企業価値評価(4):DCF法②

ひろです。さて、DCF法の続きですね。
だんだんコピペ+微修正、という作業にも慣れてきています(笑)。

~ここから過去の記事~

さて、DCF法を行う上では、事業計画とWeighted Average Cost of Capital(WACC)が必要です。
事業計画を策定し、そこからunlevered free cash flowを算出し、それをWACCで現在価値化することになります。
「unlevered」とは「レバレッジ(有利子負債)を活用していない(un-)」という意味で、事業計画上は有利子負債を活用していたとしても、なかったものとして計算します。
計算方法としてはEBITを活用することもあれば、当期純利益から算出することもありますが、結果としてはどちらも変わりはありません。
細かな計算は、追ってexcelファイルを作成しようと思います。

さて、unlevered free cash flowを現在価値に割り引くためのWACCは、以下のような数式で計算されます。

WACC = cost of debt × (1-t) × D/(D+E) + cost of equity × E/(D+E)

順々に実務的な要素も含めて解説していきます。

Cost of Debt
有利子負債のコスト=金利、のことです。即ち1%とか2%とか、そういう水準を指します。
実務的には①実際の企業の支払利息の%(各有利子負債の加重平均)を使用するか、②格付や推定格付を基に、日本証券業協会が提供する格付マトリクスを活用する、の2通りが多いかと思います。
②については、格付投資情報センター(R&I)日本格付研究所(JCR)Moody'sStandard & Poor's(S&P)、のデータがあるので、評価対象企業の実際の格付または推定格付を基に、適用する金利を決定するものです。
推定格付は、恐らく証券会社であれば様々なデータセットを駆使して、格付の算定式を推定して(たとえば売上規模、EBITDA規模、EBITDA Margin等が格付けにどう影響するかを、数式として推定)、その算定式に対象企業の財務情報を適用する、といったことが可能です。
年数としては、特段実務的に決まっているものはないとは思いますが、DCF法自体が長期的なものなので、やはり金利も長期として5~10年の金利を使用するのではないかと思います。

ちなみにですが、各格付機関の格付は、R&Iであれば左側にある「クイックリンク」の「格付一覧」から、JCRであればトップページの「格付一覧」から、Moody'sはトップページの「月次格付一覧」から、S&Pは「格付け変更」から「 月次格付け一覧」等から、それぞれ確認可能です。

1-t
これは、有利子負債の支払利息については節税効果があるため、それを反映するものです。
もともと「unlevered」のfree cash flowを割り引くということで、キャッシュ・フローは有利子負債がないものと計算しているため、節税効果は反映されていません。「資本構成とその節税効果はWACCで反映している」ということです。
株主資本コスト(cost of equity)については、株主の利益(配当等)は当期純利益が基となる=「税後」なので、節税効果はないため1-tはありません。

D/(D+E)
Dは有利子負債残高、Eは株主資本で、すなわち「総資本」中の有利子負債残高の比率を乗算することで、cost of equityを「weighted average(加重平均)」にしよう、という計算です。
ただし、ここでいう有利子負債も、株主資本も、「時価」ベースです。即ち、株主資本は時価総額を意味しています。有利子負債も厳密には時価ですが、日本では時価≒簿価なのであまり気にする必要はありませんし、何かしら調整されているのを見たことはありません。

Cost of Equity
これは株主資本に必要なコスト(金利のようなもの)を意味していますが、また面倒なことに、更に数式として以下の通りに算出されます。これはCAPMと呼ばれる理論を活用しています。

Cost of equity = risk-free rate + β × market risk premium

「risk-free rate」は、日本企業の場合は日本国債の金利を使用します。実務的には一般的に10年ものの利息を使用します。
これは、10年国債が最も流通量が多いため価格が適正である可能性が高いことと、後で出てくるmarket risk premiumの推定上で10年国債からのプレミアム(上乗せ分)を算出していること、が主な理由としてあります。

「β」は株式のシステマティック・リスクを表しています。実務的には、たとえば日本企業についてBloombergでは、特定の株式の株価とTOPIXの関係からβを推定しています。
簡単に言うと、TOPIXの変動と特定銘柄の変動の関係性を表す数値であり、βが2の企業は、TOPIXが2%上昇した時に2%×2=4%上昇します。また、βがマイナスの企業は「TOPIXとは逆に動く」ということです。βが1の場合は、TOPIXと同様に株価が変動する企業、ということになります。
更に簡単に言うと、「TOPIXの変動と特定株式の株価の変動とを回帰直線で分析した傾き」ということです。Excelでも頑張れば算出できますが、今時どこのデータベースでもβは提供していると思います。
Bloombergでは過去2年間で週次(not日次)のβをデフォルトで提供しています。

計算したそのままのβを「未修正β」と言うならば、それに一定の調整を加えたβを「修正β」と呼びます。
「一定の調整」とは、Bloombergでは 修正β = 未修正β × 2/3 + 1/3 です。
これは過去のβからより適切は「将来のβ」を推定した研究結果に基づくものです(βが1に近づいていきます)。
まあ、実務的には修正βを使うことの方が多いのではないかと思います。多分。

類似会社を基にβを算出する場合は、一度「unlever」で資本構成に中立的なβを類似企業それぞれについて算出した上で、その平均値や中央値を使用することになるかと思います。
使用時は、「unlevered β」を「relever」して評価対象企業の資本構成を適用し「relevered β」を算出して使用することになります。ここら辺の計算はexcelでまとめたいと思います。

「market risk premium」とは、株式市場のリターンとrisk-free rateのリターンとの差=プレミアム、を意味しています。
データ提供会社としてはIbbotsonが有名で、対10年国債金利でmarket risk premiumを推定しています。「いつからいつまでのmarket risk premiumを使用するのがよいのか?」は、会社毎でルールを定めているかと思います。

①market risk premiumにβを乗算することで個別に求めるべきプレミアムを求め、②そもそもプレミアムは対10年国債金利のものなので、10年国債金利を加算したのがcost of equity、と理解すればよいかと思います。

なお、さすがにCost of EquityがCost of Debtより下になっていたりすることがないように留意してくださいね。
機械的に計算していると稀にそういう計算結果になることがありますが、Equityの方がDebtよりリスクが高いと一般的に考えられるため、そのCostはDebtのCostよりも高くなります。

E/(D+E)
D/(D+E)と同じ趣旨です。

以上でWACCの整理が終わりました。

最後に、事業計画が存在する最終年度から先のキャッシュ・フローを総合的に指す「継続価値」については、前回でも触れましたが、その算出方法は主に2つあります。
1つは永久成長法であり、もう1つはexit multiple法です。
永久成長法は、「一定の成長率が永久に続く」と考えて、継続価値を算出する方法です。これは簡単な数学的な計算を用います。永久の成長と言っても、何十年も先は十億も百億も変わりがないような世界に突入しますから、向こう数十年間の平均的な成長率を考えればよいことも、日本企業においては0%を中心とすることが多いことも、前回ご紹介した通りです。
exit multiple法は、最終年度のEBITDA等を活用して、EV/EBITDA(multiple)を活用して最終年度の企業価値を算出し、それを現在価値まで割り引くものです。売却(exit)を前提とした企業価値評価手法です。

~ここまで過去の記事~

過去の記事からリンクを微修正しました。
ではではまた。

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