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水野良樹×上野裕平×林健太郎 対談【前編】 ~制作過程や作り手の物語は“大きな武器”のひとつ~

フルリモート劇団『劇団ノーミーツ』の舞台を見たことがご縁となり
今回「劇団ノーミーツ」主催の林さんで東宝にお勤めの林さんと
東宝映画プロデユーサーの上野さんと対談をすることになりました。


水野:先日、フルリモート劇団『劇団ノーミーツ』の舞台を拝見しまして。映画や劇団の制作に関わっているお二人と、このコロナ禍でのものづくりのお話をざっくばらんにしていけたらと思っています。

上野:自己紹介からさせていただきますと、僕は主に東宝で映画のプロデューサーをやってきました。最近の作品だと『映像研には手を出すな!』ですね。

https://eizouken-saikyo.com

そして、今、東宝で新人発掘プロジェクトとして『GEMSTONE』というオーディションプロジェクトを運営していまして、その責任者をしています。その『GEMSTONE』の今開催している第6回オーディションが「リモートフィルムコンテスト」ということで、『劇団ノーミーツ』さんと一緒に取り組みをさせていただいています。そのご縁があり、紆余曲折ありまして、この対談の場が実現したという流れになります。そして、これから自己紹介する林君は『劇団ノーミーツ』もやりながら、東宝で僕と同じ部署で働いているんです。

林:自分は上野の後輩で、4年目にあたります。会社では今年の6月から映像事業部に所属し、映像やゲームの駆け出しプロデューサーをやっております。その前は、演劇部の劇場『シアタークリエ』で勤務をしていたのですが、コロナの影響で完全に興業ストップして、自宅待機となりまして。そのとき「何か表現をできないか」と思って、プライベートでの活動として始めたのが『劇団ノーミーツ』です。それから上野からコラボの提案をもらって、一緒にやっているという形です。

https://nomeets2020.studio.site

水野:コロナ禍でどうやって活動しようかと、いろんな試みが行われているなか、上野さんは『劇団ノーミーツ』のどのようなところに可能性を感じたのでしょう。

上野:僕が『映像研には手を出すな!』のドラマを手掛けているとき、ちょうど緊急事態宣言の時期に入ったんですけど、映像研の場合は全話を撮り終えていたので、幸い放送することができました。ただ、多くのドラマが放送延期になって、自分の作品も2本ぐらい延期になって、ドラマも映画も舞台もライブも、通常のエンタメが消えるという僕らにとっては非常につらい状況になりました。
そのような中で『劇団ノーミーツ』の活動を見て「こういう状況でもヒットを出す方法があるのか。すごいな」と思ったんです。非常に若い方の集まりだし、どういうことを考えているのか知りたいなと思いまして。そうしたら偶然にも、6月に林君が異動してきまして、自分が担当している『GEMSTONE』をきっかけに何か一緒にできないかという相談をしたんです。

水野:リモートでのお芝居って、予想できなかった部分がたくさんあると思うんですよ。今のこのZoomの対談もそうですけど、顔だけが映るわけだから、全身を使って演技するのとは違うだろうし、それを観る方々からの反響の大きさもわからないし。そんななかで、林さんが工夫された点というと?

林:最初に『劇団ノーミーツ』を始めたときは、まだ何も認知されていなかったので、まずはTwitterのアカウントを作って、140秒の動画を投稿していきました。そのとき心がけたのは、とにかく“スピード”と“実験”でした。メンバーみんな時間だけがあったので、感じていた不満やZoomを使い始めたときの失敗談など、日常のあるあるを物語に昇華した作品を、2~3日に1回投稿していました。その時のスピード感と共感性が、多くの方に応援していただけた結果に繋がったのかなと思います。

それから、長編生配信作品を制作する際には「このままだとただのバズ集団で終わる」という気持ちと、「コンテンツとしてちゃんと食っていける可能性があるんだぞ」という提示を込めて、有料にしました。長編制作での一番の工夫は、 “王道のテーマで作る”ということですかね。たとえ王道の切り口でも、Zoomとのかけ合わせだからこそ生まれる新しさがある、と思ったので。1本目の作品ではタイムループもの、2本目はオンライン世界での物語にトライしてみました。

