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なぜ草津温泉はボイコットされたのか?

町長に性暴行を受けたと告発した町議をリコールしたことで、日本一の温泉地・草津温泉が注目を集めている。

これに対して女性を心に草津温泉をボイコットするハッシュタグも作られ、それをまた批判するコメントが付くという昨今見慣れた風景もTwitter上では展開されている。

ボイコットを批判する側の認識はフェミニストが町長の性暴行疑惑や、告発した町議はリコールされたことを以て、草津町に怒っているという考えが主なようだ。
だから、リコールは民意だとか、町議の言動は信憑性が低いなどと反論しているが、そもそもこの見立ては正しくないと私は思っている。

では何が女性たちを怒らせたのか?

結論から言うと彼女たちは「セクハラの訴えが握りつぶされ続けて構図と相似のもの」をこの騒動に見たのだと思う。
つまり、上司のセクハラを告発した女性社員が、閑職に追いやられたり、仕事を辞めざるを得ないように仕向けられる、その構図を見たのだ。
これは実は女性だけの問題ではない。
会社の不正やパワハラを告発したり、退職勧告を拒否した社員、男性も含めて、が同様に道を足るようなケースだってありうるだろう。

そうしたことがテーマになった映画、ドラマも少なくない。「インサイダー」や「スキャンダル」などもそうだろう。

ここで大きなポイントになるのは、町長による刑事告発や名誉棄損の裁判の結論がまだ出ていない、ということだ。逮捕された形跡はないわけで刑事告発による捜査中もしくは嫌疑不十分になったかどちらかだ。
名誉棄損の裁判はまだ継続中だ。

つまり、いかに告発が疑わしいと主張しても、少なくとも法的にはまだ結論が出ていない。その時点でリコールだったということだ。

この真偽がはっきりしない段階でのリコールこそが多くの女性の反発を招いた要因といえよう。

なぜか?
それは、町議の告発の審議が客観的な理由もなく疑われたからだ。
杉田水脈の「女性はうそをつく」発言、伊藤詩織氏に殺到した告発内容が嘘だという中小誹謗、それらと同じ構図だ。

だから、女性たちは怒り心頭だったのだ。
逆に言えば、もしこの告発が虚偽である疑いが高ければ、女性たちの多くはここまで怒らなかっただろう。
例えば名誉棄損が認められた後のリコールだったら、裁判が間違っていると主張する人もいたかもしれないが、それでも多くの人はその結果を受け入れ、リコールをある程度は容認できる対応だと受け止めただろう。

そういう意味では、町議会主流派は対応を誤った。
町長の無実を確信しているのなら、裁判が結審するまで待てばよかったのだ。

しかし、彼らはそれができなかった。告発以来、彼らは執拗に町議を排除しようとしてきたのだ。

今回リコールが大きくクローズアップされたが、町長寄りの町議たちが告発した町議を排除しようとしたのはこのリコールが最初ではない。

昨年の告発の直後、主流派は告発町議を町の品位を汚したとして、告発y町議の除名決議を行っている。彼女はこの時点で一度町議を失職している。
しかし彼女が県にこの処分の取り下げを訴え出て、この訴えが認められ町議の席を取り戻している。

主流派がリコールに動いたのはこれを受けての話だ。

このリコールでも主流派はミスをしたと思う。
リコールの提議をしたのがだれなのかはっきりしないが、こちらの記事によると議長が中心となってとしている。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2f17fefab42d33df9f9b7f821b1efafb0fcac5b3

要は実質的には町議会だ。

これ自体に「違法性」は何もない。

だが、リコール制度を定めている地方自治法では

その13条2項でで
「日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員、長、副知事若しくは副市町村長、第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市の総合区長、選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員の解職を請求する権利を有する。」
としている。

請求できるのは「日本国民たる普通地方公共団体の住民」となっているので形式的には町議会議長がそれを行いことは問題がない。
しかしこの項によるとその会食の請求対象は「その属する普通地方公共団体の議会の議員、長、副知事若しくは副市町村長」などとなっている。
つまり、議長は解職の請求対象になる。

