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【法律の抜け穴?】歌詞の一部を変える替え歌は違法だけど、歌詞の全部を変えて歌うなら合法になるという話

今回は、法律の抜け穴…というと大げさかもしれませんが、感覚的には違法なのに実は合法なことを書きます。

先日、ラジオ番組で替え歌を流してしまい、ラジオ局がリスナーや作詞者・作曲者に謝罪したというニュースがありました。

このラジオ番組でどのような替え歌が放送されたのかは知りませんが、歌詞の一部を勝手に改変する替え歌は、作詞者の同一性保持権を侵害するので、違法です。
しかし、一部の改変にとどまらず、もとの歌詞を跡形もなく完全に改変する替え歌であれば、著作者人格権の侵害にはならず、著作権さえ処理されていれば合法だと考えられています。

今回はこのことについて詳しくお話しようと思います。

設問

たとえば、ブタが作詞、クマが作曲した「君に異議あり!」という楽曲があり、JASRACがその著作権を管理しているとします。

この曲を、トラが替え歌にしてYouTubeに投稿するという事例を考えてみましょう。

●単純化のため、上の図では音楽出版社を介さない形にしていますが、音楽出版社が入った場合や、一部をNexToneに管理委託している場合も同じ議論が当てはまります。
●YouTubeへの投稿を例にしていますが、YouTube同様、放送局もJASRACと包括的利用許諾契約を締結しているので、放送局が替え歌を放送する場合も同様です。
●アカペラなどで歌うことを想定し、カバーアレンジや原盤の許諾の必要性については考えないでよいことにします。

ご存知のとおり、YouTubeは、JASRACと包括的利用許諾契約を締結し、きちんと著作権使用料を支払って楽曲の利用許諾を得ているので(詳細はこの記事など)、基本的に、トラは「君に異議あり!」をYouTubeで自由に利用することができます。

とはいえ、トラは「君に異議あり!」を替え歌(歌詞の改変)にしてYouTubeに投稿することができるのでしょうか?

歌詞の一部を変える場合

まず、トラが「君に異議あり!」の歌詞の一部を改変する場合に、ブタやクマの許諾が必要なのかについて考えてみましょう。

作詞者との関係

ご存じのとおり、無断で歌詞の一部を改変することは、基本的には著作者人格権のひとつである同一性保持権(著作権法第20条1項)という権利の侵害になります。

ですので、作詞者(ブタ)の許諾が必要です。

「JASRACが管理しているんだから、JASRACの許諾さえあればいいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、著作権管理事業者(JASRAC、NexTone)が管理しているのはあくまで著作権であり、著作者人格権まで管理しているわけではありません。
著作者人格権は作詞者本人に帰属しているので、やはり作詞者本人の許諾が必要となるわけです。

作曲者との関係

では、作曲者の許諾は必要でしょうか?

歌詞が改変されると全体として楽曲の印象が改変されてしまうので、作曲者の許諾も必要な感じがしますよね。

ところが、著作権法上、「歌詞」と「曲(メロディ)」は別々の著作物とされています。
つまり、法律上は、歌詞の改変は作曲者には無関係なのです。

ですので、作曲者(クマ)の許諾は不要ということになります。逆に言うと、どんなに歌詞が無断改変されても、メロディが改変されていなければ作曲者は何も言えないのです。

通常、「歌詞」と「メロディ」は音楽作品として一緒に利用されますが、たとえば、「歌詞」を詩集のような形で書籍にしたり、「メロディ」をオルゴールにしたりと、「歌詞」と「メロディ」は別々に利用することができるため、著作権法上は別々の著作物なのです。
このように、ふつうは一緒に利用されるけど法的には別々の著作物、という関係を結合著作物といいます。結合著作物の例は、ほかにも絵本(文芸とイラストが一緒に利用されているけど別々の著作物)などがあります。

結合著作物について

ただし、作曲者も「自分の作品を、名誉声望を毀損されるような形で利用してほしくない」という名誉声望保持権(著作権法第113条11項 これも著作者人格権のひとつです。)をもっています。
ですので、「君に異議あり!」の歌詞をたとえば放送禁止用語や差別的表現に改変するなど、作曲者(クマ)の名誉声望を毀損するような替え歌に対しては、クマも名誉声望保持権を主張できる可能性があります。

