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対談Q水野良樹×Tehu 第4回:観たあと何をすべきかってところに目が向くようなエンタメ。


カリスマって必要なんですかね。

水野:みなさんもチームラボのお台場とかにあるやつ、行かれたことありますかね。僕も子どもを連れて行ったりしたんですけど。大事な点は、その入場者が作品の一部になっていくという構造。僕が手を動かしたことによって、そこにいる魚が動いたり。それまで観客と言われているひとが、ひとつの要素にならざるを得ない。それって音楽に当てはめられないかなって思っていて。

Tehu:うん、うん。

水野:たとえば神事において、音楽はそれを補強していくけど、観客である状態、受容者である状態は変わりない。だけど、もし自分自身が音楽になったらどうなるんだろうって。

Tehu:自分自身が音楽になる。

水野:簡単なアイデアだけど、部屋に入った瞬間に自分の身長に合わせて音が変わるとか。僕という要素が音楽に影響を与えるというエンタメを作ったら、必ずそのひとがいないとその作品にはならないものが、いくつもこの空間では行われる。

Tehu:うん。

水野:空間にいる僕ら全員が音符になっているみたいな。その関係性がひとつのエンタメに昇華されている。だけど商売にはならない。

Tehu:そういう意味では、チームラボってあれを商売にしているからすごいですよね。技術者からすると、あの技術自体は大したことないんですよ。基本的なセンシングをして、身体がどこにあるか見て、それに合わせてCGを生成する。そのアプローチ自体はすごくシンプルなんだけれども、まさにおっしゃったように、それに取り込まれる感覚みたいなものが彼らの持ち味で。それをビジネスにできているわけですもんね。

水野:ビジネスとして成立しているってことは、もうちょっと柔らかく言うと、誰でも理解できるところまで落としてくれているってことだと思うんですよね。

Tehu:その時代に、カリスマって必要なんですかね。

水野:必要ないと思う。

Tehu:ないですよね。僕らは、チームラボの猪子さんを知っているじゃないですか。でも、入り口の前に並んでいるひとに、「猪子さんって知っていますか?」って聞いても多分、知らない。それで成立しているわけで。

水野:音楽もそうですよ。誰が作った歌かなんて、最終的には関係なくなるから。そこにたどり着かないとダメですよね。

Tehu:それはでも結構ハードですよね。さらに言うと、水野さんはCDが売れるどころか、個人として名を挙げられる最後の世代である可能性すらある。

水野:あるかもしれない。

Tehu:そこで名を挙げたひとりである水野さんがこれから、個人が目立たない構造みたいなものに突き進んでいくのは怖くないですか?

水野:そこは逆にずるいですよね。個に利益が集まる形の世代だからこそ。一旦ヒットして、個人の生活ぐらい保てるって状態になったひとがそれをやるのはずるい。

Tehu:なるほどー。ずるさ。

水野:まぁもっとおもしろいものが出てくるんじゃないですかね。どうしても根本に触れていっちゃうのはよくないかもしれないけど、そこに可能性を感じるんですよね。根本におもしろさがある気がする。


水野さんがいつもライブの最後におっしゃっていたこと。

Tehu:さっきの水野さんの話だと、たとえば、この部屋に入ってきたときの入力が複雑になってくるとおもしろみって増すと思うんですよね。「入ってきたひとの性格に合わせて音が変わります」とか。「入ってきたひとが、去年何回ひとに見られないところでポイ捨てをしたかによって音が変わります」とか。

水野:「あいつイヤなやつだ!」って。

Tehu:そうそうそう。昔、オーストラリアかなんかでタバコの吸い殻についている遺伝子を分析して、捨てたひとの顔を推測するみたいな現代アートがあって。

水野:えー! おもしろい。

Tehu:プライバシーの面から賛否両論ではあったんですけど。おもしろいですよね。そういう要素も組み合わせながら。単に自分の身長とかだけだと、大人になると身長変わらないから。僕、身長196cmあるんですけど。

水野:デカ!

Tehu:その展示に行くたびに、低い音が鳴り続けるみたいなのはつまらない。だけど鳴った音によって、「自分はもっと音をこう変えたいな」って思って、その展示から外に出たときに何か行動を変えるとか。そういうのに繋がっていくと、すごいエンタメっぽいなって。もうエンタメの次のレベルにいっているかもしれないですよね。ドイツの劇作家でベルトルト・ブレヒトってひとがいて。

水野:はい。

Tehu:彼はそれまでの演劇やオペラをめちゃくちゃ批判したんですよ。その場で感動して泣いて、「発散したー! 楽しかったー! おうちに帰ろう!」はダメだって。演劇というものは、社会の課題とかを炙り出して、ある意味、気持ち悪い気分にさせて。劇場を出てから、「自分の行動を変えなきゃ!」って思わせないと演劇ではないんだって。僕それすごく共感して。そういう意味では音楽って、比較的カタルシスだと思っていて。

水野:そうですね。

Tehu:一方で、水野さんがいつもライブの最後におっしゃっていたこと、すごく印象に残っているんですよ。水野さんはそんな直接的には言わないですけど結構、社会問題とかを意識されていますよね。「みなさん、家に帰ってから、次のライブまで健康で」って言いつつも、「家に帰ってから、この1年間どう過ごすか」みたいなところをちょっと意識させることを必ずおっしゃっていたんですよ。