形式論派ともかく、地方自治法の法理を考えると、請求者として想定されているのは請求対象ではない住民と考えるのが自然だろう。
何故なら、町議会の人間が他の町議会のメンバーの解職請求ができると、今回のようなケースでなくとも、多数派を占める派閥が少数派をリコールで解職に追い込むことなど容易にできてしまうからだ。

それをしないのは節度というものだ。
そして、今回議長らはその節度を守らなかった。

議長は自身が中心になるのではなく、せめて家族・親戚でもいいから別な「住民」を立てるべきだっただろう。茶番劇とはいえ最低限の節度を演出する工夫、努力をすべきだったが、彼はそれを怠った。

告発が事実であろうとなかろうと、「町のアルファメイルである町長のプライドを気付付けた女は許せなかった」のだろうし、町外から温泉好きが高じて立候補、当選に至ったよそ者が許せなかったのかもしれない。そして法的プロセスの結果が出るまで待てなかったし、有力者である自分たちの力をもってすればみんなを黙らせられると思ったのだろう。いずれも地域の有力者の男性が考え、やりそうなことだ。

これもまた女性の反発を買ったのだと思う。女性たちはこの執拗さや傲慢さにセクハラを悪いとも思わない上司などの姿を見たのかもしれない。

そういう印象をさらに強めた要因にこちらの記事があるかもしれない。
2ページ目以降に出てくる町議らの男性の言動だ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/dd949f8ef142ba996f362f990583c350a037de09

著者の北原みのり氏自身が書いているように「セクハラがセクハラと理解されない日常で、声をあげた女性を全力でたたきつぶそうとするその拳の強さを思い知る。」という部分はまさにうえで私が述べたことだろう。

そして、現実の生活でこれに似たような男性の言動に悔しい思いをした女性は多いだろう。

こうしたことの積み重ねていくと見えてくるのは、おそらく多くの女性が感じているであろう社会の女性に対する偏見や理不尽の要素が今回、草津町のリコール問題に見事に集約されたことだ。少なくともボイコットを叫んだ人たちにはそう見えただろう。
この時点で、もはや町議の告発内容の真偽は重要ではなかったのだ。

さらに付け加えると、こんなツイートもあった。
https://twitter.com/enamell/status/1333952869209235456

このツイートは一部では拡散されているけれど、知らない人もまだ多いのではないかと思うけれど、これ単体でもボイコット案件だと思う。

普通はこういう通報を受けたら、ひと騒動だが、追主によると報告を受けた職員の反応は「へぇ」程度だったということだ。
ツイ主は自衛一択と書いているし、その後言っていないことを示唆しているが、そりゃそうだろう。
ちなみにこれはリコールの結果が確定する前の投稿。さしづめリコールで話題になっていて思い出したのだろう。

さらにこのツイートにぶら下がる感じでここは以前から盗撮があったことを示唆する書き込みもある。ネットで調べてみると、確かにそういう話題は出ているからあながち嘘ではないのだろう。
ただし比較的古い話が多いようだが。

日本では欧米のように温泉に水着で入る習慣はないから、当然、裸で入るわけで、その分女性はやっぱり安全は気になる。特に露天風呂なんかは解放感と不安は紙一重だから、この対応はないと思う。
うがった見方をすれば、草津温泉の中興の祖といってもいいであろう町長もこういう方面への意識は薄かったのかもしれない。


いずれにせよ、こうした一連の事実から浮かび上がるのは、告発町議の告発内容の真偽とは無関係に、彼女のリコールを取り巻く状況が、典型的な男性社会による女性への偏見、差別、軽視の構図と重なるということ。
そして、それこそが、草津温泉ボイコットの本質がある。

おそらく、私がこういっても「そんな差別の構図なんかない」と主張する男性も多いだろう。だがそれは、「見えない家事」同様、意識のない人に見えないだけで、当事者の女性たちには日々当たり前のように彼女たちの前に立ちはだかる現実の壁なのだ。

そして彼女たちが怒っているのは、告発の審議ではなく、その壁がここにもそびえたっていたからに他ならない。

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