この星は氷河期に向かっている……はず
老人の朝は早い。このところ、午前4時には、いまだ暗い5階のテラスへ出て、外気のようすをたしかめている。どうやら、秋の到来は本物らしい。9月に入っても続いていたムッとしていた暑さがなくなっている。
お彼岸も明けた。夏の暑さは秋の彼岸までだといった昔の人の観察眼が健在だ。ただ、今年、近所のヒガンバナの開花が遅れていて花がない。ヒガンバナたちは、大半がいまだに眠りをむさぼっている始末である。
もう半世紀ばかり前になる30代だった昔、地球は寒冷期に向かっているといわれていた。一方で、これからの地球が寒くなるのか、暑くなるのかはわからないとの慎重な意見も少なからず目にしている。ほんの数10年前はそんなありさまだった。
子供のころ、地元、東京・杉並の妙法寺でおこなわれる10月なかばのお会式(えしき)は寒かった。池上の本門寺からやってくる万灯練行列(まんどうねりぎょうれつ)に雪が降りかかった年があった。むろん、すぐに消えるような、つかの間の雪だったが、強い風と雪が白い万灯をあおった光景がいまも鮮やかだ。
今年の10月は暑い日が続くという。生きていれば110歳になる亡父からも、父が子供の時分、秋の年中行事のころの寒さを聞いている。温暖化は自明の理だ。いまや、地球は寒冷期、つまり氷河期に向かっているので、ダウンパーカなど、寒さに耐える準備をしておけとの半世紀前の常識はまったく聞かない。
たしかに、近年、世界で頻発している森林火災や氷河の喪失、海面上昇、干ばつ、経験したことのない大型台風などのニュースに接すると、地球温暖化の恐ろしさを痛感せずにいられない。
それでも、大きい声ではいえないものの、この星が、実は氷河期に向かっているとの説を、ぼくは完全に捨て切れない。若いころの常識や思い込みから容易に脱けだせないというのも、また、早起きとともに老人の顕著な特徴だろう。