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「At terrace」

袋小路に面する敷地には、古い平屋の住宅が建っていた。現在、建築学科に通うクライアントの娘さんは、その家を詳細に実測して図面を起こしていた。かつての曾祖父の家を記憶に刷り込むかのように。
永らく空き家となっていたこの家を解体して、新しい建築をつくる。当初は、近隣の工務店に相談されていたが、家族で話し合ううちに、何か意味のある建設行為にしたいと思い至ったそうだ。そこで、創造系不動産さんに相談をされ、娘さんが弊社を選び、設計を依頼された。

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賃貸の場合には、活発に動く時期があるため、設計作業はそこから逆算するかたちでスケジューリングされた。それはかなりタイトな進行を必要としたため、初期のうちに様々な可能性を同時に検討していった。同じような規模の2軒を並べる案、半地下を掘って3層の構成とする案などが検討されたが、敷地の法的条件とコストバランスなどから、規模の違う2軒を、2層構成で計画していくこととなった。この企画段階のプロセスでは事務所の内部だけではなく、創造系不動産さんとクライアントの娘さんもミーティングに参加していただきながら条件整理を行った。
 敷地に対しての有効面積は建ぺい率ギリギリのボリュームを確保できるように調整し、長屋の敷地内通路と、南側の避難可能スペースを確保。高さ方向については、道路斜線を天空率でクリアーしたことで、北側の高度斜線がボリュームを決める最大要因となった。そこで、北側(主に水廻り)の床と南側の床レベルをスキップさせることで、厳しい部分を「使える」ボリュームに調整した上で、それ以外の部分に大らかな空間をもたらす構成とした。
1階の床を基礎立ち上がりよりも低く設定することで、1階の天井高は2.8mを確保し、2階は屋根型がそのまま内部になり、高いところで約3.4mの大きなボリュームとなっている。

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 また、もう一つ重視したのはテラスとLDKの関係である。南側にそれぞれ設けた専用テラスにはRCのベンチが造りつけられ、それが内部空間まで連続していく。それは積極的に外でも過ごすことができるための「しつらえ」として。

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「二軒長屋が、一戸建てになったとき」。
それは、この賃貸住宅が、いずれ家族の誰かが住む一軒の住宅になること。その可能性を保つために、界壁には何カ所か構造計算から外した部分がある。
条件のなかで、できるだけ豊かな空間をつくり、その居心地を味わってもらえること。
その建築をまた違ったかたちでも引き継げること。
それが、この長屋を設計するにあたっての通底するテーマであった。

                           / 廣部剛司

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※内覧会は 3/28(土曜日)に予定されています。入居を検討されている方も、建築関係者も対象としております。お申し込みは下記フォームよりお願い致します。


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