水野:140秒映像は、コロナ禍のあるあるをセンス良くお芝居に昇華して、すぐ投稿する、すぐわかる、すぐ拡散したくなる。そのスピード感がすごくSNS的な表現だなと思いました。そういうものと演劇や映画って、わりと正反対にあるじゃないですか。暗い空間で観る側の動きを止めて、2~3時間の物語を観させるものとは全く試合会場が違うというか。だけど『劇団ノーミーツ』の作品が長編になっても、あれだけ多くのひとがおもしろいと思うもの、画面上で観ることに耐え得るもの、興味を失わずに観られるものだったことって、すごいなと感じていて。

林:ありがとうございます。そもそも自分も他のメンバーも、守備範囲として本当は長編をやりたいひとの集まりだったので、短編を作りながらも、いつかは長編に繋げたいという想いがありました。もうひとつ心がけたのは、おっしゃっていただいたようにこれまでの映画や演劇はどうしても集中して静かに観なければいけないものだったので、今までにない視聴体験を作ることに挑戦してみようと。それで視聴中のコミュニケーションツールとしてコメント欄を取り入れてみたら、結果的に「コメントしながら観るのは新しい」という意見を多くいただけたので、そこはオンラインの新しい可能性なのかなと思います。

水野:僕が拝見したのは、2本目の公演だったんですけど、SNS的な構造が物語のなかに組み込まれていることで、自分も登場人物かのような気持ちになりました。「めがねさんかわいい」って書き込めば、めがねさん(出演されていた渡邊みなさんの役名“DJめがね”)ご本人が返してくれたり(笑)。同じ空間で、リアルと虚構が境界線を失っていく感じか新鮮だったというか。コロナ禍でも“みんなが当事者になる”という面が強いと思うので、とくにそこはインパクトがありましたね。ちなみに僕は今、MacBookで画面を見ているのですが、上野さんはこのPCの画面上で映像作品を観るということに対しての課題とかって、どうお考えになりますか?

上野:やっぱり課題はありますよね。もちろん林が申し上げたように、みんなで共有しながら観て、コメントをしながら楽しむというのが娯楽の主流になってきていますし、ちょっと前までは“応援上映”も流行っていました。暗い空間でスクリーンをじっと観ることと同じぐらい、当たり前なものになりつつあるので、僕らもコロナ禍でその“応援上映的な視聴状況”をどう作れるのか考える方向にどうしても気持ちが向いていきます。

ただ、やはり、映画を作り手としては、真っ暗な空間のなか、スクリーンで観るのをベストな状態だと捉えて、それに合わせて作品を作っているので… たとえばサブスクとか、レンタルD V Dで「映画を観た」ということに対してもやはりちょっと違和感があるんです。あとYouTubeがこれだけ広く利用されていて、一つの映像が消費されるスピードがとてつもなく早くなりました。まさに、映像がSNS化しているんだと思います。そこはどうしても「なんかなぁ…」という気持ちがあるというか。音楽も今、いろんなアーティストの方が配信ライブをやられているし、いきものがかりさんも配信でフェスをやられていたりすると思います。リアルのライブと配信ライブで、どんな違いをお感じになられていますか?

水野:まだそんなに回数をやったわけではないけど、お客さんの冷静さはすごく感じますね(笑)。ライブ空間って非日常的なので、もちろん音楽を聴くことが主の楽しみではあるけれど、それ以外の要素がたくさんあって、実際には空間そのものをみなさん楽しんでいると思うんですよ。でも配信の場合、そのいろんな要素が外れていって、音楽を聴くことによりフォーカスが当たるので、音質面や演奏の精度を確保しなければならなくなっていって。ライブよりレコーディングに近づいていくから、それってやっぱり違うなと。

