企業価値評価(3):DCF法①

ひろです。さて、ここからは「DCF法」ですね。

~ここから過去の記事~

DCF法は、端的には「キャッシュ・フローを一定の割引率により現在価値に換算することで、企業価値評価を行う手法」と言えます。
よって、今までのように市場データ(株価等)を用いる方法ではなく、企業から生じるキャッシュ・フローを基にするため、「インカム・アプローチ」と言われています。

ただ、ひろ個人的には、「割引率」を求めるのに多分にマーケット・アプローチを駆使しているように感じています。
その理由としては、株主資本コストを算出するのに使用するのは、実際に株価や市場インデックス(TOPIX等)から算出される株式βや、市場の過去のパフォーマンスから推定するマーケット・リスク・プレミアムだからです。更に加えて、Exit Multiple法に基づけば、結局は企業価値の大半はEV/EBITDAによる評価になりますし、永久成長法としても、割引率は先述の通りマーケットを活用していますし、永久成長率なんて確証もって言える人なんて存在しません。(各専門用語の内容については後述します。)
よって、「マーケットの考え方も取り込んだ上で、インカムを活用するアプローチ」という認識の方が正しいと思います。

さて、そんなDCF法のメリットと留意点について纏めてみました。

メリット

評価対象企業の独特な要素を反映できることです。
すなわち、成長性や利益率、その他の特別なキャッシュイン/アウト要因(資産売却等)は、全てキャッシュ・フローとして捕捉されるので、そのタイミングも併せて、企業価値評価に織り込むことが可能です。
よって、類似会社比較法の欠点である、「完全に同一の企業は存在しない」ことに対する、1つの回答と言えます。

留意点

①事業計画
「事業計画」そのものが大きな問題となります。今年度や来年度なら、それなりの精度で予測可能と思いますが、再来年度以降ともなると、だいぶ「大雑把」にならざるを得ません。その中で、比較的アグレッシブに策定しても、比較的保守的に策定しても、実務上は割引率は変わりません。
美しい理論上は「アグレッシブな事業計画は達成確度が低くなるため、割引率をより高めに設定する」「保守的な事業計画は達成確度が高いため、割引率はより低めに設定する」ということになるのでしょうが、「では一体どの程度割引率を変化させればよいのか?」という"no one knows"な調整を行うことは、実務上はありません。
そもそも、何をもって「アグレッシブ」であり何をもって「保守的」なのかさえ、人によって見方は異なるでしょう。「アグレッシブだから云々」という議論の土台を揃えるのも並大抵の話ではありません。
よって、結果としては、割引率は不変なままに、事業計画次第で創出されるキャッシュ・フローがころころと変化し、企業価値の評価結果を左右することになります。「大なり小なり大雑把に考えた事業計画の前提次第で、企業価値評価が変化してしまう」という点に留意する必要があります。

②割引率
割引率は先述の通りマーケット・アプローチ的な側面が強いパラメータです。たとえば株式βを類似会社から求めるとしても、「どの程度類似しているのか?」という点は常について回ります。
また、マーケット・リスク・プレミアム(MRP)にしても、Ibbotsonの提供データを用いている場合が多いとは思いますが、「いつからいつまでのMRPが、今後のMRPとして使用すべき水準を示しているのか?」という点については、もはや「各証券会社でバラバラ」としか言いようがないです。そもそもMRP自体、統計処理はできても相当程度"no one knows"と言って差し支えない内容でしょう。よってどの証券会社も「会社ルール」として画一的に定めており、「適正なMRPは幾つか?」という実務的には不毛な議論は避けているかと思います。
証券会社によっては「スモール・サイズ・プレミアム」ということで、小規模企業の場合には割引率を上乗せする場合があります。しかし、何をもって「小規模」として、一体いくら割引率を上乗せするのかは、一定のルールが設定されているものと思われます。また、「条件を満たせば必ず乗せるもの」とされているのかも、定かではありません。
このように、割引率自体、相当な「決め打ち」で決まっています。そのように理解して使用する必要があります。

