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「聞く」は「聴く」より難しい!? 〜『聞く技術 聞いてもらう技術』

すこし前から話題になっていた『聞く技術 聞いてもらう技術』(東畑開人 著、ちくま新書)を読みました。

読了直後、東畑さんと会話していたような、心の声を聞いてもらったような、あたたかい気持ちに包まれたのを覚えています。

これまでの人生で、話を聞いてくれた人、大切な話を聞かせてくれた人、うまく聞けなかった人……、色んな人たちの顔が浮かんでくる 不思議な読書体験でした。

『聞く技術 聞いてもらう技術』

この1年、職場での1on1やストレングスコーチングのセッションなど、1対1で対話する機会が増え、「キくこと」については自分なりに工夫や改善してきたつもりです。それでも、耳が痛かったり、ハッとさせられる記述がたくさんある本でした。

キーフレーズ

以下に、企業内の人材開発・組織開発に関わる立場から、気になったフレーズをカテゴリ分けして挙げておきます。

「聴く」ではなく「聞く」

本書を読むまでは、「聞く」はただ耳に入ってくること、「聴く」はしっかり注意を向けて受け取ること。「聴く」は「聞く」より高度なことだと感じていました。
ところが、日常生活で大切なのはむしろ「聞く」ことだ、という本書の主張は、意外であるものの大きく頷けるものでした。

「なんでちゃんとキいてくれないの?」とか「ちょっとはキいてくれよ!」と言われるとき、求められているのは「聴く」ではなく「聞く」なのです。

まえがき p.009-010

「聴く」よりも「聞く」のほうが難しい。
心の奥底に触れるよりも、懸命に訴えられていることをそのまま受け取るほうがずっと難しい

まえがき p.011

わが身を省みても、相手の想いの強さを推し量って受け取ることができているかを問うと、かなり怪しい気がします。

たしかに、「聞く」は「聴く」より難しいのかもしれない。
そう思いつつ、先に進みます。

「聞く」ためには…

では、その「聞く」ために必要なことは何か。
自身の状態と行動について、以下の記述が心にひっかかりました。

あなたが話を聞けないのは、あなたの話を聞いてもらっていないからです。心が追い詰められ、脅かされているときには、僕らは人の話をきけません。

まえがき p.019

聞くために必要なのは沈黙です。
こちらから話題をふって、それに反応してもらうのではなく、相手の中から話題を持ち出してもらう必要がある。大事な話をする前は気まずいものなのですから、多少気まずい沈黙に耐えられる必要があります。

聞く技術 小手先編 p.031

話を聞いていると、意見を言いたくなるときがあります。
(略)
意見を言うときは5秒ではなく、10秒考えることです。20秒でもいいですよ。とっさに反応するのではなく、ゆっくり考えてから言葉にする。
何を考えるのかというと、相手を傷つけない言葉です。
自分のセリフを、頭の中でできるだけ推敲してください。相手を傷つけないような言葉を探すことじたいが、相手の心を考えていることを意味しています。そういう時間はとても貴重です。

聞く技術 小手先編 p.040

「聴く」つもりが「訊く」や「問い詰める」になってしまうことがたまにあります。(自分がしてしまう側、される側の両シーンで)

相手から湧き出すものを待つ、相手の心を考えて言葉を紡ぐ、ということが、本当に「聞く」ために必要なんでしょうね。

当たり前の「環境としての聞く」

環境としての聞く」という言葉、これも新鮮でした。

普段は聞いていることを感謝されることもないし、自分でもちゃんと聞けていることに気づきません。こういうとき、「環境としての聞く」が機能している。(略)
ただし、ときどき「聞く」が失敗するのも事実です。

第1章 なぜ聞けなくなるのか p.064-065

あって当たり前のものが「ない」とき、私たちは何かが失敗していることに気がつきます
欠乏。これこそが問題です。

第1章 なぜ聞けなくなるのか p.066

うまくいっているときには気づかないけれど、うまくいっていないときに、「聞く」が問題として浮かびあがってくる。これこそが「環境としての聞く」です。

「孤独」と「孤立」との区別

現在、「聞く」が重要になってきた背景には「孤独」の存在があります。
特に、聞けていないとき、聞いてもらっていないとき、自分と相手の間には孤独が横たわっているものです。

孤独こそが聞かれねばならないのですが、孤独を聞こうとすると、聞く人も孤独になります。そして、孤独になると人は聞くことができなくなります

第1章 なぜ聞けなくなるのか p.079

あなたは問題の当事者で、当事者同士で関係が悪くなっています。そのとき、そこには孤独がひとつではなく、ふたつあります。聞く側も聞かれる側も孤独なのです。

第1章 なぜ聞けなくなるのか p.072

関係が悪くなっているときは、聞く側・聞かれる側の双方が孤独だ、という表現にハッとしました。

一方、「孤独」と「孤立」のちがいについても書かれています。

外から見ると同じです。孤独も孤立も、ぽつんとひとりでいる状態です。だけど、当の本人が内側から見ている心の世界は違う

第2章 孤立から孤独へ p.088

孤独の場合は、心の世界でも自分ひとりです。
心は鍵のかかる個室にいて、外からの侵入者におびえなくていい。だから、さみしくもあるのだけど、同時に他人に煩わされずに自分のことを振り返ることができる。
これに対して、孤立の場合は、心は相部屋にいます。
そこには嫌いな人、怖い人、悪い人が出たり入ったりしています。

