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「映画フィッシュマンズ」は音楽の神さまの記録かも知れない

前回の記事「映画フィッシュマンズ@立川シネマシティ」でほとんど結論めいたこと言ってしまったので何をかくべきか悩む。この記事は少し映画のネタバレも含みますのでご注意を。

「映画フィッシュマンズ」は音楽ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒットなのではないだろうか。コロナ禍という環境下であってもミニシアター系で観客動員数1万5千人以上、上映もすでに3ヶ月めを越えようとしており今でもどんどん上映エリアを拡大しているところだ。2021年のエンタメ・シーンを振り返った時に「映画フィッシュマンズ」の公開は必ず取り上げられることになると思う。立川シネマシティでも「映画フィッシュマンズ」の上映前に「オアシス:ネブワース1996」と「音響ハウス Melody-Go-Round」という2つの音楽映画の特報が入っているのも音楽ドキュメンタリー映画というジャンルがクローズアップされていることの現れかと思ったりしてる。そう言えば「Orange」発売時プロモーションCDのマスタリングの為に新富町の音響ハウスに行ったなあ。

映画のパンフレットを読み返す。

改めて手嶋悠貴監督と坂井利帆プロデューサーに本当に感謝を。90年代のカルト的なバンドだったフィッシュマンズのわかりにくい歴史をとても丁寧にひも解いてくれて、なぜ後からファンになった人たちからもずっと愛され続けているのか誠実にわかりやすいように再構成して映画化してくれた。フィッシュマンズ古参世代にありがちな上から目線ぽい物言いで申し訳ないですが。

それにしても手嶋悠貴監督のインタビュアーとしての手腕にも驚愕する。1982年生まれの手嶋監督は当然フィッシュマンズがリアルタイムで活動していたことは知るよしもなく、また実際に佐藤伸治にも会ったことがなかったはずだが膨大な資料を整理してフィッシュマンズの関係者にインタビューを重ね、そしてやはり膨大な資料映像やライブ映像から佐藤伸治がまるで生きているかのように浮かび上び上がらせる手腕はヒップホップ世代以降のノンリニアな感覚みたいな表現で、映画界の言葉の使い方は不勉強でよくわからないためうまく説明できなくて申し訳ないが、ロック世代ジジイの自分の持っている感覚と全く違うものだと思った。手嶋監督が手掛けた「般若」さんのドキュメンタリー映画「その男、東京につき」もいずれチェックしたい。

そしてそこから浮かび上がった佐藤伸治は正に自分が知っている生きている佐藤くんそのものだった。鑑賞3回目にしてようやくわかった「佐藤伸治は音楽の神さまだった」だったということを手嶋監督は映画の中で見事に伝えてくれた。ZAKが音響調整してくれた立川シネマシティC STUDIOでの2時間52分はまるで1990年代に時間を巻き戻し佐藤くん達と一緒に過ごしたあの頃のことを鮮やかに蘇らせてくれる儀式だった。佐藤くんが亡くなって22年も経ってからようやく気づく自分もどこまで鈍感なのかと思うが映画本編で映される「King Master George」山中湖レコーディングでのドラムを叩く佐藤くん、そして「男達の別れ」ライブでの「ひこうき」の佐藤くん自身のギターソロと歌は正に「音楽の神の御業」そのものだと思う。音楽の神さまが作った音楽だったから30年近く経っても少しも廃れることもなく聴かれ続け世代や言葉や国境の違いも飛び超えて広がっているという真理を「映画 フィッシュマンズ」は誰にでも見える形にしてくれた。映画公開に併せて発行された書籍「別冊ELE-KING 永遠のフィッシュマンズ」の序文に三田格さんが寄せていた「みんなの苦しみをすべて引き受けるかのようにして佐藤伸治は他界してしまった」と言う文章が今は本当に理解することが出来る。

一昨日からこのことでずっと胸がいっぱいだ。自分の文章力の無さにも悲しくなってくる。だけど自分にとって少しだけ救いなのが初期の映像フッテージに自分が撮影したものが映画のかなりの部分で使われていたことだ。あの頃は自分では全くわからなかったが音楽の神さまの動く映像を記録する手伝いをほんの少しだけしていたんだと思う。映画終盤に出てくる1990年12月22日渋谷ラ・ママ2DAYSの初日終演後の楽屋映像の存在は自分が撮ったことさえもすっかり忘れていた。演奏直後のアーティストに対してライブの出来がどうのこうのと発言する素人ぶりは今もって赤面の至りだが、恐れもなく佐藤くんにインタビューを直撃した後、一旦楽屋の外に向かった佐藤くんが再び楽屋のドアを開けて笑顔を見せるまでカメラを止めなかった自分を少しだけ褒めてあげたい。あの笑顔の音楽の神さまの映像を収めることが出来て本当に良かった。


最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!