名前の話

日頃の生活では当たり前の事であり、有意注意していないと気づきませんが、私達が親に付けてもらった名前は、様々な文化や習慣に基づいてできています。宗教や民族の歴史、個性を知る上で役に立ちます。

フルネーム

普段、仕事で名前を聞かれる場合は多くはありません。残念な人は名前を聞かれると苗字だけを答えます。しかし苗字だけを答えると相手の手数を増やします。下の名前は個人情報なので、という拒否にも感じられます。その人が苗字だけを言うのは面倒臭いからです。知らない人に名前を名乗る機会が少ないからとも言えます。

人の集まりには『参加の人』と『見物の人』の二通りあります。フルネームで言うのは参加の人で相手と親しくなりたいと考えています。見物の人は名前を聞かれると苗字しか言いません。『のぞき見なので話しかけないでね』という事です。素性を明かしたくないのです。

本当は参加したいのに苗字だけを言う人は損をしています。普段から参加の場に行ってない事がここで分かります。そういう人は名前を名乗る事に慣れていないのです。

就活の面接に受かり易いのは名前をはっきり言える人です。『学校・学部・学科・氏名を言ってください』と言われた時に名前を噛んでしまう人がいます。その人は行動半径が友達同士の間にしかない事が分かります。でも履歴書には『知らない人と話すのが得意』と書いてあります。それは嘘です。名乗る時の滑舌の悪さでそれがバレます。

私の場合、会社に二人の息子が入社した時から、紛らわしい事もあって、博文やHirofumiと名乗る事が多くなりました。

イスラム教の国では

イスラム教の国に行くと苗字と名前の区別があまりなく、同姓同名の人が数多くあります。大事な点はミドルネームがあって先祖の人の名前をたくさんつけている場合もあります。またミドルネームは先祖が誰かといういわば個人のアイデンティを示しているので容易に変更や省略する事は許されません。日本の場合は漢字表記という事もあって同姓同名というケースは滅多にありません。

従って日本の入出国カードにはミドルネームを書く欄が無く、苗字と名前だけで十分に本人の特定ができています。しかしイスラム教の人が来日した場合問題になる事があります。英語式解釈で一番目の名前Given Nameと終わりの苗字Family Nameを記入した場合は同姓同名が数多くあります。その為か中近東の国の入出国カードはMiddle Nameの欄が一番広く取ってあります。

ある時パキスタン人の技術者が研修目的で社長の息子と一緒に来日された事がありました。彼は到着した日に日本に入国できませんでした。

迎えに行った人の話を聞いてみますと、同姓同名の国際指名手配されている人がいて、普通なら即刻国外退去処分になるところだったが日本人の迎えがいた事でそれは免れたとの事です。そのエンジニアは英語や日本語が不得意で移民局職員の質問に対しての受け答えも社長の息子が通訳していた事により余計に怪しまれたみたいです。

交渉の結果、その日は空港のホテルに泊めてもらう事になりました。その間に本国に確認するとの事でした。ホテルと言っても、部屋は外から鍵が掛かる構造で、一人に付き一泊100ドルもしました。また二人は別々の部屋に泊まらされたとそうです。日本の常識も世界の常識ではないようです。

ミクロネシアでは

ミクロネシアが米国から独立して間もない頃、政府の一行3人が日本を訪問されました。日本からの観光客誘致の為に来られたそうですが、大東亜戦争までは日本の領土だったそうで親日国の一つです。縁あって打ち合わせに同席させて頂きました。

その時名刺交換をして驚いたのですが全員の氏名が漢字表記による日本人のものでした。理由を聞くと日本による統治の前は苗字が無かったのでこうなったとの事でした。今でもパラオの国旗は日章旗の色違いで真ん中の黄色い円は太陽ではなく月を表しているそうです。

そういう日本文化を継承して、親日であるという事は嬉しい事で、特に日本名が公に使われているのは他国にはない珍しい関係で大いに親近感を持ちました。

英語会話学校で

大学生の頃、英会話を勉強する為に英会話学校に入りました。初めての授業で米国人の先生により、自分の英語名を授けられました。僕の場合、Antonyという名前を頂きましたが、納得のいくものでは無かった事もあり、その学校以外では一度もこれを使う気にはなりませんでした。イスラムの国では名前は自分のアイデンティティそのものという認識があり、これを変える事は社会的にいけない事になっています。

戒名

僕も来年は70歳になり、日本人の平均寿命に近づいてきました。日本では一般的に死ぬと名前が戒名になり、子孫がお寺かお坊さんにお金を払って付けてもらう事になります。それと死後の生活がどう関係するのか誰にも分かりませんが、それは確かめられません。死んだ後、とんでもない事になっても困るのでいい戒名を付けてほしいと思います。