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いかにお客さんの期待を裏切るか

アサヒの生ジョッキ缶が飛ぶように売れているようです。缶の上部分を丸ごと外して、生ジョッキのような感覚で飲めるという斬新なアイデアで世間を騒がせました。こうしたニュースを見るたび、お客さんの期待を裏切ることの重要性について再確認させられます。

私はAsanaというIT製品をエンジニア日本のお客さんに紹介する仕事をしています。営業活動といえばそれまでですが、通常の営業とは異なり私はエンジニアという役割でお客さんと接します。製品を使ってお客さんの課題を解決することを生業としているわけです。

私は元々は開発側におり、コードを書いて製品を作る側にいました。開発側から営業側に移り、お客さんと接するようになって久しいですが、営業に携わるうえで重要なのが、お客さんの期待を良い意味で裏切ることであると考えています。この点は、お客さんと接する方であれば誰にとっても大事なのではないかと思い、以下共有です。

私がそもそも営業に移ったのは、今働く会社が日本市場への展開を検討し始めたのがきっかけでした。当時サンフランシスコの本社で日本語が喋れるのが私一人だったので、日本市場のリサーチと営業を任されたのです。

開発側でしか経験がなかった当時は、扱っているモノが良いものであれば、売れるべきお客さんには売れていくと思っていました。事実、そのメンタリティでも商談は半々くらいの打率で成約していました。

しかしある時、とあるお客さんにお叱りを受けこの考えを改めることになります。エンジニアとして、お客さんの質問を厳密に言葉通りに捉え、正しい技術的な情報を答える商談をしていました。しかしその中で「あなたにはうちの課題は分からない」「こんなものではうちの課題は解決できない」と怒らせてしまったのです。

これには猛省しました。それまではエンジニアとして、聞かれた質問に正しく答えるのが自分の仕事だと思っていましたし、それでそれなりの結果も出ていました。しかし、全てのお客さんが自分の課題感を分析し、分からない点を洗い出し、それを質問できる状態まで言語化できるわけではありません。というか、IT分野に精通していらっしゃらない限り、むしろそこまでできないのが普通でしょう。課題感を理解してくれない、そんなフラストレーションを感じさせてしまった私の力不足です。

そんな意味で、お客さんに求められている物、お客さんに聞かれていることに答えているうちは半人前なのだと気づきました。それに、お客さんの質問に端的に答えるならば今後AIがやってくれるようになるだろうとも思います。事実、AIでこそありませんが、試しにお客さんによく聞かれる質問への回答をそれぞれ1分程度のデモビデオに撮って公開したら、それだけで業務が3〜4割減った感覚があります。お客さんの言われたままにする業務はこうも簡単に自動化できてしまいます。

その後いくつかの営業手法について目を通しましたが(SPINやチャレンジャーセールスなどが一般的でしょうか)やはり共通しているのはいかにお客さんの期待を裏切るかという点のように思います。例えばAsanaであれば、お客さんが「Asanaに入力した情報は後から出力できますか?報告用のパワポに貼り付ける必要があります。」と聞いてきたとします。ストレートに捉えれば、報告用の資料を正しく作るのが顧客のニーズということになり「もちろんできます!」という回答になるでしょう。これはお客さんの期待通りの答えです。しかしその一手先を行き、このお客さんは報告を効率化したがっている、なんなら報告は面倒だからしたくないのだろうという本質を見抜ければ「いやそもそもその報告の必要をなくすことができるんですよ!」というお客さんの期待を裏切る答えを出せます。

お客さんの期待を裏切ることの重要性を私は営業を通じて学びましたが、この学びは開発にも生きる局面があると考えています。またAsanaの具体例になってしまいますが、以前多くのお客さんに「特定の重要な仕事が終わったら、自動で上司に通知を飛ばしたい」という声が多数上がっていました。これらは全て開発側に顧客ニーズとしてあげていたのですが、そうしたらある日できあがってきたのが、お客さんがそれぞれ自分でAsanaの挙動をカスタマイズできる新機能でした。自動で上司に通知を飛ばしたい、というのがお客さんの言っていたことですが、その本質は、自分のニーズに合わせてAsanaの挙動をカスタマイズしたいことである、と製品開発チームは見抜いたのです。この期待を裏切った新機能はお客さんに大好評でした。

お客さんに喜んでもらうというビジネスの本質を踏まえれば、お客さんの期待を裏切ることの重要性は業種・業界を問わないのではないでしょうか!皆さんの日々の業務の中でも、お客さんの期待を裏切ることができないかと考えてみると面白いかもしれません。

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