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ハーバードに合格した入試エッセイ その2

先週のnoteでハーバードに提出したエッセイの全文を公開したところ、ありがたいことに大きな反響を頂きました。

こうした情報について、かなりニーズがあるようです。10年も前のことを掘りおこすのは少し恥ずかしいですが、参考にしてくださる方が多数いる事を踏まえ、大学に提出したもう一本のエッセイも以下公開します。

先週同様、エッセイの下に考察も載せています。こちらも併せてご覧ください。

※(注意)以下のエッセイでは日中関係について触れています。歴史的、政治的に不適当と感じられる表現、また総じて気分を害される部分があるかもしれません。これらの可能性を十分考慮しつつ、今回のnoteの趣旨を踏まえ、以下内容を改変せずに掲載します。この点ご留意いただき、読み進めて頂ければ幸いです。

それでは以下、出願時に提出したエッセイです。

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部屋に入ると、中は薄暗く、空気がぴんと張りつめていました。大学生スタッフが手にしているキャンドルだけが部屋を照らしています。参加者全員が部屋に入ったところで、ドアが閉められました。スタッフのお兄さんは言います「Tonight, let’s be really honest with each other (今夜は、お互い心から正直に話し合うこととしましょう)」

一週間の国際交流プログラム「日中青年会議」の最終日の夜のできことです。パンフレットには、日本と中国本土から高校生が20人ずつ香港に集められ「活発な意見交換の場を通して深い国際理解」が得られると書いてありました。

プログラム初日から、私はたくさんの人たちと友達になっていました。大学生スタッフたちが、偏見を捨てよう、違いを尊重しよう、と熱心に語る合間にも、隙をみて私は周りの人たちに声をかけていました。

「Hey what’s up, I’m Hiro」と私がささやくと、
「Hi, I’m Katy」と彼女は返してくれました。

それだけで、私には新しい中国人の友達ができました。今日、英語が広く話され、世界中どこにいる人とでも簡単に交流できます。国境はもはや友情をはばむものではなくなりました。

大学生のお兄さんは厳格な口調で続けます「今夜ここで、この1週間学んだことについて話し合います。このキャンドルを持っている人だけが発言できます。話し終わったら次の人に渡してください。」この手の安っぽいセッションは、別のサマーキャンプでやったことがあります。私は即座にそれらしく聞こえるフレーズを思い起こし、大学生スタッフが喜ぶこと間違いなしの、100点なスピーチを頭の中で組み立てました。

大学生のお兄さんはキャンドルをKatyに渡しました。私は彼女の注意を引こうとしますが、彼女はじっと炎を見つめたまま。長い沈黙のあと、彼女はぽつりと言いました。

「I hated the Japanese.(私は日本人が大嫌いだった)」

少しの間を置いて、彼女の口から言葉が溢れ出します。祖母が占領軍に辱められ、殺されたこと。両親にこのプログラムに参加するのを猛反対されたこと。何度も反日デモに参加したこと。日本を嫌うよう幼稚園の頃から教わってきたこと。彼女が私にキャンドルを渡す頃には、中国人参加者は全員泣いていました。

旧日本軍の残虐な行為について、もちろん知ってはいました。しかしその瞬間、何十年にもわたる憎しみやステレオタイプで友達が苦しみ涙するのを見るその瞬間まで、私は自分の無知に気づけませんでした。旧日本軍の残虐な行為は、歴史の教科書の1ページだと思っていました。実際には、戦後60年経った今も、私と同じくらい若い中国人の人生に影を落としていたのです。

用意していたきれいなスピーチが全く役に立たなった中、私はすすり泣く一同の前で立ち尽くしていました。日本人として謝るべきなのか?同情をするべきなのか?正解を必死に模索しましたが、何も思いつきません。プログラムをもっと真面目に受けるべきだったのでしょうか。Katyのまなざしを見て、私は彼女の中国名・本名さえ知らないことにようやく気付きました。長い沈黙の中、言葉にできたのは一言だけでした「I’m sorry, I didn’t know.」

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このエッセイがハーバードに受け入れられた要因は、以下の三つがあると考えています。

1. 正直であった

このエッセイで、私は友人の涙を元に色々と考えた挙句、結局大したことを言えていません。ですが、ここで脚色をせず、実際に起こったことを正直に伝えました。

エッセイで触れているような問題については、大人でさえ明確な答えが出せていません。無理にエッセイの中で結論を出さず、高校生なりの心の動きを正直に伝えた。その上で、今後もハーバードのような多様な環境で考え続けていきたい、という姿勢を暗示したことが、評価につながったのではないかと思います。

