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最大のヒール(悪役)を忘れていた

 散歩道の境川でアオダイショウを見つけた。かなりの大きさである。きっと、2メート近くあるだろう。泳ぎながら、アシが茂る川洲やら浮石を移動している。ヘビは水の上を巧みに泳ぐ。近くではカワセミが神経質に監視していた。

 まさかカワセミがアオダイショウをエサとして狙っているわけではあるまい。縄張り意識が強い鳥だというから、侵入者を警戒しているのかもしれない。もしかしたら、ヘビに卵かヒナ鳥を取られた経験があるのだろうか。この川からカルガモが消えてしまった原因を、猫やイタチなどの小動物にヒナを取られたのではないかと思っていたがヘビの存在を忘れていた。

 人間というヘビの天敵は、この川だと手が出ないものの、イタチやタヌキ、そして、カラス、サギはたくさんいる。タカやワシなども飛んでくる。静まり返っている中州のアシの中では、彼らの熾烈な生存競争が繰り広げられているにちがいない。カラスを忌み嫌う方々は多いが、もっと、嫌うヘビをカラスが捕らえ、食べていると知れば、カラスにも慈愛が少しは湧いてくるのではないだろうか。

 40代なかばのころ、舗装された山道をクルマで走っていた。釣りのため、新潟のはずれの渓流へ入るためだった。山道なので、路面には木の枝がところどころに落ちている。その1本をクルマで踏んだ。とたんに違和感があった。木の枯れ枝とは違うやわらかい感覚を尻に感じたからである。

 クルマを走らせながら、目の上のルームミーラーをのぞいた。クルマに轢(ひ)かれてのたうつヘビが見えた。きっと、朝の暖を取ろうとアスファルトの道でのんびり寝ていたのだろう。35年あまりたったいまでもその光景が記憶に鮮明だ。

 あいつは運が悪かった。しかし、なんともかわいそうなことをしてしまった。あのあと、傷ついたあいつがどうなったのかはわからない。山の中である。片づけてくれる小動物や鳥には事欠かないはずだ。

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