物語の三層論

私は、小説の面白さを次のような三層で考え、また自分で書く時もこれを意識しています。

 1)  表層的   2) 構造的  3 深層的

 これらは単純に分離できるものではなく、当然、各層で関係しあっています。それぞれについて、簡単に解説します。

 1)表層的な面白さ

 表層的な面白さは数行、数ページでわかるものです。物語の面白さの本質ではありませんが、物語に集中させるために必要なことだと思っています。

 文章においては、当然のこととしての読みやすさ(センテンスの長さ、漢字の開き、句読点、改行、混乱しにくい名称)、感覚に訴える文章(視覚、聴覚、嗅覚、味覚)、パロディ、ギャグ、文体(クールさ、綿密さ)などなど。

 キャラ設定においては、綿密な背景、精神と行動の一致、複雑な心理、葛藤、モチベーション、セリフの面白さ、ビジュアルの面白さなどなど。

 舞台設定においては、違和感は無く斬新な舞台設定、新しい視点、その綿密さ。

 分かりやすさとは対立しますが、ある比率で読者に対して未知の知識を入れ込むことも大事だと思います。

 2) 構造的な面白さ

 構造的な面白さは、全体を読んで分かる、物語としての面白さです。読了直後、映画の鑑賞直後に感じる面白さは、構造的な面白さが多いように思えます。

 基本的な起承転結のわかりやすい流れ、それでいながら意外な展開、ドンデン返しなどなど。

 部分的な流れとしては、テンポのいい展開、次々と現れる障害とその解決、謎の提示とその解明など。技術的には、クリフハンガー、スローイン・ファーストアウト、読者への挑戦状、レッド・ヘリング、マクガフィンなどなど。

3)深層的な面白さ

 深層的な面白さは、全体を通し、さらに内容を理解して分かるものです。あとから、ボディブローのように響く、と言われる面白さはこの深層的な面白さでしょう。

 全体のテーマは、作者の倫理的、哲学的な意見と言えます。それは戦争反対、人種差別反対など分かりやすいものもありますが、物語の奥深くに隠され、作者や社会の背景を知ってもなお、よく見えてこないものもあります。それが明確にわからなくても、考察する行為にも意味があるとは思います。

 テーマはちゃんと言語化しておいて、意図的に盛り込むのが初心者の正しい作法だと思っています。しかし、優れた作者は、書いているだけで作者の思いがテーマとして文章に残るのと思います。その域にはなかなか到達しないので、言語化しておいた方がいいです。

 拙著「臨終師フォン」においても、これを意識して書いてはいますが、実際はなかなか難しいです。


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