あと、リアルの場合、数千人規模のライブ会場となってくると、顔の表情までは見えないじゃないですか。いきものがかりはモニターを使って、吉岡の歌っている顔だったり、僕の弾いている顔だったりの映像を映したりはするんです。だけど“ワンシーンがアップされる”という感覚のなかで演奏するのと、ずっとテレビと同じ感覚で観られているという感覚で演奏するのとでは、意識の持っていき方が全然違うんですよね。アラも観えやすくなるし。それは舞台でいうと、役者さんにとっても難しいところだと思いますし、演出の方法論の違いが出てくるんだろうなって。今後は、リアルにもオンラインにもどちらにも耐えられるものを作っていくんですかね。それとも別々にコンテンツが作られていくのか…。

林:自分は完全に別物として捉えていますね。オンライン公演をやっていたときも、もう設定からZoom画面やオンライン画面上で繰り広げられる物語にしないと厳しいだろうなと。多分、この先も演劇公演をやりながら、それを遠くから抜いて記録映像として配信だけをする、という構造は難しいと思います。だから、オンラインで作るときはオンライン用に。ステージじゃなくて、ビル一棟を借りてとか、島を使ってとか、そこで急に画角が変わってだとか、そういった工夫にこだわっていった方がおもしろいし、そうじゃないと意味がないなと思います。

同時に、今いちばん気になっているのは、やっぱり視聴環境のことですね。自宅からしか見られないこともポジティブに捉えたら、まだまだ可能性があると思います。例えばグッズを枕やマグカップなど自宅をより楽しめる環境へ整えられるものにするとか。郵送で美味しいものを届けられるとか。そういった視聴環境のデザインという面も広がっていくんじゃないかなと。

上野:コロナ禍で本当に映画が上映できないとき、ポップコーンを配送するサービスをやっている映画館もありました。ライブと同じで、やっぱり映画も空間の体験なんです。パンフレットを買って、ポップコーンを食べながら、予告も含め2時間楽しむ文化です。でも今、これだけ『鬼滅の刃』という映画がヒットしているのを見ると、映像がSNS化しているということに自覚的でないとヒット作は作れないんだと思います。ここまでギューッと人が映画館に集中するということは、映画館に行く動機がかなり複合的になっているんだと思います。観ないと会話に参加できない、みんなと一緒にいられないという要素も強くなっている。社会現象ってこういうことなんだなと思いました。ドラマだと『半沢直樹』も、SNSとの相乗効果で雪だるま式に大きくなってヒットしていったイメージがあります。

水野:ちょっと話が逸れますけど、SNS的なヒットの在り方っておもしろいですよね。たとえば『半沢直樹』は途中で撮影が止まってしまって、役者さんたちがドラマを振り返って解説する回があったじゃないですか。あれって、10~20年前だとありえなかったと思うんですよ。ドラマ内で喧嘩している同士のキャラクターが仲良く話していて、観ている側も楽しいって。つまり「この人は芝居をしている」という認識が前提になっているということで、それって実はすごいことなんじゃないかなって。

今って、ヒットしたものの裏側には誰がいるとか、ヒットの要因は何だとかを話すこともエンタメ化されていて。その良し悪しはわかりませんけど、そういうエンタメ化がしにくい作品はヒットしていない気もするんですよね。芝居の裏側まで楽しめる、ドラマとリアルのどちらも楽しめる、そういうところからもう抜け出せないのかもしれないなとも思いますね。逆に、完全に独立した虚構って作れないのかもって。

林:作り手の物語とセットで作品が進んでいく感じもありますよね。映画でいうと『カメラを止めるな!』とか。もちろんストーリーのおもしろさが一番ですが、役者さんたちが連日プロモーション活動をする熱量とか、低予算なのにあんなにも成功した物語性で、みんなが応援したくなったところも大きいと思っています。実は『劇団ノーミーツ』もそういう過程をすべてたれ流そうということで、自分も個人SNSを始めて、毎日「こういった状況で全然うまくいきません」みたいな投稿をしていったんですよね。