第2章 孤立から孤独へ p.088

孤立の場合は、心に他人(しかも、嫌い、怖い、悪い…ネガティブな印象の人)があるという記述にも、過去を振り返って あぁ……と頷けました。

そして、「聞く」に絡めてこんな記述も。

孤立しているときには話は聞けないけど、孤独になれるならば話を聞くちからが戻っている

第2章 孤立から孤独へ p.090

佐渡島庸平さんの著書に『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE』とありました。孤独は必ずしも悪いものじゃないが、孤立はやはり気になります。「聞く」は、孤立と孤独の違いについてのバロメーターとしても機能するのかもしれません。

時間をかけて「小さいほうの声」を

孤立から孤独へ歩を進めるときに大切なものとして、心が複数あることを意味する「小さいほうの声」という言葉が印象的でした。

孤立しているとき、僕らの心は「他者は敵である」と思っています。少なくとも「敵かもしれない」と思っているから、誰かと一緒に居るのがつらいし、助けを求めるのが恐ろしくなって、他者を遠ざけてしまいます。
だけど、実はそれだけでもない。心のどこかで、つまりもう一つの心は「助けてほしい」とか「味方がいるかもしれない」とも思っている
その声はあまり大きくない

第2章 孤立から孤独へ p.108

この後者の声が「小さいほうの声」です。
そして、この声を聞けるようになるには、信頼関係が必要だし、そのためには時間がかかります。

繰り返し会うことの意味は、この小さいほうの声のかすかな呻きが徐々に聞こえるようになっていくことです。
(略)
でも、手ぶらで帰るのもなんだから、お母さんとその子の近況について話していると、「昨日は、先生がこられるというから、早く寝ようとしていましたよ」と言われる。
小さいほうの声が聞こえます。

第2章 孤立から孤独へ p.109

第2章の最後では「連鎖」について語られており、上に挙げた「小さいほうの声」を聞けるようになるためにも、孤立ではなくつながりの連鎖が必要になる、という主張に頷けました。

部下の文句を受け止めるには、上司自身がほかに善きつながりを持っている必要があるし、お母さんが子どもの話を聞こうと思ったら、お母さんの話を誰かが聞いていないといけない。
さらにはその誰かがお母さんの話を聞くためには、これまた別の誰かがその人のバックアップをしていなくてはいけない。
聞いてもらえているから、聞くことができる。つながりの連鎖こそが必要です。

第2章 孤立から孤独へ p.119-120

「聞く」と「聞いてもらう」の循環

そんなわけで、タイトルにもある「聞く」と「聞いてもらう」について。

「聞く技術」の本質は、「聞いてもらう技術」を使ってモジモジしている人に声をかけるところにあります。
「なにかあった?」と声をかけることで、話が始まります。
聞いてもらった人は少し回復し、危機を乗り越えることができるかもしれません。

第4章 誰が聞くのか p.236

あなたに可能なほうから始めるしかない
誰かの話を聞いてもいいし、誰かに話を聞いてもらってもいい。
どちらから始めても、「聞く」はきっとグルグルと回りはじめるはずだから。

第4章 誰が聞くのか p.240

「なにかあった?」と「ちょっと聞いて」。
結局の所、「聞く技術」と「聞いてもらう技術」の本質は、この2つの声かけに尽きるようです。

まとめ

以上、まえがき から 第4章までの言葉をピックアップさせてもらいました。
本書では、4章までに「聞く記述 小手先編」と「聞いてもらう技術 小手先編」を挟みつつ、その概念や背後にある考え方や事例が説明されています。

一方、聞く技術 聞いてもらう技術 の本質編は、あとがきで たった1ページに要約されています。

本書が秀逸なのは、著者 東畑さんがあえて【小手先編】を先に提示していることでしょう。「こんなの小手先だ」という感想を先にセルフツッコミした上で、「小手先とはいえ大切だよね」と思わせ、その上で【本質編】を最後の最後に超シンプルに用意する構成。しびれました。

企業内でも家庭でも、1対1の関係性のなかで片方が不満を持っていたり、何かうまくいかないと感じるときはあります。こんなとき、難しく考えすぎに、純粋に「聞く」「聞いてもらう」に注意を向け、小さな声かけを行うことで、職場も家庭も社会もきっと少しずつ変わっていくはず。そんな自信をもらった一冊でした。

本書は、「聞く」に関する一冊として、今後なんども振り返ることになりそうです。

参考:筑摩書房の特設ページ

(まえがきの試し読みページもリンクされています。未読の方はぜひ読んでみてください)

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