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IR面談をもっと有意義にしませんか?

きっかけ

IR担当者の方と投資家の間の面談の進め方は、明文化されたものはありませんが、一定パターン化されていると思います(例えば、短い雑談=>今日の進め方についての質問(例: “資料の説明簡単にしましょうか?”)=>企業の方から直近のアップデート=>事業面Q&A=>数字面Q&A=>エレベーターまでお見送り)。
一方で、実はIR担当者の方にも投資家にも好みや癖があり、そこに大きなギャップがあるとコミュニケーションが円滑にいかないことがあるように感じています。私も作法やこだわりが原因で企業の方からお叱りを頂いたことがあり、個人的な課題でもあると感じています。
私は次世代のインベストメントチェーンを共に創る上で、コミュニケーションの進化・深化は一つの重要なテーマだと考えています。そこで今回は、IR面談をより有意義にする方法を考えたいと思います。これは個人的な経験と考えに基づくもので、私が気づいていない論点や、より良いやり方があると思います。何かお気づきの点があれば、ぜひ気軽にコメント等頂けたらありがたいです。

IR面談の一旦のゴール

方法について考える前に、IR面談のゴールについてです。ここでは、IR面談の一旦のゴールを「企業と投資家の間の相互理解を深める」という所において考えたいと思います。IR活動の目的とは?というトピックはまた別の記事で書きたいと思うのですが、より大きなゴールに繋がる手前のゴールとして、IR面談の前と後で相互に対する理解が深まっていることと置くのは合理的だと思います。相互理解をゴールにするので、投資家が知りたいことを知るだけではなく、企業側も投資家について理解を深めることを想定しています。
相互理解を目指すのは、それがお互いにとってメリットになると考えるからです。例えば、IR担当者Aさんが投資家Xさんについてよく理解していると、Xさんに合わせた説明をIR担当者Aさんがすることで、投資家Xさんの理解は深まる可能性が高まります。これは、XさんにとってもAさんにとってもプラスの効果になります。
当たり前にも見えるこんなことを書くのは、IR面談では相互理解の形成を妨げる要素があると感じているからです。

相互理解を妨げる要素

パッと考えただけでも、相互理解を妨げる要素はいくつか思いつきます。
〇IR担当者側の要因
遠慮:
投資家は自分が何が分かっていないかよくわかっていない時等に、ふわっとした質問をします。その場合、本来であれば何が聞きたいのかを知るためのIR担当者側からの質問があってもいいと思うのですが、投資家に対して遠慮をされるのか何とか質問を解釈して説明をしていただく場合があります。結果として双方にフラストレーションが生まれやすいと感じます。
諦め:
投資家からの指摘や質問に対して、相手の納得を得ることを諦めて別の話に移ることもあるように感じます。それよりも回答が難しい理由を説明したり、フォローアップで回答する方がお互いにとって良い形になるように思います。
自己防衛:
これは下の投資家側の安易な批判の影響があると思いますが、IR担当者の方のコミュニケーションがオープンではなく、主観やニュアンスを極力含まない公表事実中心の説明になっていることがあります。それによって企業側の意図が伝わらない等の影響があるように思います。

〇投資家側の要因
単純化:
投資家は分かりやすい説明を求める傾向があります。一方で現実は複雑なので、分かりやすさを優先すると、説明は実態と乖離したものになりやすく、結果として理解のギャップが生じることになります。
短期偏重:
目先で起こること(例えば企業業績)を予想しようとすると、「結果<=行動<=施策<=戦略<=理解<=意図」という繋がりのうち、結果に近い表層部分にフォーカスが当たることになります。こうしたコミュニケーションで、投資家が企業について得られる理解は限られた部分になります。
安易な批判:
投資家によってはIR面談で批判的なコメントをすることがあるようです(特に業績下方修正等ネガティブな事が起こった後)。安易な批判をしてくる相手とオープンなコミュニケーションをするのは難しく、相互理解は深まるどころか溝ができ、結果として誰もメリットがありません。また、この影響は一度の面談に留まらず、高圧的な投資家に何度か会うことで、自然とIR担当者のコミュニケーションが堅くなっていくというインベストメントチェーン全体におけるコミュニケーションの形に負の影響があるように思います。

