IPO(1):序論

ひろです。ようやく過去の記事も最新版まで来たので、これより先は新規の記事になります。
さて、IPOについて『IPOの経済分析』という書籍をもとに、まとめていく予定です。

~ここから過去の記事~

最近ダモダラン先生のNarrative and Numbers日本語訳もあります)という本を読んでいたら、「What-if分析:価値を最善予測の一本値ではなくレンジで提示することで、今後生じるほぼ全てのことは貴方の予想の範囲内にあったと主張可能」と書かれていて笑い転げた、ひろです(いや、他にも記載はありますよ…ただ、この記述があまりに"cynical reason"過ぎました笑)。

さて本と言えば、最近『IPOの経済分析』という書籍を読んでいて結構面白かったので、この内容に依拠しながらIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)について整理していきたいと思います。

リンク先の写真で帯もありますが、
「新規公開株の異常に高いリターンは正当化されるのか?」
と、なかなか挑戦的になっています。

でも確かに「IPO 儲かる」なんかで検索すると様々な記事が出てきますし、ちょっと「IPO 証券会社名」で検索かけると、IPOをフィーチャーした新規口座勧誘ページなんてのも見つかりました。

画像1

(例として野村證券で検索するとこういうページがかかりました)

わざわざこんなページすら用意されているということは、「IPO」で検索をかける人もそれなりにいるのでしょうね。

さてそもそもの事実として、実際にIPOは儲かっているのか?という点をまずは確認したいと思います。

「初期収益率」という、初値が公開価格をどれだけ上回ったか、という比率がありますが、書籍では国際比較が掲載されています。
国によって期間は異なりますが日本では1970-2016年3,488件のというかなりの長期間データになっています(同データの最新版はこちら)。
結果としては、日本の初期収益率の平均は44.7%、米国は16.8%、英国は16.0%、ドイツは23.0%…等となっており、G7日本除きの6か国平均は16.2%とのことです。
50%近く初値が上がっている、ということになります。

更に著者は分析を深め、1989年までの「固定価格方式」時代のデータを除き、「入札方式」しかなかった時期(1989~1997年)と「ブックビルディング(BB)方式」も可能になった時期(1997年~著書では2017年)とを分けた結果、BB方式に実質的に移行(入札方式は排除されていないが、使われていない)してからは13.1%の平均初期収益率が67.6%にまで跳ね上がったことを示しています。
これは市場全体のパフォーマンスを踏まえても、あるいは初値後の一定期間をとって分析したとしても、なお不可思議な差異でした。

初期収益率が高いということは、①初値が高過ぎるか、②公開価格が低過ぎるか、ということですが、筆者は初値とは言え需給を反映したものであるし、株式市場の効率性を全面的に否定することはできないし、「多くの場合に高めにミスプライスする」という状況が放置されるのも不自然であり、かつ、価格決定方法が変化すると収益率が変化した事実もうまく説明できないため、①の可能性は否定しないものの、もっぱら②の視点から考察していっています。
まあ確かに、冒頭で紹介した通りこれだけ「儲かる!」と騒がれているのが初値だけの話であれば、逆に初値水準での買付けにはむしろ慎重になってもおかしくありません。

初期収益率が高くあり続けるという点、筆者は「アノマリー」(理屈でうまく説明できない特異な値動き)とする解釈もあるものの、必ず理由があるとする解釈があり、解釈方法を経済合理性や投資家心理・非合理性に求めるものがあり、筆者は基本的に経済合理性に基づく解釈を試みています。

さて今回はこのような冒頭に留めることにして、次回以降に更に続けていきましょう。
先の内容をまとめる中で、前の内容にも加筆することもあるかも知れません。

ではではまた。

以下、参考

なお今回は参考として以下に、上述の「固定価格方式」、「入札方式」そして「BB方式」について概要記載しておきます。

<固定価格方式>(~1989年3月)

入札方式が導入されるまで、唯一の公開価格決定方式。
主幹事証券会社が類似会社3社程度の株価、配当、純利益、純資産を基に想定発行価格を決定。
その後、有価証券届出書を提出し1か月後に実際に発行価格を決定するが、大幅な市場変化がなければ、想定発行価格がそのままに発行価格に。
投資家への配分方式は、証券会社の裁量。
ほぼ例外なく初値は公開価格を上回り、たとえば1980年1月以降に東証1・2部に上場した115銘柄を分析すると全ケースで初値が公開価格を上回り、平均初期収益率は61%。原因は公開価格が類似会社の財務をベースとする一方、初値は投資家需給であり、新規公開への人気や成長性期待等が反映されるからと考えられる。

<入札方式>(1989年4月~事実上1997年10月)

1988年のリクルート事件を契機に、上記固定価格方式のように「必ず儲かる」IPOではなく、株式公開に対する公正性の確保が強く要請されるようになり、導入。

ひろ:方式の導入にも歴史が関わっているんですねえ。。。と、率直に思ってしまいました。

正確には「部分入札方式」であり、2段階で公開価格を決定する。
1段階目は、新規公開株式の一部を複数価格方式(pay-what-you-bid)で入札にかけ、入札価格の高い順に予定株数に達するまで落札していく。投資家は高い価格でないと落札できない可能性が高くなり、他方、高過ぎると利益が減少するので、入札巧拙が問われる。
そして2段階目として、入札結果をもとに残りの非入札株式の公開価格を決定する(入札の加重平均価格。後にそこからの割引が導入され、その平均は6.1%)。
1997年10月のJR東海のIPOを最後として、有価証券届出書の欄として存在はするが、事実上使われない方法に。
入札部分について、投資家が取得可能な株数は5,000株以下の範囲内で主幹事が定める1単位に制限されており(通常1,000株)、機関投資家や外国人投資家ではなく、投機的姿勢の強い個人投資家の入札動向に公開価格が左右されることになった。この取得株式制限は、非入札部分にも同様に適用されており、いかなる投資家も1単位しか配分を受けることができず、株式の配分に主幹事の裁量はまるでなかった。

<BB方式>(1997年9月~)

証券会社がIPO人気で吊り上げられた公開価格が公開後に大きく値崩れすることを問題視して、日本証券業協会を通じて当時の大蔵省証券局に要望した結果、導入。
主幹事が理論価格を算定し、IPOディスカウント(「10%-20%、市場環境が悪ければ50%も」)も加味して発行会社と協議の上、想定発行価格を決定。
その後、価格発見能力に優れているとされる機関投資家を対象にプレマーケティングを実施。妥当価格と申込予定株数をヒアリングし、主幹事は発行会社と協議の上、仮条件(公開価格の上限と下限)を決定。
そして、ブックビルディング期間(1週間程度)として、投資家から仮条件の範囲で購入希望価格と購入希望株数を受付け。主幹事は最多価格帯や申込分布状況を踏まえて、公開価格案を決定し、発行企業に提示。なお、補足として、日本では投資家需要がどれだけ強くても、仮条件の上限を超えた水準で公開価格を決定されることは、慣習としてない。(cf. 米国は上限・下限超えも多く、柔軟性はより高い)(ただし、同様の慣習があるフランスでは初期収益率は低く、仮条件の拘束力ではなく、そもそもの仮条件の価格帯の設定が、日本の高い初期収益率の要因であろうと筆者は述べている)
公開会社が公開価格を決定し、投資家から正式な発注を受ける。
株式の配分は、2006年8月に導入された抽選配分制度の適用部分を除けば、基本的に主幹事他引受証券会社の裁量。

~ここまで過去の記事~

やっと次から新しく執筆していく記事になります。
ではではまた。

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