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ソーシャルロボティクス ーシニアに安心感を与えるAIやロボット技術を考えるー

 こんにちは, Hiroです. 

 今回はIoSJの第15回シンポジウム(2019/10/25)のレポートになります. テーマはソーシャルロボティクス, 筑波大学の田中文英先生をお招きし, 'シニアの情報社会参画'を軸に知見を深めていく会となりました.

 一体どんな研究が最前線でなされているのでしょうか. それに対し, 実際に使用することを想定したらどんな感想を抱くでしょうか. 主体である'シニア'の定義についても議論が活発になされました. (IoSJについてはこちら)(田中研究室の公式ページはこちら


1.田中文英先生の御略歴

 まずは今回の講師である田中先生についてです. 

 筑波大学 システム情報系 知能機能工学域 准教授 
2003年東工大博士課程修了, ソニー(株)就職, エンターテインメントロボットの研究開発に従事. 2004年から、カリフォルニア大学サンディエゴ校で, 人とロボットの関わり合いに関する研究を開始. 子どもとロボットの研究は世界中で報道され, 広く知られる. 2008年から大学に転職し, 東京大学を経て, 現在は筑波大学システム情報系・准教授. SoftBank社でPepperの子ども用アプリ開発を監修.

 憧れを抱かずにはいられない御経歴です. 名だたる企業や大学の名が並んでいて圧倒されます. 情報系, 特にAIやロボット関係は爆発的な人気を誇っていますから, 先見の明を持っていらしたということでしょうか?

 しかしながら田中先生が経験なさったのは, この分野の苦難の時代でした.

 「人工知能冬の時代」  

  先生が専攻を決められた際は, このように呼ばれていました. 詳しくは人工知能の歴史についてまた別の記事にまとめようと思いますが, 当時は'AIというソフトウェアには限界がある'(実際はハードウェア側の問題も)とされ, 一気に第二次AIブームが冷めていった真っ定中でした. 専攻に至っては, '成績の悪い生徒があぶれて行く学科'だったと言います. 今の第三次ブームを体感する身からは驚きです, 

 さらに卒業後sonyでAiboの最初期の開発グループで開発をされた後も, この余波に見えることとなります. 予算削減から, プロジェクトの縮小が決まったのです. 当時, 多くの技術者が同じ目に会ったとのこと. 

 しかしそれでも, 

「当時, 人間の相手をする=関わりあうロボットは他になかった. だから面白い

と楽しげに語るお姿には感服の思いです. やはり興味を追い求めることが重要ですね. 

 さて,  では大学に先見の明があったというべきか, こうした中で田中先生はカルフォルニア大学に招かれ研究を続けることとなります. それだけの実力を擁する先生は, ここから「ソーシャルロボティクス」に情熱を傾けていきました. 

 アメリカは西海岸で資本主義的に利益と結びつき, 人工知能の第三次ブームが来た今, 多くの技術者が今回は今までと違う,革新的だと語ります. Siriに代表されるように, 社会への実装も始まって久しい, と言っても過言ではないでしょう.

 ここで田中先生の研究は必然的に大きな注目を集めています. 

次は, そんなソーシャルロボティクスそのものについてお話が繰り広げられました. 


2.ソーシャルロボティクスとは?

   先ほど記したように, Social Roboticsは「人間と関わりあうロボット」に関する研究です. その先駆けが, 皆さんご存知のAibo. 続いてPepparなどが登場し, 現在では介護コミュニケーションの担い手・相手としての研究開発も盛んになっています .

 もっと具体的には, 

「人と触れ合い, 心理社会的に支援・拡張する」

というのが主な役割になるそうです. 例えば物理的に人々の歩行を支援したり, 健康状態のモニタリングコミュニケーションの支援もこれに当たるとのこと. 

 嗅覚の拡張, 小児の運動学習支援, 表情の分析に基づく表出支援など, もっと細かく分ければ多岐に渡るのですが, これら全て田中研究室で行っている研究だそうです. また, 安心を生み出すために, 人との接点であるハードウェアの素材やデザインの研究にも挑んでいると言います. 

