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企業にとってのIR活動のメリットとは?

きっかけ

上場企業にIR活動の充実を求める要素は既に多々あるように思います(例えばコーポレートガバナンスコード、アクティビスト投資家の存在)。一方で、IR活動をどちらかというとやらなければいけないものと捉える、守りの姿勢の企業もまだまだ多いのではないかと感じています。
それに対して「日本企業はファイナンスリテラシーが足りない」等と指摘する声もあるかもしれませんが、私は「IRなんてやっても事業にはメリットが無い」と考えていることの方が大きな要因ではないかと思いました。もしIR活動を充実させることで事業にメリットがあるのであれば、経営者も自然と熱心になるという考えです。
そこで、一度IR活動の企業にとってのメリットについて考えてみたいと思いました。上場企業を経営していない私が想像して書いても空論になるので、今回はIR活動に前向き(と私が感じる)な上場企業でIRを担当されている役員の方たちにお話を伺った上で、私の解釈に基づいて整理しています(唐突なお願いにご協力いただき本当にありがとうございました)。

2つのメリット

企業にとってのIR活動のメリットは大きく2つだと考えています。
①投資家(ひいては社会)との間に信頼を築くことで、事業に必要な資本(もしくはより広く資源)の獲得を円滑にする。
②自社の発する情報に対して、異なる視点を持つ投資家から知見やフィードバックを得て経営に活用する。
この2つは別にあえて書く必要もない、一般的に言われていることかもしれません。つまり、どうやらIR活動を積極的に行い、メリットを享受している企業が、一般的に言われているものとは異なるメリットを得ているわけではなさそうです。
そうではなく、企業がIR活動から得られるメリットの大小は、いくつかの要因の相互作用で決まっているのではないかと考えています。以下では、IR活動から得られるメリットを得にくくする要因について考えてみたいと思います。

IR活動のメリットを得にくくする要因まとめ

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上記の図では、2つのメリットに対して、経営者の要因、IR担当者の要因、投資家の要因3つに分けて整理しました。以下では、それぞれについて考察したいと思います。

経営者の要因

①資本調達の必要性は無いと考えている
資本調達は不要と考えていたら、調達円滑化のメリットは感じようがありません。私は株式市場は社会的に企業を保有する仕組みだと考えており、資本調達が不要でも上場することは構わないと思います。ただ、どんな会社でも資本調達の可能性がないと言い切ることは困難だとも思います。経営上の選択肢としてM&Aや事業拡大のための大きな投資が検討されていないとすると、過度に保守的な経営になっているということかもしれません。

②投資家に経営/事業のことは分からないと考えている
客観視点からのフィードバック(もしくはそれに対する違和感)から得られる気づきは、自身の思考のフレームワークに変化を及ぼす貴重なものになり得ます。その意味で、自分よりも自社の経営や事業に対する理解が劣っているからといって、投資家のコメントを軽視することは合理的な姿勢ではないと考えます。(フィードバックの効用についてはまた別のnoteで書きたいと思います。)
また、このように経営者が考えていることは、IR担当者が自身の役割に意義を見出すことを難しくさせるようにも感じています。

③経営の変革は不要/避けたい/できないと捉えている
経営変革に対する捉え方は、IR活動への姿勢にかなり大きな影響を与える要因ではないかと考えています。分かってはいるけれど出来ない・やりたくないと思っていることを指摘されると葛藤を感じるのが自然ですので、意識的/無意識的に投資家からのフィードバックと向き合わない理由になり易いと思います。

IR担当者の要因

④投資家に対して受け身で積極的に獲得しようとしない
投資家に対して受け身であることの背後には、いくつかの暗黙の前提があり、そういった前提は経営者やIR担当者の考え等に影響されているように思います。
例えば、経営者が投資家の声に意識を向けていなかったり、IR活動に十分な資源を配分しなかったりすると、社内で投資家からのフィードバックは求められていないという前提になると思います。
また、IR活動と繋がる情報開示等の業務は従わなければならないルールにしばられているものも多いため、より自由度が高い場でも間違ってはいけない、失敗してはいけないといった前提になることがあると思います。
これは個人の意見ですが、IR担当者がこうした前提を主体的に変えていき、IR業務の意義を主観的にも、社内においても高めていってもらうことが、次世代のインベストメントチェーンを創る上でとても重要だと考えています。

投資家の要因

⑤増資をネガティブ視する
投資家は投資先企業の増資に対してネガティブな姿勢を示すことが多いように思います。時々、増資に対して投資家が「やられた」と言うのを聞くこともあります。しかし、株式市場の役割の一つがリスク資本を提供することだとすると、増資に対して自動的にネガティブな見方をすることで経営者を委縮させるとしたら、それは自身の役割の放棄にも見えます(もちろん増資には妥当性が必要ですが)。

⑥業績や資本政策に関心が偏る
これは私自身への反省でもあるのですが、投資家は求められるリターンをあげることを目標としやすいため、リターンに直結する株価や、株価に影響を与える業績や資本政策には自然に意識が向かいます。しかし、業績に長期で影響を与える経営のより深い部分には意識が向かいにくく、結果として企業に対し有意義な知見やフィードバックを渡すだけの基礎力の向上余地が大きいということがあるように思います。

⑦対話スキルが低い
もし投資家に有意義な知見やフィードバックを渡すための基礎力があったとしても、対話スキルが不十分だと、企業が取り入れられる・取り入れたいと思う形で渡すことができません。言いっぱなしではなく、活用してもらって初めてIR活動のメリットを感じてもらえると考えることが必要だと思います。
今回、IR担当役員の方が有意義な知見やフィードバックを得られる面談の割合がどの程度か聞いてみたのですが、この割合がもっともっと高まるとIR活動のメリットを実感できるのだろうと感じました。

企業の繁栄がインベストメントチェーンの基礎

今回お話を伺い、企業の繁栄があって初めてインベストメントチェーン関与者全員の繁栄があるのだと改めて感じました。その意味で、上場企業がIR活動のメリットを実感している状態の実現が、次世代のインベストメントチェーンに求められる要素ではないかと考えました。
企業と投資家の対話というと、企業が変わることで投資家がメリットを得るという文脈で語られることが多いように感じます。これが、対話を通じて企業がメリットを得て、結果として(投資家を含む)その他のインベストメントチェーン関与者がメリットを得るという全体視点での捉え方になると議論が深まったり、取れるアクションが広がるように思いました。

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