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新人賞作家のその後

 出版不況なのは判っている。実際、私も以前の三分の一しか刷ってもらえなくなっている。
 著作(特に単著と呼ばれる、自分一人で書いた、自分一人が筆者の本)が複数ある作家はまだいい。経験によって、自己プロデュースのしかたや売り込み方(以前はパーティで人脈を作る努力をしたものだけれど、最近はどうなんだろう)、危機感の正しい認識、などができていると思うので。

 私が勝手に心配しているのは、新人賞を取ったばかりの作家さんたちだ。
 昔は、賞を取ることがゴールだった。あとは何もせずとも注文が入り、いいものを書き続けていれば本になり、うまくいけばよく売れた。
「よく売れる」かどうかはほとんど博奕ばくちめいていて、私もよく売れるほうではけっして、ない。部数は出ないけど、たまに賞を取るし、編集さんたちが認めてくれているから、なんとかここまでやってこれた。
 博奕に参加するためには、種銭たねせんが必要になる。これが単著だ。ところが、最近は、新人賞作家が2作目を出せない。出さないのか出せないのかは考え方が分かれるだろうが、少なくとも私が知っている時代のように「早く2作目を出しましょう!」と編集さんに急かされる機会は減っているように思う。

 これはまずい。

 だいたい、新人賞は「たまたまその作品がよく書けた」場合にも与えられる。作家としての実力は、2作目、3作目、と評価資料の数が出ないと明らかにならない。
 小説家はベテランでも新人でも、つねに百点を取れるわけではない。だいたい80点ぐらいを維持し続け、たまに120点で話題をかっさらう、というのがだいたいのルート。ちなみに、赤点的作品は、一冊だけならまだ見逃してもらえるが、二冊続けてダメなら、読者も出版社も離れてしまうと考えていい。私の若い頃は「スリーアウト制」だったが、最近は「ワンナウト退場」だとか。

 つまりは、新人賞を取った人であっても、種銭を工面できず、博奕に参加することもできないのが現状なのだ。

 書いているうちに世知辛くて落ち込んできた。

 文学賞を取る。そうしたらまわりがみんな褒めてくれて、わっしょいわっしょい、すぐに次出そうぜ、売り出そうぜ、わっしょい……というふうに、華々しく行ってほしい。賞デビューでない私だからこそ、そういう夢を見ている。
 とにかく出してもらう。で、冊数は出なくても書評はいい、とか、初動(出版直後の売り上げ)は悪かったけどロングテールでじわじわ売れ続けている、とか、とにかく自分の立ち位置を確かめてもらいたい。
 それもできず、第二作を請う人もおらず、ただ静かに枯れてしまっていく。せっかくの新人賞が、本当にもったいないと思うのだ。

 とにかく出してみる、が難しい現在、私に何かできることはないかといろいろ思ってはいる。
 簡単なのは電子出版で新人さんの作品を出してあげることだが、これはいかにも認知度が低い。私くらいがわーわー言っても、玉石混淆の巨大な電子本の海には、さざなみひとつたたないのだ。
 わーわー言い続けるのを何年か継続すれば、また違ってくるかもしれない。私が出すレーベルはぱっとしなくても、そこから出版社が紙の本で出し直ししてくれれば、なおいい。

 問題は、私にしろ委嘱するプロの編集さんにしろ、生活があるのでただ働きというわけにはいかないということだ。
 電子出版しますから手数料を先にください、とかという商売は絶対にしたくない。
 どうしたものだろうか。

みなさまのお心次第で、この活動を続けられます。積極的なサポートをよろしくお願いします。