 硬質なイメージの機械が自然のように直感的に馴染む未来, とても興味深いです.  

 

 さて, ソーシャルロボティクスとは, 人間の基本的な社会参画を支援し, 安心を演出するロボット研究なのだとわかりました. 次は,  IoSJの軸である'シニアの社会参画'に関して伺います. 

3.'シニアに安心を与える'ために

 シニアという言葉も難しいもので, やはり個々人で健康状態も何もかも違います. しかしここでは, あえて, 身体機能や脳の能力が本人の若い頃より衰えた方を想定しようと思います. 

 彼らの感じる'不安・不便'とはなんでしょうか. 

   身体的には, 昔より体が思うように動かない. 満足に歩けない. 

 他には, 記憶力が落ちてきた. うまく気持ちを言葉に表せない. とっさの判断が苦手になった...…など. 

 これらの課題を解決するのに, ロボット・人工知能は大きな役割を果たし得ると田中先生は考えているそうです. 特にコミュニケーションに関して, 今まさに研究されている内容の紹介も行なってくださいました.  

   それが, 離れた家族との円滑なやりとりを助けるロボット. 

 特にシニアの方を対象にしているというのは, 子供に面倒を見られることに抵抗を感じることが多く, トラブルが最もよく生じる場面の一つだからだそうです.

   それでは, 田中研究室の野口さん(博士課程)が行っている研究実験をお伺いする中で探っていきましょう. 


4.質疑応答からみる研究の難しさ

 野口さんが行われているのは, 「人の性格に応じて良い言葉選び・振る舞いをするロボット」の研究です. 

 これが完成すれば, 相手を不用意に刺激したり, わだかまりが少ない形でやりとりができるようになり得ると言います. 音声, 口調, 婉曲さなど様々な観点から, 両者の関係性の中で一番良いあり方を提案してくれるというわけです. 

 また実用化され, データが集まれば, いずれ世のやりとりは全てスマートになれるのかもしれません. 補助ですから, 完全に機械任せでなく, 自分でもカスタマイズできるという点にも可能性を感じました. 


 この'最適な伝え方'を見つけ出すためのデータ収集が, 現在の実験に当たるそうですが, 参加者からはたくさんの質問と意見交換が行われました. 

    まず'シニア'の条件設定, それから, 実験対象の吟味と属性の分析

 「65歳以上」を条件としており, 先述した個別性が一つ問題に上がりました. 

 また, 実験に参加できるシニア層自体が好奇心旺盛だったり, 体力がある一部に限られてしまうといった指摘もありました. これは, 実際に調査対象となる方々でなければ気づきにくいポイントだったかもしれません. カテゴリ付けとは共通の特徴でくくることですから, その定義に際しての取捨選択には気をつけたいです. 

 さらに, この実験はまだ'最適な伝え方'の仮説を立てるためのデータ収集段階でとにかく量が必要でしょう. 学習をするAIを搭載している点で, 実用における心配をする段階ではないのでは, とも考えますが……同じ理系として, 研究の対象設定の難しさ, そしてそれを一般の人に伝える難しさを学んだ気がしました. こうした意見交換の場も積極的に設けた研究を行う必要があるのかもしれません(それには, 専門的な話題を理解して頂くほどの思考力と好奇心が必要だ, というのも考慮しなければなりませんね). 


5.まとめ

 今回はソーシャルロボティクスについて学びました. 特に「安心」をキーワードに研究されているのは世界でも田中先生が先駆けだそうで, 可能性を感じますね.  

  また私見ですが, 

「人工知能研究が, 人間の知性や人間らしさを見つけることに繋がる」

と再考させられました. その点からも大変奥深い領域の扉を覗けて大きな学びとなりました. 

 機械(特にAI)と私たち人間との接点に当たる領域ですから, 誰もが関係してきますね. これからもアンテナを張っていけば, もっと面白い発見がありそうです. 

 それでは, また,  

 


   



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