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読む『対談Q』 水野良樹×東畑幸多 第2回:説明できないような3%を意図的に作っていく。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはクリエイティブディレクターの東畑幸多さんです。

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時代の後ろ側を歩くひとに寄り添う想像力。


東畑:企業広告をずっと作っているんですけど、少し前は、「時代を変える」とか、「世界を変える」とか。

水野:どーんと。

東畑:そうなんですよ。時代の先頭を走りたがっていたんですけど。今って大きな規模が信じづらい時代だなと思っていて。

水野:なるほど。

東畑:生きることを支える小さな希望を、どうやって見つけていくか。ある意味、時代の後ろ。ひとの心ってそんなに早く変化についていけないじゃないですか。コロナ禍になった。デジタル化がどんどん進んでいく。ついていけないひとのほうが多い。そういう、時代の後ろ側を歩くひとに寄り添う想像力も今、すごく大事で。

水野:ああー。

東畑:HONDAの企業広告も昔、ONE OK ROCKさんが出ていたCMとかは、「Go, Vantage Point.」っていうキャッチコピーで。自分をもっともっと連れ出すんだみたいな。

水野:はい。

東畑:たとえば自分のTwitterの検索ワードって、大体決まってくるじゃないですか。そういうところから自分を連れ出していくことが大事だと。「踏み出す」みたいな言葉で。でも今は、企業のひとと話して、「きょう、だれかを、うれしくできた?」っていうコピーに変わっているんです。

水野:はい、はい。

東畑:HONDAはエンジニアの会社で。エンジニアって自分の胸のドキドキを信じる、自分の声を聞くみたいなことが似合う企業だった。でもすごい人数がいるなかで、もっと目立たない仕事もたくさんある。そういうひとたち全員が「胸のドキドキを信じること」に対して共鳴できるかというと、なかなか難しい。

水野:なるほど。


東畑
:でも、「きょう、だれかを、うれしくできた?」って、仕事でも日常でもいい。そういう言葉のほうが企業にとっても必要だったりするんですよね。より具体的に届ける相手の顔を想像する。情報が溢れているからこそ、みんなに大ヒットすることを意図的に仕掛けるのはなかなか難しくて。ひとりに手渡すとか、握手するみたいな感覚が大事になっているのかなって思っています。でも、水野さんも作詞こそ手渡しな作業ですよね。

水野:ああー、たしかにそうですね。広告と近いのは、まったく違う価値観や生活実態を持ったひとたちに届くというところで。だから、「どうぞご自身の解釈で」って言っているんですけど。裏返せば、どうとでも取れてしまう怖さもあって。だから、手紙を渡すというより、古い話ですけど、海辺で瓶に手紙を詰めて送るような。

東畑:そういう感覚。なるほど。

水野:一時期、僕は「器」みたいな言葉を使っていて。僕の属人的なものは歌に入らないほうがいいと。個人の価値観が入ってしまいすぎると、逆に受け取りにくいんじゃないかって思っていたんです。

東畑:ええ、ええ。

水野:でも、堂々巡りを繰り返して、自分の何かしらの願いみたいなものがないと、どうやら不特定多数に伝わらないらしいという経験則が。

東畑:なるほど。

水野:それで先ほど、「誰かひとりを想像することが大事」ってお話で僕が思ったのは、発信する側も自分を打ち出していかないと、やっぱり1対1にならない難しさがあるなって。だからこそ大きな組織に、あまりに大きな言葉でやられちゃうと、ひとりにフィットしないんだろうなと感じて。


企画を持ち寄るんじゃなくて記憶を持ち寄る。


東畑:本当に。こういう言い方するとアレですけど、広告って死んでいくアイデアを見続けるみたいな。

水野:ああー。

東畑:とにかくたくさんアイデアを考えて、クライアントさんに提案して、「これは違う」といろんなひとに言われ続けるのを見続ける。だから、あんまり感受性を豊かにしすぎると、おかしくなっていっちゃうんですよね。自分が作った料理がいつも、「マズい」って言われるみたいな(笑)。

水野:はい(笑)。

東畑:そういうところに自分を入れていくと、病気になるんじゃないかと思ったときもあって。

水野:ですよね。

東畑:とはいえ、自分と仕事が繋がってないと、ルーティンワークになっていくんですよ。ある部分は楽になるんですけど、ある部分は楽しくない。だからスタッフで企画するときに大事だなって思うのが、企画を持ち寄るんじゃなくて記憶を持ち寄ること。

