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少年ギター特集

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少年ギターのマガジンです
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少年ギター外伝/マキシ_5

D G D G B Dその広がりのある聴いたことのないサウンドとハーモニーに目を見開いたまま少年は笑っている、人差し指と中指ぐらいでコードが変化する、マキシはそのままのリズムで今度は黒いギターを打楽器のように叩き始める、 いろんな場所でいろんな音がする。 そして広げた指先で弦を叩くコードになったハーモニックスがぱおんと響く、 すごいすごい、マキシ。なんでそんなことできるの? リズムをキープしながら左手でポケットからマキシは白いマニキュアの三角錐の小瓶を取り出した、 軽

少年ギター外伝/マキシ_6

小川沿いの道をリュックを背負った人たちとぱらぱらと歩いている、畑、農場、鶏小屋、畑、水田、森、土は柔らかそうに丁寧に作られた黒ボク土だ。すえた煙を吸っている人がいるのだろう、仲間と回しのみして楽しそう、後ろから声をかけられた、君、中学生?そのギターケース本物?ギター弾くの?弾けるの?すっと横に入ってきた、同じくらいの年の女子、サイケな丸首長袖のシャツに太いセーラのGパン、小学生の頃に見たリュックサックを背負って真っ赤な顔して汗かいていた。君、水筒に水とか持ってる?あったら飲ま

少年ギター外伝/マキシ_7

パラピファリラルー、乾いた音色が夏の日差しの田畑に響いた、そして何かの曲をビーバーのクラ、クラリネットが奏でる。時々低い音でビブーとおならみたいな音が出ると少年はクスッと笑う、そばかすのビーバーの鋭い怒りのこもった視線が少年を睨み付けるが、そんなこと考えるすべもなく空を眺めている。 ひとしきり吹き終えて楽器の吹き口とかを拭いたりしながら、あんたのギター見せてよ、と挑戦的な態度で言い放つどうみても痩せっぽちの中学生の女子なのに、なんだこいつ?と思いながらギターケースを開けて大

少年ギター外伝/マキシ_8

あれ、今日、何日だっけ、何曜日?あんた、ばっかじゃない? 時計ないの? 手帳とか、カレンダーとかもってないの? ない、持ってない、こっち来てから、2〜3日だけど、4〜5日いるような気もするし。本当に日付の感覚を失っている、少年ギターは思った、あれ?マキシに会ったのはおととい?昨日? 空を見上げる三日月が今にも消えそうな透明な形で南中する太陽を追いかけている。あそこに人がいるんだ。すごいな、ぼんやり月着陸船のことを思っている。 「全てGO! すべてGO!、イーグル、すべてG

風と火花/少年ギター外伝

風を見たことがあるんだ。初老の男が呟いた、 たぶん、あれは風だったと思う。 国鉄のガード下を通り過ぎて、商店街へ向かう細い路地ですれ違った背の高い痩せたふたりの若者。 ギター弾く真似をして音楽の話をしているようなふつうの学生。ショルダーバッグと図面ケースを肩にかけていた建築学部にでもいそうな。 僕は小学生、AAAを買いに、スリーエース? ああ煙草さ、お使いでね。 電車が通過する、そのときなぜか振り返ったんだ、 1人の男が倒れる影、2人の男が走って曲がる影。 怖くて商店街へ走っ

少年ギター外伝/マキシ

少年ギター外伝/マキシ_1 マキシ、黒ずくめのその女はみなにそう呼ばれていた。 マキシはかすれたガラガラした声の女だ。 酔っ払ったマキシがうたう、居合わせた奴が言った。 地獄に引きずり込まれる、だから俺はマキシの歌を聞いて恋をした、マキシに。それが、マキシだ。 50年台のフランス映画のVampのような広縁のハットをかぶる、化粧の濃いマキシ。黒い毛皮のコートをふくらめて羽織るマキシ。それがお前のあだ名さ、 その後、彼女を歌ったフォーク歌手がいた。 黒いフォークを