NFTは新しいメディアである
こんにちは!秘密鍵を共有管理できるNFT管理サービス「N Suite」の事業責任者をしている青木です。
NFTは、デジタルデータの唯一性や本物の証明を表現するものだとよく説明されますが、新しいメディアと捉えることで、今後、NFTが将来的に世の中に与え得るインパクトが見えてくるのではないかと考えています。
そして、NFTのメディアとしての特性を把握することで、NFT領域でチャレンジするクリエイターや企業などは、チャレンジすべき方向性が見えてくると思います。
そこで、本記事では、現時点で見えているNFTのメディアとしての特性を整理したいと思います。
メディアとは
NFTがメディアである、という説明をする前に、そもそもメディアとは何か、を説明します。
まず、言葉の定義としては、こんな感じです。
メディア(media)とは、情報の記録、伝達、保管などに用いられる物や装置のことである。媒体(ばいたい)などと訳されることもある。
※引用元:Wikipedia
具体的には、CD、本、テレビ、新聞、ラジオ、動画配信サービス、SNSなどがメディアにあたります。
そして、これらのメディアは、音楽、文章、映像、声などのコンテンツを記録・保管し、消費者に届ける手段として、活用されています。
つまり、メディアとは、コンテンツを消費者に届ける器とも言えます。
メディアが産業に与えてきたインパクト
テクノロジーの進化とともに新しいメディアが産まれ、様々な産業に変化をもたらしてきました。
時には、新しいメディアの出現が産業構造そのものを変えるインパクトをもたらし、産業のトップ企業にとって代わって、新興企業が覇権を握るほどです。
ここで、音楽産業を例に、メディアがもたらした産業の変化を紹介します。
直近約20年の間に、音楽産業における主流メディアは、CD→ダウンロード(iTunesなど)→ストリーミング(Spotifyなど)と変化してきました。
2001年から2020年の各メディアの売上推移(グローバル)はこのようになっています。
引用元:https://www.musically.jp/news-articles/ifpi-global-report-2020
2001年には、CDを含むフィジカル(赤色)が独占状態だったが、2020年には、ストリーミング(青色)が大きなシェアを占めています。
そして、ビジネスモデルもCD、ダウンロードの頃は販売型が主流だったが、ストリーミングが主流の今は、サブスクリプション型が主力の収益モデルになっています。
さらに、メディアの変化による音楽の流通経路のシフトにより、音楽の流通を担う主力企業も変わっています。
CDが主流の頃に流通を担っていたCDショップは、急激な業績悪化を強いられ、今やストリーミングサービスの筆頭であるSpotifyが業界に多大な影響力を持つほどになっています。
音楽産業を例に、メディアと産業の変化の実例を紹介しましたが、メディアの変化がいかに産業に影響を与えるかがお分かりいただけたのではないでしょうか。
新しいメディアの出現は、産業におけるビジネスモデルを変え、従来のビジネスモデルに固執する企業は縮小を余儀なくされることすらあるため、コンテンツ産業にいる企業は無視できません。
捉え方を変えれば、新しいメディアの出現は、事業を拡大したい企業にとっては、新しいビジネスによって、競争優位を築くチャンスだとも言えます。
NFTの特性
さて、ここから本題のNFTについて説明していきます。
まず、NFTの仕組みを図で表すとこのようになります。
世間一般では、コンテンツ本体も含んで、NFTと呼んでいるケースも多々見受けられますが、厳密には、コンテンツ本体はNFTとは別の場所に記録・保管されており、NFTにはコンテンツ本体へのリンクが記録されています。(稀にNFTにコンテンツ本体を記録・保管しているケースもありますが、記録・保管できるデータ容量に制約があり、用途は限定的なので、本記事の説明では割愛します。)
では、NFTをコンテンツにリンクさせることにどんな意味があるのか。
NFTをコンテンツにリンクさせると、下記のような特性がコンテンツに付加されます。
・コンテンツへのアクセス方法の統一化(一元化)
・コンテンツに付随する情報の記録・保管
・コンテンツに機能を付加するための仕組み
これらの特性がコンテンツに備わることで、素のコンテンツ(特にデジタルデータ)では提供が困難な付加価値を実現できるようになります。
以下では、各特性の詳細と実現される付加価値を説明します。
