青き生命体
昔々、あるところに、美しい生命体が存在した。
それはそれは美しく、誰もがうらやむ存在であった。
澄んだ青い眼と、白い肌、深い緑色をした艶のある髪。
その肉体は薄く白いベールで被われ、周りの星たちはいつもうっとりと、その生命体を見守っていた。
あまりにも美しく、はかなげなその存在を、みな、大切に守ろうとしていた。
みなはその生命体を地球と呼んだ。
火星や木星たちは、地球と言う生命体に心底憧れていたが、自分たちはとても及ばないことを知っていた。
太陽は、その存在にいつも熱と光を与え、地球を暖め続けた。
月は、その存在に想像力を与え、神秘なる力を誕生させた。
地球という生命体は、いつもたくさんの星たちに見守られ
美しく、青く、そして気高く、静かに輝き続けた。
ところがある日、地球が風邪を引いた。
悪寒がする、熱を出す、肺を患い、声も出なくなって、自分自身の身体をコントロールすることができなくなってしまった。
太陽はいたく心配し、力の限り、光を注いだ。
その光は、白いベールを突き抜け、地球を暖め続けた。
月はいたく心配し、その引力にて地球にパワーを注ぎ
暗闇にもかすかな希望を与えた。
しかし地球を襲ったウイルスは、美しきその姿を、少しずつ破壊していった。
青い眼は濁り、光を失ってしまう。
白い肌を覆っていたベールは破れ、むき出しになった肌は赤く焼けただれてしまった。
緑色をした長い髪は潤いをなくし、乾いた束子のようになってしまった。
火星も、木星も、ただオロオロと見守るしかなかった。
そんな星たちを見かねた神は、地球と言う美しい生命体に向けて
Nキラー軍を送り込むことにした。
「直ちに、ウイルスたちを、攻撃せよ。」
2019年、11月の事だった。
ウイルスはウイルスで、なんとか生き永らえようと自らの存在を変異させる。
地球がなくなってしまえばウイルスたちも存在ができなくなるが故、一気にダメージを与えたりはしない。
じわじわ、じわじわとその領域を拡大し、太陽や月のパワーと同じく、
眼には見えない電波という力を使って、お互いの交信を続け、進化し続けた。
過去にも神は
Nキラー軍、エボラ隊、サーズ隊、マーズ隊、なんども軍を送り込んだが、ウイルスたちは勢力を弱めることはなかった。
ウイルスと、Nキラー軍との戦いは、数千年に及んだ。
最後に送り込んだコロナ隊に、ようやくウイルスたちの勢力は陰りを見せ始めた。
勝ち目がなくなってきたと感じたウイルスたちは、いよいよ神に命乞いをした。
「どうか、私たちを殺さないでください。
私には、娘がおり、妻がいます。
妻と出会ったのは、学生時代、彼女は野球部のマネージャーでした。
私は妻からたくさんの愛をもらい、お互いに支えあい、子を産み育て、こうして生きてきたのです。
娘には、夢があります。
娘には、未来があります。
彼女にもどうか、愛する人と巡り合い、幸せな日々を送らせてやりたいのです。
どうか、神様・・・私たちを、殺さないでください。」
神は困惑した。
太陽や、月、そして地球そのものに比べれば
ウイルスなど、小さな、小さな生命である。
太陽は言った。
「NO!今までに、自分たちがしてきたことを考えてみろ!」
月は言った。
「NO!自分勝手にもほどがあるわ。」
火星も木星も言った。
「NO!NO!NO!僕たちは地球が大好きなんだ!」
・・・ただ、地球だけが
「イエス。」
と言った。
「その代わり、私の青い眼を取り戻してください。」
「私の白い肌を、深い緑の髪を、返してください。」
「美しく白いベールを、元に戻してください。」
「戦争を止め、原爆をなくし、原発をなくし、この地球を守ってください。」
「そうして下されば、私は、貴方たちと共に生きていきます。」
神は尋ねた。
「さて、どうするかね。受け入れるかね?」
「・・・人間たちよ。」
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