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水野良樹×上野裕平×林健太郎 対談【後編】 ~『プロデューサー気質』と「クリエイター気質」のグラデーション~

水野:突然で恐縮ですが、林さんって今、おいくつなんでしたっけ。

林:26です。

水野:僕は今37なので、ちょうど一回りぐらい上ですね。するとやっぱり、見ているものが全然違うと思うんですよ。というのも、僕はSNSがなかった時代に思春期を過ごしているので、それによって“みんなでやる”ということに対する感覚も違うのかなと。林さんはあまり抵抗感がなさそうというか。

林:そうですね。むしろ、30代の活躍されている方たちに追いつくために、自分たちにしか出来ない面白いものを同世代のチームで作ろう、という感覚があります。とくに『劇団ノーミーツ』は、オンラインきっかけでみんな集まってきて、大体20人ぐらいになったんですけど、大半が初対面なんですよ。もとからの仲間内でも、劇団がオンライン化したわけでもなく。ただオンラインでおもしろいことがしたいと思って、自粛期間中に集まったメンバーなんです。だからそういったことに抵抗感がないという面はたしかにあります。抵抗感より、同じ興味や関心、問題意識でひとつのものづくりをしたいことの興味の方が大きいのが20代半ばのひとつの特性かもしれないですね。

上野:僕は33なんですけど、やっぱりTwitterで集まるということ自体は、結構抵抗があります。怖くない!?みたいな(笑)。そこは林君と話していて、すごいなと思いますよ。

林:Twitter自体は大っ嫌いなんですけどね(笑)。それこそ水野さんが危惧しているとおっしゃっていたように、自分発信じゃない意見や言葉を引用してマウントを取り合ったり。不必要な誹謗中傷があったり。そういうものを自分のタイムラインから排除したいから、フォロワーは好きなクリエイターの方とかで収めているはずなのに、それでも嫌なものが目に入ってくるんです。だけどやっぱり、SNSでしか出会えないひとがいて、SNSでだから得られる情報もあるので、プロモーションと仲間集めのツールとして割り切っているところはありますね。だから「こういうひとと作りたい」と思ったら、そのひと向けの人格をTwitterでは作っているところもあって。あんまりこういうことをしゃべり過ぎちゃうのもアレですけど…。

水野:あー!なるほど!それはすごくおもしろいし、大事な視点だと思います。共感や応援を得るために、他者を意識して自己像や作品像を作るひとが多くなったってことなんじゃないですかね。それも僕が思春期を過ごしていた頃とは全く違って。当時はまず、シンガーソングライターがめちゃくちゃ多くて、乱暴な言い方をすると「俺がカリスマになる!」「俺の考えはこうだ!」みたいな風潮だったんですよ。それが僕はすごく嫌で。自分も我が強いからこそ「なんでお前のお話を聞かなきゃいけないんだ!」と思っていました(笑)。

だからみんな“自分らしい自分でいたい”とか“ありのままの自分”という方向性で頑張っていたわけですけど、最終的に“自分は何者でもない”と気づいて挫折していく世代だったと思うんですね。でも、僕らの下の世代ではもう“自分は何者ではない”ことは前提でスタートしていて、友達や仕事関係者、付き合う他者に適した自己像をデザインしているように感じます。だからこそ『劇団ノーミーツ』のみなさんも、たとえ初対面であっても、繋がることへのハードルが低かったのかもしれないですね。というより、繋がるべき部分がちゃんと整理されている。多分、プライベートまで思いっきり踏み込むことって少ないですよね?

林:そうですね。まさに「このものづくりのためだけに」という形です。

水野:ワンプロジェクトのためにバッと集まることができて、それが終わるとまたバッと去っていくんですね。そこは30代以上の世代からすると、慣れない感覚だと思います。

林:でも僕からしたら、この『HIROBA』は完全に、今の若い世代がつくるコミュニティより、さらに新時代のステージだと思いますよ。世代とか関係なく、ものづくりをするための箱みたいなものを意識的に作られているのかなって。良い意味で、これぐらいゆるくて広い箱ってあまりない気がします。今、ゆるさってめちゃくちゃ大事で、なんでも「これを絶対に作るぞ!」と高い意識だけで集まったチームは崩壊しがちだと感じています。「何かやってみようぜ!」みたいな衝動的なスタート、もしくは「これを作るために手伝ってください」とか「あなたの力が必要です」みたいなプロジェクト発信のものしか、継続は難しいんじゃないかと思います。

上野:林君は良い意味で、『劇団ノーミーツ』の在り方とか見え方に対して、すごく自覚的ですよね。僕は今まで、作り手がどう思われているかということに、あまり自覚的でなかったんですよ。どちらかというと作品にフォーカスしていくタイプで、作品の受け取られ方に対する意識のほうが強い。そこは結構、違うかもしれないですね。

水野:多分どっちも大切な意識だと思います。まず、作り手と作品のバランスを僕はずっと悩んでいて。いきものがかりでいうと、僕は作り手なんですよ。でも、世間一般のひとがまず触れるのは、吉岡の声だし、吉岡の顔だから、自分は届ける側にいないような感覚もある。だから僕は基本的に、自分自身に目を向けてほしいというより、作品が褒められてほしい、作品に目を向けてほしいと感じていて、その感覚は上野さんに近いです。だけど、作品が強くなりすぎるのも嫌だし、作り手がカリスマ化されたり、作っているコミュニティーが神格化されるのもすごく嫌で。そういう意味だと、作り手やコミュニティーに対する在り方、見え方に対してかなり自覚的で、林さんの感覚もわかる。

