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原稿を書くときの一応の決まり~実例編

前回、「習ったんと違う!」一般文芸の書式を紹介しました。今回は「ゲンロンSF創作講座」のみなさんに協力していただいて、こんなふうに書く人がいる、という紹介をします。

前回の記事はこちら。

大事なのは内容、ではあるけれど

 デジタル時代、テキストデータはいかようにも表示させられます。
 ツメツメのベタが読みにくかったら、改行コードを1行空き書式に変換してもいいし、視力の弱い人は黒地に白文字が読みやすいと聞いています。

 大事なのは内容。絶対、そう。真面目な選考委員であれば、どんなに読みにくい体裁の原稿でも、中身で判断するはず。
 ただ、人間ですから、読みにくいなあ、と要らないところに気を持っていかれることもあるでしょう。

 ざっとぐぐってみたところ、新人賞関係はまだまだプリントアウトしないといけないところが多いようですし、データを提出するにしても、やはり読みやすい書式であったほうが有利だと思います。

[2] 別紙で 1000字程度の梗概(作品のあらすじ)1枚
マス目・罫線のないA4サイズの紙を横長使用し、縦組でプリントアウトしてください。
冒頭にタイトル・ペンネーム(本名でも可)を記してください。
◉種類と枚数………広い意味の推理小説で、自作未発表のもの。縦書き・一段組みとし、四百字詰め原稿用紙で350~550枚(コピー不可)。ワープロ原稿の場合は必ず一行30字×40行で作成し、115~185枚。郵送応募の場合は、A4判のマス目のない紙に印字のうえ、必ず通し番号を入れて、右肩を綴じてください。WEB応募の場合も同様のページレイアウトにし、原稿データ形式はMSWord(doc、docx)、テキスト(txt)、PDF(pdf)での投稿を推奨します。応募規定の原稿枚数規定を満たしたものに限り応募を受け付けます(いずれも超過・不足した場合は失格)。

 権威ある江戸川乱歩賞では、紙の大きさや文字組みに言及されていて、よほど字を大きくするとか小さくするとかしない限りは、読みやすい体裁になるように指定されています。親切。

▼本人が気を付けておくこと

 創作は自由を謳歌できる世界です。
 ですから、どのような内容でも、どのような書式でもかまいません。
 他人に見せない、他人の評価を気にしない、のであれば。

 前記事のように、たまたまゲンロンで実作と梗概を読む機会がありました。書くことに対しての手練れが多いので、読むのが嫌になるほどひどいものはもちろんありませんでした。

 それでも、「おや?」と思ったものはあります。著者ご本人たちに掲載許可をもらってきたものを、いくつか挙げようと思います。

 まず、内容をより効果的に伝える書式や体裁というものも存在する、という前提を知っておいてください。

 例えば、小さな文字で改行もなくびっちり書かれて読みにくいけれど、実はミニアチュールや難解さと縁の深い内容の幻想文学である場合。
 コツ、コツ、と音がするように文字を読み取っていく手段そのものが、異世界へ分け入る儀式のように感じることがあります。

 例えば、一般的には禁じ手とされる文字の色替え。この効果については、ミヒャエル・エンデの『果てしない物語』を読んだ人は実感済みでしょう。

 書店に並ぶ紙の本が、紙の質、活字の種類、ページ番号の打ち方にいたるまで、こまかくこだわって作られている理由は、すべて内容を後方支援するためです。

 いくら創作は自由だといっても、自分のためにならない書式や体裁はもったいない。私はそう思います。

1)行間と改行

 行間と文字間隔のバランスを見て、読みやすく整えてください。
 よく、原稿用紙換算で××枚、というと、Wordなどのワープロソフトが内蔵している原稿用紙書式で提出してくる人がいます。
 これ、実はとても読みにくい。

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 文字間隔が空きすぎてて、バラバラな印象はないですか? 文字だけ大きくできればいいんですけど、どうもできないようです。
 6文字目と18文字目の文字区切りの枠が二重線になっているのは、なんか直す裏技があるようですが、本題ではないので今日はパス。

 まったくの私の好みで言えば、文字間隔はお互いがくっつかない程度にツメ、行間は 0.8行~1.5行 空いているのが読みやすいです。

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 その昔、とある出版社の文庫本はみっちみちのツメツメで、明治文学なんか買おうものならページが黒かった。『吾が輩は猫である』をそれで読んだとき、すごく面白いのに読みにくくて苦労した思い出が残っています。

 ゲンロンの場合はPDFが送られてきます。
 フォントの種類や行間・文字間隔はたぶん編集段階で揃えてくれているのでしょう。

 行間はたっぷり1行分(文字の幅)ありますね。ルビがある場合はこれくらいのほうが安全。

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2)改段落と字下げ

 これについては前回も書いた通り。
 ただ、統一できてないのはどうかなあと感じます。

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 最初の2文字下げは、章のリードになっているのかと思ったらそうでもなかった。

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 1行空き&一文字下げの普通の改段と、二文字サゲの違いは? と悩みました。

 なんでそんなことで悩むんだ! という声が聞こえてきそうな……。
 いや、だからね。長年本を読んでると、テキストの表示方式もなんらかの効果を担ってるかも、と怪しんじゃうんですよ。

 どうやら意味はなさそうだと判った時点で、書式はさておいてきちんと内容で評価しました。

 けど、PDFに変換する時の思わぬ変化だったのではないとすると、「不注意な原稿だな」という印象は免れません。
 あと、惜しくも誤字脱字があるし。これは当然注意すべきかと思います。

 反対に、一文字下げがない原稿もありました。

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 たまたま1行の字数いっぱいで改行が来たときに、改行の有無、つまり意味の続き具合、が判断できないおそれがあります。

 私は、このnoteの冒頭はあえて一文字下げをしていません。目次の前の部分です。なぜだかお判りでしょうか?