水野:ああー。

東畑:課題は課題であるんですけど、それとは別に、「自分は最近こういうものに心を惹かれた」とか、「こういう問題がすごく気になった」とか、「過去にこういうものに揺さぶられた」みたいな。そういう記憶も一緒に持ってくることがとても大事で。

水野:はい。

東畑:広告ってめちゃくちゃロジックで作られるんですよ。すべてを説明する。ただ、説明できないような3%を意図的に作っていくことも必要で。それが個人の感動の記憶とかで、自分がそこに関わるという意味で大事。そういうものが意外とロジックをマジックに変えるというか。大事なエッセンスになったりするんです。

水野:僕も個人っていうメディアをなめちゃいけないなって気はしていて。PCやスマホを開けば、膨大な情報量に出会えると思っているけど、「意外とお前の人生のほうが豊かだよ」みたいなことはもう1回見直さなきゃいけないんだろうなって。それが先ほどおっしゃった、論理とか経験則では語れない3%というか。論理を要求される宿命にあるけれど、でも伝わる場所は論理を超えたところで。

東畑:難しいですよね。フェロモンを作るみたいな。

水野:なるほど(笑)。

東畑:どうやって作っていいか、いまだにわからないんですけど、それをずっと探しています。あと、働くって自分が喜ばれることも大事だけど、自分が喜ぶことも大事で。その重なる部分で働いたほうがハッピーじゃないですか。

水野:はい。

東畑:とくに組織にいると、自分が何に喜びを感じるかって、結構マヒするというか。全然わからなくなったりするひとが多いんですよね。そこを無視しないほうがいいなって。

水野:ああー。

東畑:仕事として関わるとき、自分も喜びたいなって思っていて。それが会社をやめた理由かもしれないです。もしかしたらその気持ちと大きな組織との部分がズレてきたのかもしれない。


「東畑さんは先が見えない側に戻ってきたんですよ」って。


水野:逆に僕、この仕事をたまたま運よくできるようになって、「好きなことを仕事にしている」って言われ続けているんですよ。

東畑:ああー、なるほど。

水野:そのときに感じる、このモヤッとした気持ちを整理できないまま今もいるんですけど…。20代のときに、ありがたいことに多くの方に知っていただいて、聴いてもらえるようになって。30代前半の頃には、自分のなかにも、「チームに喜んでもらいたい」「チームのために頑張りたい」って思う気持ちがあって。

東畑:はい。

水野:まぁそれが空回りしていくこともたくさんあったんですけど。そのなかでマヒしていくというか。「自分のためにやっているんじゃない」と言うことで、自分を保っていたみたいな。

東畑:なるほど。

水野:非常に生意気な時代が30代前半はとくにあって。そこで多分、挫けたんですよ。

東畑:うーん。

水野:それほどの力はなかったし、そもそもなんか間違っていた。で、ある時期、休みをいただいたときに気づいたんですけど。いい意味でも悪い意味でも、お仕事でやっていたつもりのところが、「そうじゃないかも。作ることが好きなのかも」って意外と素直になる瞬間があって。「作ることで自分を救っていたのかも」って。

東畑:はい。

水野:そうなったとき、発想の転換があったんです。「自分のためにやっている」と素直になることで、もうちょっと作品に強度ができるというか。実はそっちのほうが届くかもみたいな。そこと今の東畑さんのお話が近いような気がしました。その塩梅は本当に難しいけど、葛藤しているほうがいいのかなって。どっちかに振り切ると途端に間違えるような…。

東畑:そうですね。不安定とか不安みたいなことが、大事な気がします。全然関係ないんですけど、学生時代から知っていて、「電通とか広告っておもしろいよ」って誘った会社の後輩に、自分がやめるとき、「ごめんな、誘ったのに、俺やめちゃうわ」って言ったんですよ。そのとき、同世代とか上のひとには反対するひとが多かったんです。でも、まだ5~6年目の若者は、あと40年間も同じ会社にいるなんてもともと想像もしてないんですよね。

水野:はい、はい。

東畑:で、その後輩が、「以前、学生の僕が悩み相談に行ったら、東畑さんから急に悩みを言われて。僕が“先が見えない不安がある”と言ったら、東畑さんはずっと“先が見える不安”を喋っていた」って。「6年前ぐらいから同じこと言っていましたよ」って。で、「東畑さんは先が見えない側に戻ってきたんですよ」って言われて。

水野:カッコいい(笑)。

東畑:「お前、いいこと言うなぁ」って、初めてやめることをポジティブに受け入れられたんです。だから、さっきの不安定とか不安が、意外と何かを駆り立てたり、力になったりするのかもな、みたいなことを思っています。


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