③継続価値
通常DCF法では事業計画は5年間程度策定し、それ以降はExit Multiple法又は永久成長法で処理します。この「以降の期間の価値」を「継続価値」とも称しますが、ここにも問題があります。

第一に、継続価値が企業価値全体の大半を占めます。よって、Exit Multiple法であればEV/EBITDAによる影響が、永久成長法であれば永久成長率による影響が、それぞれ最も大きくなります(企業価値の7~8割は占めることになるかと)。

そのため、Exit Multiple法は、EV/EBITDAの水準ももちろん問題となるところですが、「そもそも素直に類似会社比較法をそのまま使用すればよいのでは?」と誰もが突っ込まざるを得ないでしょう。あーだこーだ計算していますが、ほとんどは最終年度EBITDAとマルチプルの水準で決定されてしまいます。

永久成長法は、永久成長率の設定が問題となります。「永久成長」とは言っても、何十年も後の成長率がいくつであろうと、割引後の現在価値は大差ない結果になるので、「今後数十年程度の成長を均して見た時にどの程度の平均成長率になるか?」を考えればよいと思います。
とは言っても、「それってどんな水準?」ということこそが問題なわけですよね。
実務的には評価対象企業が日本企業の場合は、ベンチャー的な成長フェーズにある会社でもなければ、永久成長率は0%を中心に置くことが多いように思います。永久成長をマイナスに置くことは決してないように思いますが、そもそもそんな設定をしたら「買収しても仕方ない企業」と言っているようなものなので、さすがに難しいでしょう。

ただ、ひろ個人的には企業によっては、「マイナス成長が妥当では?」と思ってしまうこともあります。
「マイナス成長だと最終的には限りなくゼロに近づいてしまうので継続企業を前提にしていると不自然」という指摘もごもっともなのですが、先述の通り、何十年も先に行ってしまえば、現在価値にしたら微々たる数値にしかならないので、ゼロだろうがゼロでなかろうが、実質的に問題にはなりません。「なだらかに縮小していく会社というのも考えてよいのでは?」とひろは思ってしまいます。

さて、これら継続価値に係る欠点ですが、「では事業計画をもっと長期化すればよいのだ!」と言えばまあそうなのですが、実際は、長期化すればするほど、依拠できる根拠はまともに存在しなくなっていくので、感覚的な話になってしまったりして、そもそも事業計画の信頼性が落ちていきます。
先ほども言った通り、「事業計画の信頼性が落ちた分だけ割引率を高める」なんてことができればよいのですが、実務上はそのような"no one knows"な調整は行いません。よって、長期化しても結局は「価値評価結果の妥当性がよくわからなくなってくる」というオチになります。

さて、今までの話から分かる通り、価値評価について、DCF法は「魔法の杖」とはなりません。
いわゆる「バリュエーション」を習いだすと、DCF法という"一見"精緻な計算を駆使した評価モデルが「万能」であるかのように錯覚してしまいますが、実際はそんなことはありません。
事業計画や割引率、出来上がりとしての企業価値について、結局は高度な判断を要するということです。

とは言っても、実際はDCF法で特定の企業価値(たとえば100億円)が正当化されない(たとえばDCF法では50~80億円という評価になった)なら、その企業価値(100億円)を正当化するのは困難でしょう。たとえ市場株価法と類似会社比較法で100億円が正当化されても、まさか「市場で100億円で取引されているから100億円」なんて議論は公には認められず、類似会社比較法はあくまで「類似会社」なので限界があります。DCF法は個別の要素を勘案できることに意味があるわけで、非常に重要な評価手法とは言えます(実態面の困難さはさておき)。

さて、今回は留意点を記載していくことでだいぶ紙幅を使用してしまったので、今回はここまでとします。

次回からは、割引率(WACC = Weighted Average Cost of Capital)を算出する各パラメータに関する説明をして、実際にGFC社について、DCF法に基づく企業価値を行っていきたいと思います。

~ここまで過去の記事~

さて、どんどん行きましょう。
ではではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?