だから、コンテンツの魅力は大前提として、その制作過程や物語を楽しむ流れを、僕はわりとポジティブに捉えています。本当だったら見つけてもらえないようなニッチなコンテンツとか、知名度がないひとたちが仕掛けるおもしろいコンテンツが、リアルの物語によって知られていくチャンスになる。その大きな武器のひとつを『劇団ノーミーツ』の経験を通して実感したからこそ、そう思います。一方で、とくに音楽などは、過程の物語ではなく圧倒的なコンテンツの魅力自体で人々を惹きつけていくパターンが多いと感じます。みんなが共感しておもしろがる曲を作るべきか、自分自身が作りたい曲を作るべきか、永遠の課題だと思いますが、そこに対するご意見はありますか?

水野:難しいですねぇ…。まず、僕がこの世界に入ったときには“共感”という面がすでに難しかったと思うんですけど、このコロナ禍なんてさらに。同じ職種で同じような生活をしているはずだと思っていた人でも、それぞれに家庭があったり、そのときの住宅環境があったりで、全く受ける負担が違ったりして。こんなに別々の価値観を持っている状況になってしまったなか、ひとつのコンテンツで「これみんなあるあるだよね」ってなかなかないというか。だから“共感”という意味での作品を目指すことは難しくて、そもそも存在しないんだろうなと思いますね。

ただ、さっきの“みんなが関わる”ということに、根底では繋がっている気がします。つまり、作品に対して、それぞれがどれだけ自分の物語を立ち上げられるかが大事なんです。僕が『劇団ノーミーツ』を観たとき、自分も登場人物になっているかのように感じたのは、自分自身の状況や日常の感覚を立ち上げていたからなんですよね。それは歌も同じで<あなたのことが好きです>というラブソングを作るとしたら、それぞれのなかの<あなた>をいかに立ち上げやすいコンテンツにするかが肝だなと。でもこれもまた難しいんですけどね。

あと“みんなが関わる”という点で、僕が今、危惧していることもあって。たとえば政治の話なんてとくに、専門家やコメンテーターとか、物事を論理立てて話せるひとがいるじゃないですか。そのひとたちが喋った言葉をそのまま引っ張ってくるひとがいるんですよね。それを自分が考えたことかのように思ってしまう。誰かの言葉を移植して内面化してしまう。自分のなかは空洞なんだけど、誰かの思想を自分のものとしている状態の
人がかなり多くて。だから“応援上演”とか“みんなが関わる”って形はもちろん素晴らしい、ひとつのジャンルとしてあるんだけど、やっぱり圧倒的なコンテンツを提示することも大事なんじゃないかなとも思っています。

上野:そうですよね。やっぱりものづくりをしていると、どうしても驚きのほうを求めるし、本当は「ほら、これおもしろいでしょ!」って提示したいんですよ(笑)。でもヒットするには共感が必要で、ちょうど良いところを常に探っているような感覚はありますね。

後編へ続く

<プロフィール>
上野裕平(うえのゆうへい)
1987年生まれ。2010年東宝に入社。『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズでプロデューサーを務めるほか、映画&舞台『あさひなぐ』、TVアニメ『からかい上手の高木さん2』、ドラマ『弱虫ペダル』など、ジャンルを問わず幅広い作品のプロデューサーを務める。『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』と『映像研には手を出すな!』が2020年9月に公開。

【GEMSTONEオーディションHP】
https://gemstoneaudition.com/

林健太郎(はやしけんたろう)
1993年生まれ。2017年東宝入社。会社では映像・ゲームの駆け出しプロデューサーとして勤務。会社外の活動として、2020年4月にフルリモート劇団「劇団ノーミーツ」を立ち上げ。140秒間のリモート作品を20作以上発表し3500万再生を突破。2020年度ACC賞クリエイティブイノベーション部門ゴールド。他にショートフィルムやラジオドラマなど、実験的な自主制作作品を発表している。

Twitter:https://twitter.com/KentarooH
『劇団ノーミーツ』HP:https://nomeets2020.studio.site/


Text/Mio Ide(Uta-Net)

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