネームしか描いておらず、完成原稿を作っていない! というケースもままあります。

あなたが久しぶりに原稿を描いたら、あなたの持っていた技術は恐ろしくさび付き、絵柄も若干古くなっているでしょう。出版社は、そういうあなたの何年もした努力や犠牲には、一切お金を払ってくれないのです。

出版社「以外」のデビューの道

さて、あるマンガアプリがあります。5年前ぐらいにできました。出資は大手IT企業です。私はそこで講演もしましたし、そこの編集長たちが「いるかMBAで優秀な生徒がいたら紹介してもらいたい」という打診も受けました。

しかし、当時の私はこのビジネスモデルに懐疑的でした。とても安い(大手出版社の原稿料や印税に比べればですが)金額が支給されますが、それは、たぶんちょっとアルバイトをしないと生活できないんじゃないかなという金額でした。

私は、彼らへの生徒の紹介に関しては消極的でした。しかし、これは私の完全な間違いでした。

彼らはIT企業で成功した手法と、大量な情熱と営業能力で、素晴らしい数の連載マンガを開始しました。連載作はあっという間に増え、商業的に、大成功しています。

マンガの内容についてはコメントを控えますが、私の教え子の何人かが、ここで契約を結び、連載を開始しました。

このアプリのよいところは、「とにかく、一か月に2回は原稿を完成させてアップしなければならない」。「自分の作品の順位が目で見える形で表示され、読者からのダイレクトなコメントが付く」です。

さて、みなさんはこの2020年に、永遠とネームを描き続ける出版社幽霊になりますか? 安くてもとにかく隔週・週間連載をして、経験値を積みますか?という私からの問いかけです。

私は、当たり前ですが、後者の方がよいと思います。

私たちは、書店をビジュアルで覚えています。書店のマンガコーナーに行くと、まず正面に「少年ジャンプ」レーベルの作品の数々がある。隣りには、「少年マガジン」レーベルの作品の数々がある。右側に周るとKADOKAWAやスクエニレーベルのマンガが平積みにされており、後ろには「少年サンデー」レーベルの作品が売られている。これは青年誌も少女誌も女性誌も同じです。

みなさんはその書店で買ったマンガを読んでマンガ家になりたくなったのですから、いつかは自分の名前がクレジットされた会心の作品をそこに並べたい。みんなそうです。

しかし、ちょっと賞が取れたからと言って、いきなりものすごく難易度の高い大手出版社でのデビューを狙うより、大手出版社で賞を取れるぐらいのレベルだったら、自分と相性のよいWEBマンガやWEBマンガアプリを調べ、さっさとそこに持ち込みに行けばよいのです。

1年後、2年後、そこで連載を終えた時、みなさんは「連載についての経験値」や、「実際の何十万・何百万のビュー数」を獲得していることでしょう。

それを持って、大手出版社に行けばよいのです。みなさんは、とてもとても客観的に編集部を安心させられる数字を持っています。

ただし、WEBマンガには、WEBマンガの流儀というか、仕様に合わせなければならないポイントが沢山あります。このコラムは、それを順を追って説明していくコラムです。

私のやり方は常に合理的であり、実践的です。このやり方をすれば、必ず連載が取れると思えるところもあります。

それはまた来週お話しましょう。

では。

4月1日
今日も安定の船橋ドトールにて。
田中裕久

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