先発イレブン

なでしこジャパンの強化試合に伊賀FCくノ一を推したい!

 2019年11月2日、『プレナスなでしこリーグ1部』最終節。伊賀フットボールクラブくノ一は、ホームにタレント軍団・INAC神戸レオネッサを迎え、3-3の打ち合いの末に引き分けた。この結果により、伊賀は10チームで構成される、なでしこリーグ1部を4位で締め括った。伊賀にとっては2013年以来6年ぶりのAクラスでのフィニッシュと得失点差のプラス(+4)である。

 今季の伊賀は前人未踏の5連覇を達成した日テレ・ベレーザとは1分1敗、同2位の浦和レッドダイヤモンズレディースとは1勝1敗、同3位のINAC神戸とは1勝1分。“3強”全てから勝点を奪った。それも3強を相手に2倍以上のシュートを放つ試合をするなど、文字通りリーグ全体に旋風を巻き起こした強烈なインパクトを残したシーズンとなった。

なでしこリーグ1部2019最終順位表

 11月10日に開催された、『MS&ADカップ2019』対 南アフリカ女子代表戦に招集された、なでしこジャパンのメンバー全25選手中22選手(約88%)がこの“3強”所属の選手たちだ。現代表はこの3チーム所属選手が常時8割を占める構成である。

 2度追いや3度追いを苦にしない激しいプレスでボールを奪い、その勢いのままに迫力を伴ってゴールに迫る。そんな伊賀のアグレッシヴなサッカーに対して、代表選手たちが後手を踏み、とまどい、自分達のスキルを発揮できずに苦戦する姿が、今季のなでしこリーグでは何度も見られた。それは今年6月から7月にかけて開催された『FIFA女子W杯フランス大会』に出場した、なでしこジャパンからも見られた兆候だった。

定義が違う「伊賀流の攻撃サッカー」

中盤の攻防

 なでしこジャパンも、ベレーザやレッズL、INAC神戸も攻撃的なサッカーを志向している。彼女たちのサッカーは、概ね代表選手たちの高いクオリティによる「質的優位」と的確なポジショニングによる「位置的優位」を活かしたパスサッカーだ。ボールを保持していることが前提であるため、ボールを失うことはリスクだ。つまり、ボールを失うぐらいなら、バックパスを駆使して攻め直すサッカーだ。
 
 一方、伊賀のサッカーも攻撃的だが、その定義が違う。高いDFラインを維持するために相手ボールになった瞬間に激しく連動したプレスを発動し、ボールを奪いにいく前線の選手に合わせて後方の選手がコンパクトに押し上げる。これがハイライン・ハイプレスの基本だ。そして、奪ったボールは、まず相手の背後を狙う。少しパスがズレても、相手DFの体勢を崩したり、自陣側に後ろ向きの体勢となってボールを処理すればミスが出る。高い位置でのスローインやコーナーキックの可能性も出て来る。陣地の前進ができるなら、ボールを失っても構わない。

 そして、お互いの価値観で見た時、相手のサッカーは攻撃的ではないはずだ。“3強”からすれば、伊賀のサッカーは「ミスの多いカウンターサッカー」で、伊賀から見た“3強”も、「技術はあっても、なかなか前に進まないサッカー」だからだ。

 昨年から伊賀を率い、2部でリーグとリーグカップの2冠を達成。2年目のシーズンも1部昇格組ながら即4位と躍進したチームを率いる大嶽直人監督は、「自分達はボールを奪ったら、まず相手の背後を狙う。ゴール前でスピードを上げることで、攻撃に迫力を出してシュートまで繋げている」と、述べる。

 今季の伊賀はシュート数が特に多い。前半戦は全ての試合で相手を上回った。最終的にも相手の約2倍以上の本数を記録した。ただ、後半戦は9試合中4試合で相手よりシュートが少なかった。「勝ちで締め括るゲーム運び」を遂行したのだろうか?