コンテンツへのアクセス方法の統一化(一元化)
前述の通り、NFTは、コンテンツ本体とリンクされており、コンテンツ本体を表示/再生するためのアクセス先が記されています。
通常は、アクセス先は、コンテンツ本体が保管されているURLが記されています。
https://www.mycryptoheroes.net/images/heroes/2000/3002.png
ネットで公開されているコンテンツ(デジタルデータ)にアクセスする場合、コンテンツを表示/再生するサービス(アプリやWebサービス)側で、上記のようなアクセス先(URL等)を個別に調べ、把握しておく必要があります。
世の中に無数にあるコンテンツのアクセス先を個別に調べ把握するのは、かなり困難なため、ほとんどのサービスでは、ネットに公開されている数多くのコンテンツを活用して、価値を提供する、ということを気軽には行えません。
一方で、NFTには、コンテンツのアクセス先が記されており、アクセス先を確認する方法も統一化されています。
サービスは、NFTで決められた手順に従って、アクセス先を調べるだけで、コンテンツを表示/再生することができます。
そのため、NFT化すると、様々なサービスが、コンテンツ(デジタルデータ)を活用して、コンテンツに付加価値をつけるようなサービスを、手軽に作ることができるようになります。(著作権等の制約で、安易にサービスで表示/再生できないケースもありますが、説明の簡易化のために本記事では割愛します。)
コンテンツに付加価値をつけるサービスが増えれば、消費者がコンテンツに触れる機会が増え、価値を体感する要素も増えるため、結果的にコンテンツの価値も上がっていきます。
例えば、NFT領域では、「バーチャル空間(3D空間)で自分の持っているNFTを表示し、鑑賞を楽しむ」という付加価値を提供しているサービスがあります。
以下は、代表的なサービスです。
・Decentaraland
・Cryptovoxels
・ON CYBER
・Conata
実際のビジュアルはこんな感じです。(例:ON CYBER)
このように、第三者がコンテンツを活用し、付加価値を提供しやすい仕組みになっていることで、多種多様な付加価値の創造が見込めます。
コンテンツに付随する情報の記録・保管
NFTでは、コンテンツに付随する情報として、一般的に下記が記録・保管されます。(NFTの設計次第では、他の付随情報も追加できます。)
・作成者(Contract Owner、Minter)
・所有者(Owner Address)
※過去の所有者の履歴も確認可能
・Id(識別番号)
・発行総量
このような付随情報があることで、コンテンツ(デジタルデータ)にコンテクストが加わります。
コンテクストとは、文脈や脈絡、状況などを意味し、物事の前後関係や背景情報を表す言葉です。
物事にコンテクストが加わると付加価値がつくことがあります。
ホームランボールで例えると、
・ボール = 物事
・コンテクスト = ホームランが出た時に使われていた
となります。
単なるボールに、「ホームランが出た時に使われていた」というコンテクストが加わることで、付加価値がつきます。
上記であげたNFTの付随情報のうち、特に所有者と総量といった概念は、デジタルデータが簡単にコピー可能であることから、デジタルデータにはそぐわないものでした。
しかし、NFTと結びつけられたデジタルデータに対して、世間が所有者や総量を認識するようになりました。(この認識は、まだNFTをある程度理解している人に限られますが、NFTが広まるほど、共通認識として広まっていくと考えられます。)
そして、作成者に加え、所有者や総量といった情報が付随することで、デジタルデータに対して、今までにはなかった付加価値がつくようになりました。
例えば、BAYC(Bored Ape Yacht Club)という猿をモチーフにしたNFTは、数多くの著名人が所有しています。
BAYCを所有している著名人の一例はこんな感じです。
海外
・パリス・ヒルトン
・ジャスティン・ビーバー
・セリーナ・ウィリアムズ
日本
・松浦勝人
・関口メンディー
そして、数多くの著名人がBAYCを所有していることで、BAYCを所有することがある種のステータスとなっています。
つまり、BAYCというNFTは、数多くの著名人が所有しているというコンテクストが付随したことで、「持っていることがステータスになる」という付加価値がついているのです。