 そう、そこは本文ではなくリードだからです。

3)色替え・フォント変化

 またもや個人的な意見で申し訳ない。
 私は、応募原稿でコレは禁じ手だと思っています。

 注意を向けさせたいのなら、文章の力でしてほしい。
 これは以下の 4)にも言えることです。

4)約物と記号

 やっと出てきました、三点リーダー問題。

 世の中の出版事情に合わせて正しく(?)書くと、判ってる感が出ます。
 このnoteではうまく表示されませんが、三点リーダーやダッシュは2マス続けて1セット。

 三点リーダーは、ピリオド(.)や中黒(・)で代用しません。noteはピリオドみたいに下ツキで表示されてるのが難点。横書きだからかな……。

 ダッシュは線を長音にすると、明朝体では妙なヒゲが出ます。表組みで使うフォントにすると、昔は文字コード(unicode,anti,‎UTF-8などいろいろある)の差でバケたり表示されなかったりしました。

「(三点)リーダー」や「ダッシュ」と打って変換させるのが安全かと。

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 ルビや傍点(ゴマとも呼ぶ)は、必要に応じて、という慣習です。
 個人的に(こればっかり)、私はゴマは使いません。
 太字や色替えと同じように、強調するなら文章力で、と思っているので。主義の問題で、マネしなくていいです。小松左京さんもゴマ使ってたし。出版社によっては、ゴマが筆記体(?)になったり真円になったりするので注意。

 どうしてもの時は、ゴマの代わりにカッコ類を使うこともあります。
 キーワード的強調をお手軽にするには、読点やカタカナでもできます。

博物館惑星〈アフロディーテ〉 ←固有名詞強調(女神名ではない特殊さ)
「何が」過剰なのか。「誰が」過剰なのか。 ←キーワードの強調

何が、過剰なのか。誰が、過剰なのか。 ←読点で強調
ナニが過剰なのか。ダレが過剰なのか。 ←文字種で強調

 三点リーダーやダッシュ、( )も、極力使わないようにしています。
( )の中に説明を入れるのは、梗概ならギリセーフかもしれませんが、本文ではアウト。あ、しつこいですが私基準です。

 これは、なんというか……。

 個人的に(こればっかり)、私はゴマは使いません。

 記号でしょ?(思ってることとか内容説明とかね)

 彼は途切れ途切れに話した。
「……うん、まあ」
 ゆっくりと上を見上げた。目が泳いでいる。
「いや、そうかも……しれないな。うん……」
 私はだんだんイライラしてきた。
「……でも、うん……いや、しかし――」
「はっきりしてよ!」
 ついに言葉尻を奪って、私は怒った。

 間を取りたいとき、中途半端に終わっている時、に、ついつい使いたくなってしまう麻薬のようなモノ。それが三点リーダーとダッシュと( )。

 速筆で鳴らしていたとあるベストセラー作家さんは、びっくりするくらいにこの手の記号が多かった。
 特に内省の独白だと、考えをそのまま書き取ろうとしてそうなる。
 それは判る。イヤほど判る。
 でも、やっぱりちょっとなあ、とも思う。

 ここらへんは複雑な心境。

 極論すれば、? や ! も記号なわけです。
 けれども、使わないと誤解されることもある。

○○だから。
○○だから?
「そうなんです」
「そうなんです?」

 言い換えは可能。○○だからだろうか。と書いてしまえばいいし、「そうなんですか」と言わせればいい。
 ニュアンスを犠牲にしていいなら、記号は使わずにすむ。
 ニュアンスが大事なときは使う。
 日和ってて、意見にも何にもなってなくてすみません。

 記号でしょ。
 記号でしょ! 
 記号でしょ?

 ねー。ニュアンス、違うよね。
 記号のチカラってあなどれない。
 チカラがあるからこそ、頼って使いすぎることにもなる。
 ほんと、麻薬的。

▼まとめ

 読みやすさは自分への評価に貢献する。
 よほど仕掛けがないかぎりは、一般常識を大事にすると安心です。

 最終的には内容。けど、「判ってる」かどうかはアドバンテージ。

 そういうことです。

 最後に、読みやすかった原稿を二つ、例にしておきます。

 もう一回言いますよ。

 大事なのは内容! 書式は後方支援。

 これから人に原稿を見せるかたがた、頑張ってください!

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みなさまのお心次第で、この活動を続けられます。積極的なサポートをよろしくお願いします。