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読む『対談Q』 水野良樹×東畑幸多 第3回:広告は賑わいを作るのが存在意義。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはクリエイティブディレクターの東畑幸多さんです。

前回はこちら


本物の笑顔はひとに力を与える。


水野: 僕、震災のときにJR九州の新幹線のCMを観て、思わず泣いてしまったんですね。で、東畑さんに会うので久しぶりに観たんですよ。やっぱり泣けるんですよ。状況が変わっても、自分の人生が変わっても、あるいは社会状況が変わっても、変化しない感動がある。あそこには普遍的な何かがある。

東畑:2回作れと言われても、作れないものってあるじゃないですか。いろんな偶然も重なって。それに近いものですね。ただ、本物の笑顔はひとに力を与えるんだろうと思います。本当に新幹線を迎えるために沿道に並んだひとたちの姿を、ただ撮っているんですけど。あれだけたくさんの笑顔を見るって、すごく力があるというか。

水野:本当にストレートな言葉しか乗ってないのに、ズシズシくる。たとえば、歌詞を書いていると、「誰も考えつかないようなフレーズを言ってやろう」ってどうしてもなるんです。でも意外と、自分たちの曲で恐縮ですけど、「ありがとう」っていう誰でも考えつく言葉がいちばん届いちゃったとか。

東畑:うん。

水野:わかんないなぁって。3%の“わからない部分”がめちゃくちゃ濃く届いてしまった。何なんですかねぇ。

東畑:よくわかります。「ありがとう」もそうですけど、ある意味、普通の言葉なんですよね。それがすごい力を持つ。そういうものをもう1回、再生してみたい気持ちは常にありますね。


車窓のほうにこそ物語がある。


水野:でもあれって、仕掛けてできるものじゃないですよね。もちろん広告として、ちゃんと届くようにみなさん考えているけど、多分その想像の上を行っちゃったと思うんですよ。やっぱりそこには属人的なものがないと。あそこで並んだり、手を振ったり、追いかけたり、めっちゃみんな楽しんでいるじゃないですか。あれはシステマティックなものだと作れない。


東畑
:ああいう企画も、感動の記憶を持ち寄ることがヒントになっているんです。アートディレクターの方が持ってきた、ポール・フスコっていうカメラマンの『RFK』って写真集で。

東畑:ケネディー大統領の弟さんがいて、その方も暗殺されちゃったんですけど、その遺体を乗せた列車の車窓をずっと撮った写真集。アメリカが悲しみに暮れて、みんなが敬礼している。

水野:はい、はい。

東畑:普通は電車を撮らなきゃいけないんですけど、車窓のほうにこそ物語があるというか。九州の魅力も、別に電車のほうにあるんじゃなくて、電車から見た逆側にあるみたいな。車窓って、個のドラマを見る以上に何かドラマを感じる。それは夜の帳の明かりを見たほうが、そこに家族を感じるみたいなことに近い感覚で。

水野:うんうんうん。

東畑:そういう写真集が元ネタとしてあって。悲しみに暮れるアメリカの逆バージョンとして、喜びに沸く九州を撮ろうってなったんです。「ありがとう」を作られたときは、どういうルートで?

水野:何もわかってなかったですね。ただ、車窓を見るって感覚は今、「あ!」って思って。こういう仕事をしているので、ツアーとかで電車に乗る機会が多いんです。でも、僕いつも怖くなっちゃうのが、夜の電車に乗っていると、マンションとかが見えて、明かりがついていて。なんとなく照明や家具の形が見えたりする瞬間ありますよね。

東畑:はい、はい。

水野:そこでは下手したら何十年も暮らしが行われている。そこで生活しているひとは、部屋のどこに何があるかわかっていて、思い出が詰まっていて、膨大な情報がそこにある。と思ったら、すごく怖くなるんですよ。僕の知らない世界がいくつもあるって。

東畑:なるほど。

水野:でも、あの新幹線のCM、マンションの洗濯物とかあるところから手を振ってくれているひととかいるじゃないですか。「繋がったー!」って思って。これはすごい感動で。生活しているひとがいて、そのひとたちが笑顔でいてくれるっていうのは、安心したっていうか。

東畑:なるほど、なるほど。


商売を超えた3%


水野:で、「ありがとう」の話になるんですけど。作ったときはまったく想像してなかったんです。よく、わからず作った。だけど、「自分はこの曲をこういうふうに使いました」とか「死んだ母の葬式の出棺のときに流したんです」とか、曲を聴いた方のエピソードをあの曲ほどたくさん聞いたことがないんですよ。

東畑:うん。

水野:聴いてくださった方のストーリーがひらけた瞬間を、あの曲ほどいただいたものってあんまりない。そこですごく僕は幸せをいただいて。そこの線ができると強いというか。今お話していることと通じるのかなって。

東畑:まさに、何かが届いた。そういう感覚なんですね。そのひとの物語になったっていう。

水野:そうですね。これよく言うんですけど、どこかのパーティーにたまたま出たときに、僕より上の世代の女性の方がパーって来て、泣いていらっしゃるんですよ。ファンの方かなと思ったら、そうじゃなくて。実は、ずっと一緒にいたパートナーの方が病気で亡くなられたらしくて。

東畑:はい。

水野:ふたりともいきものがかりが好きで。「最後の病室の時間でずっと聴いていたんです」と。その時間で彼と別れる心の準備ができて、聴くと思い出せる。だから「いつか会えたら、そのことを伝えようと思っていました」って言われたときがあって。そのひとにとっては、とてつもなく人生のなかで大事な時間で。大事な物語で。

東畑:はい、はい。

水野:僕や、いきものがかりがどうとか関係なくて。そっちに価値がある。そこに触れられたって、もうそれだけで作った意味があると思わせてもらえた。広告ももちろん、企業や商品やブランドのイメージをアップさせるとか、何かメッセージを伝えるって役目はあるけれど。そこを超えたところで、「あの広告を見て、自分もちょっと前に踏み出そうと思った」って。ある種、商売を超えた3%というか。

東畑:そうなんですよね。僕、広告は賑わいを作るのが存在意義なのかなって思っているんです。会社の大先輩に小谷正一さんってプロデューサーがいるんですけど。

水野:はい、はい。

東畑:水野さん、本をあげられていましたよね。

水野:はい。もうめちゃくちゃビンビン来ています。

東畑:その方が僕はすごく好きで。厳島神社という、鳥居が海に出ている神社があって。鳥居が陸にあったらただの神社なんですけど、海にあることでその先の島がすべて神域になる。1000年経ってもひとが来ている。それを誰が考えたか調べたんだけど、結局わからなくて。

水野:はい。

東畑:でも誰か会議で、「鳥居を海に出そうぜ」って言った。そういう仕事がやりたい。と、小谷さんが書いていて。僕はそのエピソードをいつも心に置いているんです。賑わいができるって、ひとを魅了すること、ひとの心を揺さぶることだと思っていて。広告って、なかなかそういう仕事だと世の中に捉えられないですけど、そうあってほしいんです。

水野:ああー。

東畑:新幹線のCMに関しても、別に目的としては新幹線を映せばいいって話でもあるんです。ただ、九州と関係ないひとが見たときにも、「元気になりました」とか言ってもらえたら、喜びに変わる。誰かの大事な物語になったとか、何かを左右してありがたかったとか、生きる力になったみたいなことって、自分が役立ったみたいな感覚で、力になる。そういうことを大事にしたいと思っていて。だから、届かせることも考えなきゃいけないんですけど、自分が何に揺さぶられるのかを知ることも大事だなと思いますね。


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