IPO(3):入札方式下

ひろです。引き続き、IPOについてまとめていきます。

前回のおさらい

前回では、①入札方式下でも高い初期収益率が発生していること、②BB方式に実質的に移行してから異常に高い初期収益率が追加的に発生していること、という2つの謎に対して、「過小値付け」(があるとすれば)の理論的背景を整理しました。

そこで今回は、まず入札方式(~1997年(事実上))において、結局のところ過小値付けが発生しているのか、それは正当化される水準なのか、見ていきたいと思います。
(今回も一時有料化しますが、どこかのタイミングかで無料化予定です。)

(追記)無料化しました。

入札方式下の「過小値付け」

さて、最初に整理した通り、日本のIPOは入札方式下においても平均13.1%という高い初期収益率があります。
この分析のため、筆者はまず入札結果のデータを用いて、「公開前の」需要曲線を銘柄ごとに推計しました。こうすることで、公開価格が需給均衡水準で決定されているのか、それともやはり「過小値付け」が発生しているのか分析しています。

結果は、意外なことに…むしろ「適正値付けがされている可能性」が強く支持されたのです。

なんと、推定された均衡価格と、実際の公開価格は散布図化すると綺麗な45度線を描きました。
これが何を意味するかというと、「高い初期収益率は、意図的な過小値付けによって発生しているわけではない」ということです。
これは更に「投資家の需要曲線が、公開前は何らかの理由でそもそも低めに位置しており、公開とともに上方にシフトする」ということです。

「過小値付け」の理論と実証的裏付け

筆者はそこで、更なる分析のため、①たとえ全ての投資家が同じ情報を保有していても、投資家はそれぞれ異なる意見を持つ、②市場で成立する株価は、そのような投資家たちの平均的意見を反映して決まる、の二点を前提条件とします。
(IPO株は信用買いは可能でも信用売りに制約があることが多く、悲観的な投資家の意見は株価に反映されづらく、逆に楽観的な投資家の意見が反映されやい=初値は投資家の平均的意見を反映した水準よりも高く決定され、高い初期収益率が実現する、という理論・見解もあるようです。筆者は公開価格の決定に原因があるとのスタンスであることと、仮に初値に上記の理屈が適用されるとしても初値を押し上げる効果で初期収益率をより高めるのみ、とのスタンスです。)

そこで、IPOはPO(既上場企業による株式発行)と比べると、「現在の株価」が正確にはわからない、という違いがあります。POであれば今から発行するまでの期間における、株価の不確実性、がありますが、IPOの場合はそれに加えて、現在の株価の不正確である(可能性がある)、という追加的なリスクがあります。
「不正確性プレミアム仮説」と筆者は呼称しますが。このように、公開前には誰も投資家の平均的意見(およびそれにより決定される株価)を正確に知ることはできないためプレミアムが付与され、結果として、公開後は平均的意見が判明するためプレミアムが解消し、高い初期収益率が実現される、ということです。

筆者が実証検証を行ったところ、実際に、投資家意見がばらついていると想定される銘柄ほど高い初期収益率が実現されているとわかり、仮説が裏付けられました。

よって、入札方式における過小値付けは、そのような過小値付けがなければ投資家が購入しない以上、発行企業・既存株主が不可避的に負うべき損失である、という結論となりました。

「公開前に比べると過小な値付けはあるが、それは妥当なディスカウント(適正な値付け)である」…非常に興味深い議論ですね。

今回は、以上です。次回はBB方式を見ていきます。

ではではまた。

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