2.人間的な学び・成長の瞬間を描いた

このエッセイは、全大学に一律に提出するCommon Applicationの一部として提出しています。トピックはhttps://www.commonapp.org/apply/essay-prompts に羅列されている7つから選べ、非常に自由度が高く設定されています。

とはいえ、7つの設問の大半が、一つの出来事と、そこから得た学びについて聞いています。具体的には、

2. The lessons we take from obstacles we encounter can be fundamental to later success. Recount a time when you faced a challenge, setback, or failure. How did it affect you, and what did you learn from the experience?(失敗からの学びは、往々にして後の成功の礎になります。失敗や困難に直面した時のことを思い出してみてください。その体験はあなたにどんな影響を及ぼし、そこからあなたは何を学びましたか?)

3. Reflect on a time when you questioned or challenged a belief or idea. What prompted your thinking? What was the outcome?(信念や考えに疑問を抱いた時のことを思い出してみてください。その考えに至ったきっかけはなんでしたか?考えた結果はどんなものでしたか?)

5. Discuss an accomplishment, event, or realization that sparked a period of personal growth and a new understanding of yourself or others.(個人的な成長を促し、自分や周囲をよりよく理解するきっかけとなった、成功体験、出来事、または気付きについて書いてください。)

などと書かれていますね。

大学生スタッフの言う事を斜に構えて聞いていた私が、友人の涙・告白という出来事から、自分の許されないほど無知・無神経を学ぶ。上記の流れに沿っていることがお分かり頂けると思います。

何か学びや体験を真摯に伝えようと思ったら、自然とこの流れになるような気もします。とにかく、書き手としても書きやすい、読み手としても分かりやすい流れに沿って伝えたのが良かったのかと思います。

3. 理系なことだけを考えているわけではない事が伝わった

前回のnoteでも書きましたが、ハーバードの合格者は、概ね25%が特定の勉強に強い人、25%が特定の課外活動に強い人、残り50%がオールラウンダーとのことです(そのように公式な説明会で言われました)。

私の出願書類を見た大学の審査官は「この子は理系が強いんだな」という第一印象を抱いていたに違いありません。とはいえ、上述の「特定の勉強に強い25%」の枠に入れる程には、自分の理系の経歴は強くないというのが私の読みでした。

この読みは結果的に当たっていたと思います。以下少し脱線しますが、ハーバードで物理の授業を取った時、この事を強く感じました。

入学当初、私は物理にぼんやりと興味がありました。入学直後の物理のクラス分けテストで好成績をマーク。入門物理の中で一番難しいクラスに振り分けられ(てしまい)ます。

学期始めの、物理の教授との面談の中で「正直まだ専攻を迷ってるんです・・・このクラスにいる人はみんな物理ってもう決めているんでしょうか」と聞くと、一瞬の間を置いて、短く「Yes」とのこと。こいつは物理に対して本気じゃないんだな、と少し見限られたような答え方でした。その後会話が弾むこともなく、面談は10分足らずで終了します。

それもそのはず、そのクラスの人たちはみな物理に本気でした。高校生の頃から大学レベルの授業を受けていた人、研究室に出入りしてた人、物理オリンピックでメダルを取っていた人など、物理の秀才・天才たちが一同に介していたのです。専攻を迷っているようなヌルい人は私くらいのもので、皆その才能と努力と情熱を、一心に物理に注いでいました。

今思えば、彼らのような人たちこそが、物理で成功することを期待された「特定の勉強に強い25%」だったのではないかと思います。

(ちなみに、私はその後コンピューターサイエンスに興味を持ち、物理は副専攻に留めて卒業。物理に本気だった人たちは当然物理専攻で、その後は博士課程の道に進んでいます。)

話を戻すと、こうした人たちと同列で比較されないよう、「50%のオールラウンダー」枠で評価されることが重要でした。

自分の数ある経験の中から、エッセイの題材にこの日中青年会議の経験を選んだ。これがオールラウンダ一枠で評価されることに一役買ったのではないかと思います。

理系に強いながらも、国際的な場に参加した経験もある。加えて、人の心の動きといったような捉え所のないトピックについても、深く考えたことがある。そんな人物像を思い描いてもらえたのかと思います。

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いかがでしょうか。何か参考になる部分があったのであれば幸いです!

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