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【第52話】 憧れの馬車ガイド🇵🇭

リサール公園はマニラ湾のすぐそばにある。なんとなく海を見たくなり、ジプニーに乗って出かけた。公園は無料だ。入り口にはピーナツ売りや売店が立ち並び、園内は市民がピクニック気分で遊びに来れるような憩いの場になっている。中に入ってしばらく歩くと、馬が観光用の客車を引いてあちこちを闊歩しているのが見えてくる。

その日は平日で、しかも昼時ということもあり観光客はまばらだった。おじさんたちに混じって青年が冗談を言い合いながら馬に水をやっている。その笑顔を見て、なんとなくすぐに打ち解けられそうな気がした。相手は観光客相手の商売だ。こちらから気軽に話しかけていいだろう。「日本から来ています。あなたの仕事を取材させてくれませんか」

馬は力強く客車を引いていく
カメラを向けると笑顔だ
鞭を使うことはほとんどない
衣装を着ていれば中世に見える
タバコの前に餌をやる
かなりの速度が出る
気持ち良い笑顔で去っていった

青年は気さくだった。「日本のどこから来たの?東京なら親戚が働いているよ」撮影の合間に一緒にコンビニへ昼食を買いに出かけ、食後はタバコを勧めてくれた。カメラは見慣れているだろうが、自身がまじまじと撮られたことはないのだろう。しばらく構えていると、はにかんで笑顔を見せた。

日本では馬車を見たことがない。牧場などに行けば馬には乗せてくれるかもしれない。しかしなんと言ってもこれは馬車だ。重い客車を引っ張る馬の筋肉は筋張り、時おりいななく。その馬車の上で、ああでもない、こうでもないと体勢を変えながらカメラを構え、興奮していた。撮り終わった後は不思議な達成感に包まれた。

インド、ミャンマーと撮影を経験し、徐々に慣れて来た頃だ。乗り物を職業にする人を撮影するのがこんなに楽しいとは思わなかった。いい感じだ。この調子だ。そうして意気揚々と海へ向かって歩き出した。

馬車でガイドをやってるよ

馬の手入れも欠かさずやってる
綺麗にしてやって 餌をやって
朝6時から夕方5時まで

馬を手入れするのが一番大事かな
こいつに食わせてもらってるからね

この仕事 親父から継いだんだ
だから本当に大切にしてるよ

小さい頃から憧れがあってさ
でも将来はどうなるか
まして他人に勧められるかはね

Horse cart driver in Manila autumn 2018
www.monologue365.jp

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