しかも、BAYCの総量は10,000と決まっており、所有できる人数が限られているため、そのステータスに拍車がかかっています。
このように、デジタルデータに情報が付随し、コンテクストが加わることで、表示/再生などといった機能性以外の価値が、デジタルデータにつくことがあります。
コンテンツに機能を付加するための仕組み
NFTは、コンピュータープログラム(以下プログラム)で作られており、標準で下記の仕組みが備わっています。
・所有者(Owner Address)を確認する仕組み
・特定の人(Address)が所有しているNFTの総量を確認する仕組み
・所有者を変更する仕組み(変更するには所有者の許可が必要)
これらの仕組みは、第三者が作ったプログラム(アプリやWebサービス)から実行できるようになっています。(NFTやWeb3に詳しい方向けに話すと、ブロックチェーンのコンポーザビリティによりこれらのポテンシャルが発揮されます。)
なお、NFTの作り手であれば、プログラムを書くことで、上記以外の仕組みもNFTに追加することができます。
上記であげた仕組みを活用して、コンテンツに付加されている機能の例として、下記があげられます。
①NFTの売買
②所有者限定のサービスアクセス(会員証)
③NFT担保ローン
①NFTの売買
NFTでは、コンテンツ(デジタルデータ)に所有者という概念を付与しているため、売買が成立します。(NFTの所有者となっている人には、どのような権利が認められるのか、という議論がありますが、説明の簡略化のために本記事では割愛します。)
そして、NFTを売買する機能を提供するサービスが数多く存在しています。
これらのサービスは、NFTマーケットプレイスと呼ばれ、OpenSea(オープンシー)というサービスが最も使われています。
②所有者限定のサービスアクセス(会員証)
多くのNFTプロジェクトは、Discordというチャットサービスでコミュニケーションスペースを提供しています。
そして、Discordでは、NFTの所有者のみに特別なロールが付与されたり、NFTの所有者しか参加できないチャットルームを提供しているNFTプロジェクトが多く存在します。
つまり、NFTを会員証として活用しているのです。
さらに、Discordのロールを付与するためのNFTを作成するサービスも産まれてきています。
また、Discord以外にも、Decentaralandなどのバーチャル空間でのアクセス権として活用されている事例もあり、特定のNFTを持っているだけが入場できるエリアが存在していたりします。
③NFT担保ローン
NFTを担保にお金(仮想通貨)の借り入れができるサービスも産まれています。
例えば、NFTfiというサービスがあり、このサービスで認められたNFTを担保に仮想通貨を借りることができます。
このように、付加価値が付き、ある程度相場がついたNFTを、お金を借りるための担保として機能させる試みも出てきています。
なぜNFTがメディアなのか
以上で説明したNFTの特性を踏まえると、NFTは下図のような形でコンテンツ(特にデジタルデータ)を伝達する仕組みだと言えます。
つまり、素のコンテンツには備わっていない下記の特性を付加し、様々なサービスを経由し、消費者にコンテンツを伝達する手段がNFTなのです。
・統一化されたアクセス方法
・付随する情報(コンテクスト)
・機能を付加する仕組み
そして、コンテンツを消費者に伝達する手段であるため、NFTはメディアと言えるのです。
NFTは、「コンテンツに多種多様な付加価値が生まれやすい」という特性を持っていることから、コンテンツ(特にデジタルデータ)に、今までにない新たな付加価値をたくさん生み出していく可能性があります。
NFTが期待通りに発展した場合、コンテンツに付加価値を与えるサービスが大量に創出され、一つのコンテンツから多様な付加価値が展開される未来もあるのではないかと思います。
このように、コンテンツ(特にデジタルデータ)に、多様な付加価値を産み出す新しいメディアとして、NFTは可能性を秘めています。
そして、これまでの歴史で、新しいメディアの台頭が産業に大きな変化をもたらしたように、NFTという新しいメディアの発展により、大きな変革がもたらされる産業も出てくるのではないかと思います。
NFT領域でチャレンジする方向性
NFT領域でチャレンジするということは、新しいメディアの可能性にチャレンジすることだと思います。
そして、チャレンジの方向性としては、大きく2つあると考えています。
・NFTにフィットするコンテンツの開拓
