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中日キャンプの星野監督との距離感  

#54

1999年の春、
フェリーの片道切符を買って沖縄に向かった。
北谷の中日キャンプが僕の初キャンプだった。
ブルペンは関係者以外、立入禁止だったが、
開放された窓からファンが中を覗き込んでいた。
星野監督がキャッチャーの後ろに立って
無表情でピッチャーの投球を眺めている。
機嫌が悪いわけではない。
怒っているわけではない。
ただ、そこに立っているだけだ。
シャッターを切ろうと恐る恐る近づき、
この距離で「コラッ、何、撮ってるんや」と
怒鳴られたりすればチビってしまう。
立浪監督が YouTube で話していた。
「星野さんが来たら気配で緊張が走る」と。
若手時代の前田日明が鬼軍曹・山本小鉄の
キャデラックの音にビビっていた話と同じ。
選手は毎日この距離で野球をしているのか。
並みのメンタルじゃムリだな。
当時、31歳、無職の僕の感想。
ブルペンは青いトタン板で囲まれていて
トタン板には継ぎ目があり、
3ミリほどの穴があいていた。
息を殺して中を覗くと、
薄いトタン板一枚の距離しかなく
目線はピッチャーの腰の位置にあり、
座っているキャッチャーの高さだ。
背番号「11」の川上憲伸のお尻が見える。
振りかぶったボールの握りがわかる。
振り下ろされる右腕がしなる。
左足のスパイクが土にめり込む。
投げるたびに呻き声が聞こえる。
覗いているスリルと臨場感がたまらん。
キャンプはこんなに距離が近いのか。
このたまらん距離感を求め、
のんびりしていられなくなった。
急いで安芸の野村監督、高知の王監督、
春野の松坂大輔、西都の古田敦也を追いかけた。
宮崎でハンパないオーラを放つ長嶋監督を拝み、
松井秀喜のホームランボールを取り損ね、
熊本で新庄剛志の初登板を見て、
ドーム初体験の福岡ドーム経由で
1か月のキャンプめぐりの旅は終わる。
僕の人生の中で最高の野球日和だった。

今週の虎党の呟き😔

星野監督の命日の1月6日は僕の誕生日。

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