歌詞の全部を変える場合

問題は、歌詞の全部を変更してしまう場合です。トラが「君に異議あり!」の歌詞のワードもコンテキストも完全に別ものに変更して歌う場合を想定しましょう。

作詞者との関係

歌詞の一部改変の場合と異なり、歌詞を完全に別ものにしてしまうと、もとの作詞者の歌詞を改変したとはいえず、同一性保持権の侵害にあたりません
トラは、新しい歌詞を作詞しただけなのです。

ですので、法律上、作詞者(ブタ)の許諾は不要ということになります。

作曲者との関係

歌詞の一部改変の場合と同様、歌詞とメロディは別々の著作物である以上、やはり歌詞の変更は作曲者には無関係ということになります。

ですので、法律上、作曲者(クマ)の許諾も不要です。

ただし、歌詞の一部改変の場合と同様、放送禁止用語や差別的表現のある歌詞の場合には、クマは名誉声望保持権を主張できる可能性があります。

文献・裁判例は?

このように、歌詞の全部をまるごと変更するのであれば、作曲者はもちろん作詞者の許諾も不要という結論になります。
これは執筆者個人の見解というわけではなく、古いものですが文献もいくつかあります。ただ、この点について判断された裁判例はなさそうです。

言語の著作物と写真の著作物を合体させて印刷しても、言語の著作物の改変に当たらないとすると、言語の著作物である純粋詩に勝手にメロディーを付けても、同じように言語の著作物の改変とはいえない。そうすると、逆にメロディーに勝手に詞を付けることも、改変ではないと考えないと一貫しないのではないかと思います。

講演録「音楽エンタテインメントに必要な著作権知識」弁護士前田哲男
「コピライト」2007年10月号 P12

歌詞と楽曲が創作過程で影響することは当然考えられるものであり、このような場合であっても、結果として創作された表現である歌詞と楽曲が互いに独立していると解されるのであれば、やはり全体として分離できない「歌」と解することは困難であるため、歌詞あるいは楽曲の片方を全く別のものに変えて結合させても、他方の著作者の同一性保持権を侵害すると判断することは難しいのではないかと思われます。

「替え歌と著作権」弁護士早稲田裕美子
「コピライト」2008年3月号 P40

ただし、以下のような文献もありますので、上記の見解が実務家のなかで完全に一致しているというわけでもありません。

純粋詩に曲を付けたり、器楽曲に歌詞を付けたりすることは、著作権法20条1項にいう「その他の改変」の中に含めて考えてよいのではないかと、個人的には考えております。

「著作権法における音楽家の権利ー作詞家の著作権ー」弁護士市村直也
2004年度JASRAC寄附講座講演録「著作権制度概説および音楽著作権」明治大学法科大学院
P271

おわりに

この論点は音楽の法務を取り扱う弁護士の間では関心が高く、もし裁判になればとても注目されると思います。
とはいえ、(当たり前ですが)この記事は無断での替え歌を推奨するものではありません。

あと、今回の話が当てはまるのは著作権管理事業者(JASRAC、NexTone)が管理している楽曲に限られます。
作詞者・作曲者が自己管理している楽曲については「そんな使い方は許しませんよ」と言われたら終わりですし、Audiostockなどで販売されている楽曲については利用規約で利用可能な態様が細かく定められています。

よくある質問

Q1 今回の話は、作詞者と作曲者が同一人物の音楽作品であっても同様なのですか?

A1 はい、同様です。今回の事例では作詞者と作曲者が別人の場合を考えましたが、歌詞とメロディは別々の著作物である以上、作詞者と作曲者が同一人物の場合であっても同じ議論が当てはまります。
つまり、「自分が作詞・作曲した作品の歌詞を勝手にまるごと変えられてYouTubeに投稿されているのに、文句を言えない」ということになってしまい、ますますおかしな結論に感じますね。

Q2 今回は歌詞の改変の話でしたが、歌詞を変えずにメロディを改変する場合も同様なのですか?

A2 はい、同様です。メロディの一部だけを改変する場合、作曲者の許諾は必要ですが、作詞者の許諾は不要です。一方、メロディを完全に別モノに変更する場合は、作詞者と作曲者のどちらの許諾も不要ということになります。
今回の事例でいえば、トラが、ブタの歌詞をクマのメロディと完全に別のメロディに当てて歌ってYouTubeに投稿した場合、ブタもクマも法律上何も言えないということになり、やっぱりおかしな結論に感じます。

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