水野:はい、はい。

Tehu:それはすごく繋がる気がしている。そこに意識が向くようなエンターテインメント。逆に「広場」だとやりやすいかもしれないですよ。めちゃくちゃ多くの属性のひとが集まるはずなので。



水野
:そうねぇ。いやぁ…。結構今日はたくさんのヒントをもらった気がします。

Tehu:本当ですか! いやぁでも、とりあえず何かひとつ作りたいですね。そのひとのちょっと身につまされるようなことを教えてくれる。

水野:Tehuさんが何度も言ってくれるけど、規模を落として小さなものにすることで、できることってたくさんある気がします。僕は根本に戻っちゃって、話をややこしくさせているけど。


エグい『トゥーランドット』を実現させたい。

Tehu:でも根本に戻ったからこそ、今の話ができているんですよ。僕、大学の卒論でオペラの研究をしたんです。そのとき題材にしたのが有名な『トゥーランドット』で。まさにあのオペラって、観て、みんな感動して帰ってくるんですよ。「いい話だった」って。でもあれ、全然いい話じゃないんですよ。冷酷な女王さまが、ひとを殺しまくっていたんだけど、そのひとがなぜか最後に一度口づけだけで改心するって話で。

水野:(笑)。

Tehu:しかも、口づけした王子さまのことを慕っていた下僕の女性が殺されているんですけど。王子さまはその子に目もくれず、女王のところに行って口づけをするっていうヒドイ話なんです。だけど、みんな音楽で誤魔化されているのもあって感動して、多分どこかで、「このオペラという芸術を楽しめている私、すごいな」とか思いながら家に帰っていく。さっきのブレヒト的に、「ふざけるな!」っていうエンタメになっていて。

水野:はい。

Tehu:それをなんとかできないかと考えたんです。ただ、あれってもう何千年前の中国を舞台にしたおとぎ話で。なかなか社会問題に繋げづらいと思っていたんですよね。だけど当時、作者が書いていたときの人生経験だったり、台本の細かいところをよくよく読んでいくと、めちゃくちゃ現代だなって思うところがたくさんあって。

水野:あー。

Tehu:たとえば、国を治めるひとたちの話なので、民衆がコーラスでたくさん入っているんですけど。民衆って、ころころ意見が変わるんですよ。最初は、「そうだそうだ! 行け行け!」って言っていたのに、いざ女王さまが出てくると、「あんなやつはダメだ!」「今すぐに殺してしまえ!」とか言う。そうやって民衆が意見をころころ変えることによって、下僕の女のひとは亡くなっちゃったのもあるんですよね。めっちゃ現代じゃんと思って。

水野:現代ですね!

Tehu:となると、あるべき『トゥーランドット』の演出って、感動で終わらせるんじゃなくて、その民衆たちのエグさを現代でも理解できる方法で表現して、「マジ民衆エグない? ヒドない?」って思って帰ってもらうのが大事。たとえば、みんなのスマートフォン連動させて、自分も民衆のひとりになった感覚で幕間の休憩時間にその登場人物の悪口を言うとかね。

水野:おもしろい。

Tehu:で、その結果、2幕で死んじゃったとか。罪の意識が自分に残るとか。そういう演出をしていかないと。

水野:批評性が高い。

Tehu:だからこそ、そこで何か感じたひとが家に帰ってから、「学校現場でのイジメをどう防止するか」って話をしてくれるかもしれないし。「この素晴らしき世界」って言葉がありますけど、世の中って全然素晴らしくない。ヒドイことばっかり起こっているわけだから。もちろん感傷に浸る時間も大切だけど、観たあと何をすべきかってところに目が向くようなエンタメ。あくまでもエンタメ。説教になっちゃいけない。そのいい感じのラインを見つけ出したいんですよね。

水野:もっと難題が出ちゃった。

Tehu:で、『トゥーランドット』は2時間半のオペラなんですけど、僕は卒論でこの演出プランを2時間半分全部作ったんですよ。だから僕の夢は、今20代でITの仕事でしっかり成果を出すこと。そして30代でこのエグいオペラを実現して、みんなをエグい気持ちにして家に帰らせてあげたい。それがゴールではないですけど、「今」できるベストなことなんじゃないかなって思うんですよね。

水野:非常にややこしい話もたくさんしましたけれども。根本に戻ったり、具体に戻ったり、かなりいろんなテーマが出たんじゃないかなと思います。

Tehu:でもやっぱり水野さんは普段、いろんな曲を作られていますけど、裏ではこれだけ苦しんで考えているっていう。

水野:全然形になってないけどね。

Tehu:いやいや、それだけでも伝わってほしいなって。僕の当時、いきものがかりファン仲間だった子たちにこのYouTubeのリンクを送ってあげようと思います。観てねって。

水野:「またあのひと、なんか七面倒臭いこと言っているんでしょ」みたいな。でも結局それは返ってきますからね。いきものがかりが、自分がやる社会運動としてはいちばんデカいものだと思いますね。

Tehu:いきものがかりが再来年ぐらいにいきなりすごい後味悪いライブやり出したら、僕は困るんですけど(笑)。

水野:そんなことはない(笑)。

Tehu:みなさんご安心ください! でもまぁこういうことを試行実験して、「やれる!」って思ったタイミングでやることが大事ですね。

水野:そうですね。さぁ、そんなわけで。また来てくださいね。ぜひ、この続きを。

Tehu:いつでも、ぜひ。

水野:今日のゲストはTehuさんでした。ありがとうございました。

Tehu:どうもありがとうございました。


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