・NFTの付加価値の開拓
NFTにフィットするコンテンツの開拓
メディアのポテンシャルを発揮するには、メディアに合ったコンテンツも不可欠になります。
例えば、Youtubeでは、個人が自由に動画を公開できるという特性もあり、「〜してみた」という、人々の好奇心をそそるコンテンツが定番となっています。
NFTの特性を活かしたコンテンツが数多く開拓されることで、コンテンツへの需要が拡大し、NFTというメディアが発展していくと思います。
NFT領域で既に定番となっているコンテンツとしては、Generative NFTというものがあります。
Generative NFTとは、発行時にランダムに絵柄などが生成されるNFTを指します。一般的には、ユーザーがNFTを購入すると、購入後に絵柄などが生成されます。
購入するまでNFTの中身がわからないため、どんな絵柄が出るのだろうといった楽しみを味わえます。
この記事で紹介したBACYもGenerative NFTに分類されます。
Generative NFTでは、絵柄などがいくつかのパーツに分解されており、パーツ毎に何種類か絵柄などが用意されています。そして、各パーツをランダムに組み合わせて一つの絵柄などを生成します。
BACYでは、パーツに下記の通り分類されています。
・背景
・服
・目
・イアリング
・帽子
・毛皮
・口
また、パーツ毎にレア度が設定されており、レア度の高いパーツが組み込まれていると希少性が高いとされています。
NFTの下記特性によって、Generative NFTは定番になっていると考えられます。
・総量分(数百から数万程度)通りのNFTを作成する必要がある
・二次流通マーケットでの取引が活発化することでNFTプロジェクトが盛り上がる
Generative NFTのように、NFTにフィットし、定番となるようなコンテンツを創造することは、NFT領域にとって意義があり、重要なチャレンジだと思います。
NFTの付加価値の開拓
NFTは、統一化されたコンテンツへのアクセス方法を提供することから、コンテンツ提供者以外の第三者が、コンテンツを活用したサービスを容易に作りやすいです。
そのため、コンテンツを自ら作らずとも、NFTに対して付加価値を提供するようなサービスを作る、というチャレンジも可能です。
この記事でも紹介した下記は、NFTに付加価値を与えるサービスの一例です。
・NFTマーケットプレイス:コンテンツを売るという機能の付加
・バーチャル空間(3D空間):コンテンツのリッチな鑑賞体験を付加
・NFT担保ローン:担保としての機能を付加
また、最近では、Twitterがプロフィール画像に自分の所有しているNFTを設定する機能を、一部地域で提供開始しました。
元々、NFT領域では、自分の所有しているNFTをTwitterのプロフィール画像に設定する、というカルチャーがあったのですが、Twitterが公式にプロフィール画像として設定する機能を提供し、NFTをプロフィール画像として設定した場合には、画像の形が六角形になるようにしました。
この機能により、コンテンツを所有していることを自分のステータスとして、SNS(Twitter)で公開することができる、という付加価値が加わりました。
このように、新規サービスでなくても、既存サービスがNFTに接続することで、NFTの付加価値を開拓する、というアプローチもあります。
また、コンテンツ提供者でもNFTの付加価値の開拓はできます。
例えば、NFTプロジェクトが提供するDiscordのコミュニケーションスペースで、NFT所有者限定のチャットルームを提供する、というのは、コンテンツ提供者が開拓したNFTの付加価値の事例です。
このように、自らコンテンツを提供しつつ、NFTならではな付加価値も開拓する、というアプローチもあります。
最後に
本記事では、NFTの特性を説明するとともに、NFTを新しいメディアとして捉える考え方を紹介いたしました。
新しいメディアと捉えることで、NFTがいかにコンテンツ産業に変化をもたらす可能性を秘めているか、多くの方々に伝われば幸いです。
そして、NFT領域でチャレンジする方々が、チャレンジの方向性を定めるにあたって、本記事で紹介した考え方が参考になれば嬉しく思います。
追記:NFTの特性の図解
本記事で紹介したNFTの特性をさらに整理し、図解をシンプルにしたものをTwitterでシェアいたしました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?