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誘拐(シナリオ)

あらすじ
有本勇気(4)が誘拐されたと
昔付き合っていた女性に
泣きつかれる自衛隊員・高橋勇太(23)。
それが実は自分の息子だと知り、
勇太は半信半疑で救出に乗り出す。

     人  物

高橋勇太(23)自衛隊員
有本加奈子(41)勇太の元恋人
有本勇気(4)加奈子の息子
香川真之(24)勇太の同僚
犯人A
犯人B
犯人C
犯人D

○高橋のマンション・リビング・中

   高橋勇太(23)が
   ポテトチップスを食べながら、
   テレビを見ている。

   昼のニュースでは、今朝、
   男児が誘拐されたという報道。

   ちょうどその時、勇太の携帯が鳴る。

勇太「・・・チッ、、休みの日に・・・え?」

   携帯の表示に、加奈さん、
   と出ていて、驚く勇太。

勇太「はい?」

加奈子の声「勇太!? 今、テレビ見てる!?」

勇太「テレビって、加奈さん、
  めちゃくちゃ久しぶりじゃ・・・」

加奈子の声「NHK見て、今すぐ!」

   勇太、慌ててチャンネルを変える。
     NHKのニュースも、さっきの
   誘拐事件を報道している。

キャスター「誘拐されたのは、
  有本勇気ちゃん、4歳、警察が
  行方を追っています」

勇太「え? え? 何のニュース?」

加奈子の声「あと10分で、そっち着くから」

   携帯、ガチャンと切られる。

○街中

   ビルの大型スクリーンに、
   ニュースが流れる。

○勇太の部屋・リビング・中

   有本加奈子(41)の話に
   驚く勇太。

勇太「はぁ!? オレの息子!?」

加奈子「勇太が19になってすぐ、
  私、姿をくらましたでしょ」

勇太「・・・オレの19ん時の・・・子供?」

   うなずく加奈子。

勇太「何で黙って消えちまったんだよ」

加奈子「だって勇太、未成年だったんだよ。
  それに私も若くはなかったわけで・・・
  どうしても産みたいけど、
  勇太に父親になってとは
  言えなかった・・・言ったら、
  産むの賛成してくくれた? 
  結婚してくれた?」

   思わずひるむ勇太。

加奈子「ほらね、こうするしかなかったのよ」

   加奈子、かばんの中から
   有本勇気(4)の写真を取り出す。

加奈子「今はそんなことより、
  あの子が誘拐されたのよ! 
  勇太、お願い、助けて」

   勇気の写真を渡されて、驚く勇太。

加奈子「勇気って名前なの・・・
  勇太にそっくりでしょ?」

   かわいらしい勇気の写真を見る勇太。

勇太「これがオレの子だって証拠は・・・?」

加奈子「顔見れば、わかるでしょ! 
  アンタの顔、そのままじゃない!
  それに事件が解決すれば、
  DNA鑑定でも何でもすればいいわ」

   勇太、ムッとして、

勇太「4年ぶりに突然あらわれて、
  オレの息子云々っていうのも
  びっくりだけど、そもそも何で、
  オレにこの子が助けられると思うわけ?」                                                                                                                                                                                                                                    

   加奈子、じっと勇太を見て、
   ワッと泣き出す。

加奈子「そうよね、どうにかしてるよね、
  もう、頭ごちゃごちゃで。
  警察がちっとも動いてくれないから、
  自衛隊の勇太なら、どうにかして
  勇気を連れ戻してくれるんじいかって」

勇太「何で警察が動かないの?」

加奈子「犯人の要求がのめないって」

勇太「要求って?」

加奈子「政治犯の釈放だか何だかよ! 
  何でそんな要求に、勇気が危険に
  さらされるわけ!?」


○同・リビング・中(夕方)

    ソファで横になっている加奈子。

    携帯で話している勇太。

勇太「・・・今、安定剤飲んで、
  ちょっと落ち着いてる。
  うん、青山ビルの図面、悪い、
  真之、すぐ頼む」

           

○街中

    帰宅ラッシュの人々で
    ごった返す交差点。

 

○同・リビング・中(夕方)