上記に加えた双方に共通の要因として、相手の前提に対する関心の低さがあるように思います。生まれも育ちも立場も異なる2者の間では、様々な前提が大きく異なっていて当然です。前提が違えば、同じことを聞いても受け取り方が変わるため、前提の確認は相互理解上極めて重要です。
例えば、一方から見て納得できない相手の言動も、相手の前提を理解すれば合理的に見えるということがあるはずです。ですが、IR面談では一定の前提が共有されているとの前提で進むことが多いように思います。個人の経験ベースでは、初めてお話を伺う企業とのIR面談で、具体的な投資方針や重視する要素について質問されるのは10回に1回以下です。

相互の理解を深めるための施策

以上のような要因を乗り越えて、相互理解が深まるIR面談にするための施策をいくつか挙げてみたいと思います。

自己紹介&近況アップデート
IR面談は企業と機関投資家という組織を代表する人同士の対話ですし、インサイダー情報の管理や投資家間のフェアな扱いへの配慮もあり、堅い雰囲気になりがちです。だからといって、相手が誰なのか、どんなコンディションなのかを考慮しない機械的なコミュニケーションでは、相互理解を深めるのは難しいと思います。また、株式投資から不確実性を排除することは不可能だとすると、株式投資には人と人の間の信頼関係が欠かせないと考えます。なので、初めての面談ではお互いに自己紹介をして個人としての一面を開示するのはその後の対話の土台になると思います。また、既知の間柄でも人は常に変化しますので、近況アップデートをするのも良いと思います。

投資方針について詳しく共有する
IRを担当されている方が以前、「出来る限り詳しく投資方針について教えてもらえると、説明を一定カスタマイズできるのでお互いにとって良い」ということを言っていました。面談中に投資家から口頭で伝えることもできますし、面談の時間を使うのがもったいないのであれば事前に文章で伝えることもできると思います。投資のスタイルや重視する要素が一定分かっている方がお互いにとってストレスが少ないコミュニケーションになるはずです(もちろん過度なカスタマイズは逆効果ですが)。

違和感を放置しない
これはIR担当者、投資家双方にいえることだと思いますが、相手の発言に違和感を感じる(そして時にはネガティブな感情を抱く)ことがあると思います。違和感は双方の前提が異なっていつたえよく生まれます。違和感を放置せず、自分が違和感を感じていることと、相手の発言の意図や背景について教えて欲しいことを(冷静に)伝えると良いと思います。遠慮せずに尋ねることで、相互理解が深まるきっかけが得られることもあるように感じています。

批判はお互いメリットがないと心得る
これは既にIR担当者側の自己防衛と、投資家側の安易な批判の部分で書いたことです。加えて、相手の背景や前提を十分に理解することは相当困難であり、十分な対話を経ない批判は的外れもしくは相手も既に分かっている可能性が高いことも認識しておく必要があると思います。

面談後のフィードバックをする
決算説明会後はアンケートが配られ、投資家側の企業に対するフィードバックを求められます。一方で、個別のIR面談の後にフィードバックを求められることはあまりありません(証券会社アレンジの面談では証券会社経由で求められることがありますが、企業に届くフィードバックは一定証券会社のフィルターが通ったものになっている可能性があります)。フィードバックは気づきや改善につながることが多いので、IR面談でも活用するのはどうでしょうか。私は面談の最後に、自分の側に軽視している重要なことが無いか等伺うことがありますが、今後は面談のやり方や質問事項に対するフィードバックをお願いしてみたいと思います。

まとめ

以上、少し細かい話になりましたが、次世代のインベストメントチェーンを共に創る上では、こうした実務上の細部も重要な検討事項になると思っています。ぜひ皆さんが考えるより良いIR面談のやり方について教えてもらえたらとても嬉しいです。一緒により有意義なIR面談が増える環境を作っていきたいと思っています。
(連絡先: contact@rfipte.com)

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