伊賀FCくノ一2019戦績表

理想は「相手陣内を支配するサッカー」

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 伊賀と最終節で戦ったINAC神戸は、前回の対戦では0-1と敗れている。伊賀の激しいプレスに苦しみ、自慢の中盤での構成力や優位性を発揮できなかった。その反省からか、この日は中盤を省略するロングボールを伊賀DFラインの背後に蹴って来たところから3得点を奪った。

 そして、“3強”を相手に2勝2分2敗と互角の戦いをしながら優勝争いに加われなかったのは、下位チームに相性が悪かったからだ。最下位に終わった日体大FIELDS横浜とのホームでの第14節では20本のシュートを浴びせながら、僅か2本のシュートに終わった相手と1-1で引き分けた。引いた相手を崩せないことも課題として挙げられる。

 このように、すでに伊賀は他チームから研究されている。試合序盤からスペースを消して守りに徹するチームがあり、プレス回避のための中盤を省略するロングボールを使い、伊賀と同じ土俵で勝負を挑んで来るチームもいる。

 また、技術を重視している“3強”には調子の波がないのに対して、伊賀のサッカーには大きな波がある。第2節から5戦無敗(3勝2分)が始まったものの、中断期間をまたいでの4連敗。そこから8戦無敗(4勝4分)でフィニッシュするなど、攻守の切り替えの多いハイテンポなサッカーと同様、ジェットコースターのようなシーズンだった。伊賀のサッカーを支える無尽蔵の運動量や集中力には、コンディションが如実に関係してくるからだろう。

 それでも、「サイド攻撃ひとつでも単純にクロスを上げるだけでなく、インサイドを突く動き出しからワンタッチで崩していく攻撃も必要」と、大嶽監督はすでに具体的に“質”の問題として課題の解決策を述べていた。昇格1年目での好成績を挙げた手応えを感じつつも、悔しさもあるようだった。

 理想は、「相手陣内を支配するサッカー」で、昨年も攻撃時は「前線に5つのパスコースを準備している」(大嶽監督)と、<2-3-5>のような布陣をとるなど、「可変型フォーメーション」や「5レーン理論」など最新の戦術トレンドの要素を取り入れていたチームだ。出発点は違っても最終的な到達点は、なでしこジャパンや“3強”と似ているようだ。

日本の女子サッカーの課題と可能性

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「ゾーンを敷いて後ろ重心の守備をするチームが多く、すぐにゴール前を固められてしまう。技術があってもボールがゴールに向かわない。相手が戻りきる前に攻め込む必要がある。だから、ウチはまず相手の背後を突く攻撃をする。前に進んでゴールに向かう」

「守備とはゾーンを守ることではなく、ボールを奪いに行くこと。ボール中心になって、前重心にコンパクトになって、ボールを奪いに行く。それがそのまま攻撃の第1歩になる」

「チャレンジ&カヴァーという守備の基本原則も、チャレンジに行った選手の後ろにポジションをとっているだけではカヴァーとは言わない。チャレンジにいったこぼれ球を拾うのがカヴァーで、後ろを守っているだけでは脇のスペースが空いている。ウチはそういう隙を突いて数的優位を作って前に進んでいく」

 これらは大嶽監督の言葉だが、女子だけでなく男子も含めた日本サッカー全体の課題でもあるような気がする。

 伊賀のプレスはボールに対して仕掛けて来る強度の高いものなので、対戦相手が苦しむのは無理もない。ただ、伊賀のプレスを交わしてゲームをコントロールすることが出来てこそ、本物のパスサッカーだ。そんなチームの出現にも期待したい。

 伊賀のサッカーは日本の女子サッカーの課題を真正面から突いている。もちろん、課題=伸びシロであり、可能性だ。だからこそ、なでしこジャパンを強化する相手として、伊賀フットボールクラブくノ一を推したい!

♦伊賀フットボールクラブくノ一 今後の日程♦

集合写真

【皇后杯 JFA 第41回全日本女子サッカー選手権大会】
2回戦 VS新潟医療福祉大学
開催日時:11月23日(土)13時30分キックオフ
会場:上野運動公園競技場(入場無料)


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