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読む『対談Q』 水野良樹×東畑幸多 第4回:最後は感動のストックが役立つし、人生的にもおもしろい。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはクリエイティブディレクターの東畑幸多さんです。

前回はこちら


自分が何に心を動かされるかを知る。


東畑:自分が何に心を動かされるかを知るって、楽しい行為というか、趣味として感動を集めていると思うんです。たとえばM-1で去年、錦鯉さんが優勝して、Twitterに「ライフ・イズ・ビューティフル」と書かれて、おじさんふたりで抱き合っているみたいな。ああいうものに感動する。パブリックイメージと違う姿が見えるというか。

水野:はい。わかります。

東畑:あと、宇多田ヒカルさんの最近のジャケットで、お子さんが見切れているみたいなものがあったんですけど。お子さんがいないと、ただのアーティストのジャケットなんですよ。お子さんがいた瞬間に、「あ、お母さんで、自分と地続きのひとなんだ」って垣間見えて、なぜか心を動かされるとか。

水野:ああー。

東畑:仕事に役立てようと思って集めてないんですけど、最後は感動のストックが役立つし、人生的にもおもしろいというか。


東畑:今日もたまたまインタビューで、車イスのレーサーの方に会って。彼が日本で事故に遭ったとき、最初は日本の医者に「もうあなたの両脚は動かないので、とにかくリハビリを頑張りましょう」って言われて、すごくつらかった時期があったと。でも、アメリカにそういう治療の有名な医師がいて、会いに行ったら、「何したい?お前。なんでもできるぞ」っていきなり言われて。

水野:すごい。

東畑:「何したい?」って言われたのが、すごく原動力になったみたいな。さっきの「ありがとう」に近い。

水野:急にパっとひらかれるわけですね。

東畑:そのエピソードをさっき聞いて、素敵だなと。

水野:僕、『バビブベボディ』っていう臓器を紹介する番組に、「ゾゾゾゾーキ」っていう臓器の歌を作ったんです。先ほど話題にあがった、細川美和子が歌詞を書いてくださって、僕がそれに曲をつけるっていう企画で。あれ子どもたちにすごく人気で、幼稚園の息子の友だちも好きで、「あれ、君のパパが作っているんだよね?」って言われるみたいな。

東畑:はい。

水野:僕、「臓器の曲ってなんだろう?」って思いながら、壮大な曲を作っちゃったんですけど。細川さんの歌詞で<しぬまでいっしょに いるからね>って言うんですよ、臓器が。

東畑:なるほど、なるほど。

水野:当時、僕はまだ息子が生まれたばかりで。だんだん大きくなって、おそらく僕のほうが先に死ぬじゃないですか。それは常に感じているんですけど。で、多分、自立していく。だから、その<しぬまでいっしょに いるからね>って言葉に、なんかグッとくるんですよね。自分の身体というか、願いというか、そういうものがどこかに入っていると、感動するんだなって。

東畑:はい。

水野:今お話されたエピソードもそうで、アメリカの医師の方の、「なんでもできる。すごくハッピーじゃないか」っていう世の中の見方が誰かを救うみたいな。そこに個人的な思いをバッと出すと強いんだなって。


おじいちゃんにとって、自分は未来だったんだ。


東畑:今、サントリーの企業広告が、「ぼくたちは、素晴らしい過去になれるだろうか。」っていうキャッチコピーで。SDGsとかがテーマなんですけど。未来が自分の後ろにあるというか。子どもって自分の未来じゃないですか。大人が本当に次、いい過去になっていかなきゃいけないんだ、みたいな。そういうことに気づいたきっかけが、『ファミリーヒストリー』ってNHKの番組で。

水野:はい、はい。

東畑:有名なタレントさんとか役者さんのおじいさんや、もっと前の世代の方がどういうひとだったか歴史を探る番組で。自分のルーツを見たとき、おじいちゃんにとって、自分は未来だったんだって気づく。それは自分に子どもが生まれたときも思ったんです。

水野:うんうんうん。

東畑:たとえば、最初はトイレもできないわけじゃないですか。「あぁ、俺も教わったんだな」とか。身体を洗っているときに、「あぁ、俺のこと洗ってくれていたひとがいたんだな」とか。自分がおじいちゃんの未来だったと知ると、「頑張ろう、ちゃんと生きよう」みたいな気持ちになる。子どもが生まれて初めて、自分の記憶が残ってない時代のことが見えてくる。そういうのがおもしろいですよね。