そういうことを考えるなかで、林さんが『HIROBA』のことを出してくれたけど、おっしゃるとおり、ものづくりをするための箱= “場”は必要だなって思って。今って“場”が強いじゃないですか。TwitterもFacebookもInstagramもTikTokも。しかも“場”ごとにいろんな色があって、そこにうまく合わせていかなきゃならない苦しさもある。だから僕は、自分が居心地の良い“場”を作りたいなという想いが強くあったんですよ。ここに来たらみなさんに安心して喋ってもらえるとか。そして、今はまだ水野良樹がやっているということを入り口にしないと『HIROBA』に目を向けていただけないし、メディアとしての強さがないから記事が遠くへ届かないというのは良くないと思って、僕が表に出ているんですけど、いずれは水野を意識しないで自由に喋れる“場”になってほしいなと思っているんですよね。

上野:本当は“場”の色ってないはずなんですよね。でも現実は、その場その場に合わせた自分を作って、そこに参加しなきゃいけないという意識はかなりある。だからそれがなくて、楽にやれる自由な場所って、すごく大切だと思います。

水野:なんか…、みんな“場”から一回解放されたいですよね。Twitterで尖ったことを言ってくるけど、実際に会ってみると良いひとって話とか、すごく嫌なんですよ(笑)。最初から良いひとでいればいいのに。

林:その“解放”ということでいうと、僕は創作が解放になっているところがあります。まず『劇団ノーミーツ』自体を作品として捉えている節があるんですね。個人的にはやっぱり居心地の良い環境で作りたいものを作って、それを届けたいという気持ちが根っこにあって。だから理想は、解放された状態で作りたいものを作って、そのあと発信するときは、がんじがらめのそれぞれのメディアを使って、全力で広く届ける。今の時代、映画を作りたい名もなき20代の青年としては、それがベストかなと思っています。

上野:やっぱり林君はクリエイターなんだよね。僕はもうその道は挫折しちゃって、心が折れちゃって(笑)僕はプロデューサーって「クリエイターになれなかった人」だと思っているんですけど、僕がまさにそうです。だけど、林君はまだクリエイターとしての気持ちも全く折れてないからこそ、頑張ってほしいなと思っています。

林:ただ、自分で監督したいわけではないんですよ、自分にそんな才能はないので。監督が力を発揮できる場を、いかに自分を媒介として作れるかという部分を大切にしたい。多分、想いは上野さんと一緒です。なんか…だんだん会社の映画作りと、会社じゃない映画作りの境界線も崩れていけば良いなと思います。現時点では、やっぱり違いはあるし、そのギャップに苦しんだり、乗り越えなきゃいけない場面もあるんですけど。5年後、10年後はそういうものも変わっていくのかなって思っています。

水野:僕は、挫折し続けながらも、一応クリエイターと呼んでもらえる立場にいるわけですけど…。グループをやっていて、自分は“プロデューサーになりきれなかったクリエイター”なんだなってすごく思います。

林:そんなパターンもあるんですね!

水野:僕の性質としては、物事を俯瞰してみたり、何かと何かをくっつけてみたりするタイプなんですよ。それがたまたま時の流れやめぐりあわせでクリエイターになっているだけで。プロデューサー気質とクリエイター気質があるとしたら、絶対に前者だと思います。でも、どうしても我が出てしまうところがあって、プロデューサーになりきれなかった。でも…どっちの性質も持っていることって大事なのかもしれないなって。

さっきの“他者に合わせた自己像を作る”という意味でいうと、いろんな他者がいるから、多分ひとつの自己像じゃやっていけないんじゃないかなと思いますし。ある場面では、たとえ立場がプロデューサーであっても、クリエイターにならなきゃいけないときもあるじゃないですか。たとえば、お金の計算だけでも絶対にクリエイティブな工夫は必要だろうし。だから、いろんな要素を持っていることを強みに生きましょう…って、お互いの励ましの言葉になっちゃいましたけど(笑)。

林:なりきれなかった者たち(笑)。

水野:なんかコンプレックスというか、憧れの持ち合いって悪くないなって、思えました。立場も違うし、作っているコンテンツも違うなか、今日はいろいろお話を伺えて本当によかったです。最後に、今後はどのような取り組みをされていくのでしょうか。

上野:まずは今、『GEMSTONE』のオーディションで「リモートフィルムコンテスト」をやっている真っ最中ですので、この記事を読んだ方で、クリエイターを志している方は、是非応募していただければと思います。

林:最終的に、クリエイターとプロデューサーのグラデーションみたいな話になりましたけど、業界もどんどん垣根が崩れていると思います。いつか、例えば水野さんが書いた小説や物語からできる映画や、いろんなクリエイティブが混ざった作品を作っていきたいなと思っていますので、よろしくお願いします。

<プロフィール>
上野裕平(うえのゆうへい)
1987年生まれ。2010年東宝に入社。『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズでプロデューサーを務めるほか、映画&舞台『あさひなぐ』、TVアニメ『からかい上手の高木さん2』、ドラマ『弱虫ペダル』など、ジャンルを問わず幅広い作品のプロデューサーを務める。『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』と『映像研には手を出すな!』が2020年9月に公開。

【GEMSTONEオーディションHP】
https://gemstoneaudition.com/

林健太郎(はやしけんたろう)
1993年生まれ。2017年東宝入社。会社では映像・ゲームの駆け出しプロデューサーとして勤務。会社外の活動として、2020年4月にフルリモート劇団「劇団ノーミーツ」を立ち上げ。140秒間のリモート作品を20作以上発表し3500万再生を突破。2020年度ACC賞クリエイティブイノベーション部門ゴールド。他にショートフィルムやラジオドラマなど、実験的な自主制作作品を発表している。

Twitter:https://twitter.com/KentarooH
『劇団ノーミーツ』HP:https://nomeets2020.studio.site/

<署名>
Text/Mio Ide(Uta-Net)

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