無記名なものと属人的なものが合わさったところ。


水野:おもしろいですねぇ。さっきおっしゃった「賑わい」って、無記名じゃないですか。熱狂ってなると、カリスマがいて、そこを中心に渦を巻いている。でも賑わいって、みんなワイワイしているから無記名。でもそこにちゃんと個人がいないと、賑わいは生まれなくて。

東畑:はい。

水野:僕ら人間も実は、無記名な物語のなかにいたり、属人的な物語にいたり、どっちともいえるというか。明確に祖父や祖母はいて、ひとがいるじゃないですか。

東畑:ええ、ええ。

水野:『ファミリーヒストリー』みたいにたどっていけば、しっかり顔が出てきて、「こういうストーリーがあったんだ」って思う。でもひいひいじいちゃんのことは知らない。だけど、ちゃんとそこに伝わってきている。だから、無記名なものと属人的なものが合わさったところにパワーが生まれるのかなって。こないだ、祖母が死んだんですよ。

東畑:はい。

水野:大往生で、老衰で亡くなったんですけど。祖母の葬式のとき、父とか親戚の叔母とかが、ひいじいちゃんの話をし始めて。僕、ひいじいちゃんの写真しか見たことないんですよ。仙人みたいな。

東畑:なかなか見ないですよね。

水野:ひいじいちゃんは職人だったらしくて。もっというと、岐阜のほうで陶器とかを作る職人がいて、それが水野っていう家で。そこから出てきて、石の職人になって。

東畑:そうなんですね。

水野:「この墓もじいちゃんが選んだ石なんだよ」「えー!」みたいな(笑)。急に自分のなかにストーリーができていく。うちの祖父もいろんな僕の知らないストーリーを持っていて、「そうかぁ、これ聞かなかったら歴史から消えているんだな」って。

東畑:うん、うん。

水野:そういうのが人間のおもしろさで。言葉もみんなひとりひとりが言っているけど、無記名なままずっと伝わっていくというか。そこに僕らはおもしろさを感じているのかもしれないですね。

東畑:小説も水野さん書かれましたよね。それはどういうアレだったんですか?

水野:いやぁ…あれはどういうことなんでしょうね。今まで言ったことと全部矛盾しちゃうかもしれないんですけど。書きたくなっちゃったんですよね。で、書いているうちに、大きな物語を書くことや、虚構の世界を立ち上げることが、実は結構いろんな社会と接続できるんじゃないかとか。

東畑:うん。なるほど。

水野:個人的な考えをもうちょっとビビッドに入れられるんじゃないかって。あと書く行為が自分をもう1回、整列させることにすごく影響があると気づかされて、楽しくなっちゃったんですよ。本名の水野良樹は、もう自分っていうものから虚構性を帯びているというか。グループの影響もあるし。

東畑:あぁー。

水野:世の中に顔や名前を晒して。でもスーパースターになっているわけじゃないから、普通の生活もあって。全部が混ざっちゃっているんですね。本名が虚構性を帯びているから、もう虚構を作っちゃえって。

東畑:おもしろい。そうなんですね。

水野:そこをぐじぐじとやっているところで、あの小説があるんですけど。

東畑:もうひとつ名前を持つのもおもしろそうですね。

水野:おもしろいと思いますね。親からもらった名前を変えるから、なんか血が通っていたほうがいいなと思って。実際、両親とか自分の血が繋がっているひとたちの名前をもじって、あの名前なんですよ。だからなんか自分が入っている。でも人間って虚構みたいなものなんだなって思ったりもしていて。それをひとつ立ち上げたいみたいな。いろいろやっております。いやぁ…ちょっと話が長くなり。ありがとうございます。

東畑:すみません。

水野:いやいや、ありがとうございます。またちょっとお話を伺えたらいいなと思っています。

東畑:全然、この問いの話になってなかったですけど。

水野:かすったり戻ったりして。でも僕も息子さんと同じように、「独立してどうだったか聞かせてほしい」みたいな気持ちがすごく生まれました。今日は東畑幸多さんにお越しいただきました。ありがとうございました。

東畑:ありがとうございました。



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