    ソファで眠る加奈子を見て、
    驚く香川真之(24)。

香川「全然変わってねーな、
  加奈さん、きれいなままだ」

勇太「・・・だろ? っつーか、
  オレの息子ってどう思う?」

    香川、ニヤリと笑う。

香川「一人や二人いったっておかしくない
  遊びっぷりだったぜ、勇太」

    勇太、溜息をつく。

香川「それよりお前、マジかよ? 
  無事救出できたって、
  自衛官の職に響くぞ」 

勇太「・・・何か、血が騒ぐんだ・・・」

香川「息子への?」

     首をかしげる勇太。

勇太「・・・身分を明かして救出する
 つもりはない。
 加奈さんの元に返したら、
 それで終わり」

香川「成功すれば、な」

     勇太、じっと香川を見る。

     香川、ニヤリと笑って、

香川「ナンバーワンの実力は認めるけど、
  後でどうなっても後悔するなよ」

○青山ビル・地下(夜)

     作業員の格好をした勇太、
     作業服の下のナイフやロープなどの
     道具一式を確かめる。

     そして、ナイフに手を置き、祈る。

勇太「どうか、モノ以外は切りませんように」

○同ビル・4階・清掃室・中(夜)

     床の一部が押し上げられ、
     梯子を登って来た勇太が、
     室内に這い上がってくる。

     清掃室の窓辺に立ち、
     向かい側の会議室をのぞく勇太。

     男二人が、電話の前で
     話し合っている様子。

     会議室のすみには、
     ひもで縛られた勇気らしき小さな姿。
     勇太、目を細めて、勇気を見つめる。

○同ビル・配線室・中(夜)

     会議室周辺のブレーカーを切る勇太。

○同ビル・会議室・中(夜)

     突然、真っ暗になった室内で、
     犯人Aと犯人Bが慌て出す。

     泣き出しそうになる勇気の
     口を押さえ、ナイフで縛られている
     ひもを切る勇太。

     勇太、勇気の小さな体を
     抱きかかえると、会議室を飛び出す。

                  

 ○同ビル・会議室・外(夜)

     非常用ライトを持った
     犯人Cと犯人Dが、
     勇太を待ち構えている。

     後ろから、会議室を飛び出してきた
     犯人Aと犯人Bにもライトで
     照らし出され、舌打ちする勇太。

○同・会議室・中(夜)

     犯人4人に取り囲まれる勇太と勇気。

犯人A「お前は何者だ?」

勇太「見ての通りさ、このビルの作業員だよ」

犯人B「うそつけ、何だ、この道具は」

     勇太、作業服の下から、
     道具一式を見つけられてしまう。

     勇太、ぷいっとすねて、

勇太「お前らの要求は、
  政治犯の釈放なんだろ? 
  じゃあ、オレを人質にして、
  この子を放してやってくれ」

犯人A「何だと? お前を人質にして、
  何のメリットがある?」

勇太「・・・この子を誘拐したのは、
  偶然じゃないのか?」

犯人A「当たり前だ。このガキは、
  政治家の上田政人の息子だ」

     勇太、固まる。

勇太「・・・あの、タヌキおやじの・・・?」

犯人A「正確には、隠し子、だな」

    勇太、再び舌打ちする。

勇太「(小声で)・・・あの女、
  あんなタヌキとも・・・」

犯人B「何をブツブツ言ってやがる」

    勇太、じっと勇気を見つめ、
    目元も口元も、自分と瓜二つの
    顔形に目を細める。
    と、勇気もこわごわながら、
    安心したような顔で、勇太を見つめ返す。

    勇太、意を決して、

勇太「上田政人の隠し子だってのは、
  確かなのかい?」

犯人A「それは、もちろん・・・」

    勇太、へっと鼻で笑うと、
    おもむろに勇気を持ちあげて、
    自分の顔の高さに顔を並べる。

勇太「ガセネタだね。
  よーく、オレたちの顔を見てみな。
  こいつはオレの息子だぜ」

    犯人たち、あっけにとられ、
    勇太と勇気の顔を見比べる。

犯人C「・・・兄弟か?」

勇太「息子だって言ってるだろーが!」

    そう言った瞬間、勇太、
    勇気をしっかりと抱え、
    4階の窓ガラスを派手な回し蹴りで
    大きく割ると、美しい円を描いて
    中庭に着地する。

犯人A「・・・な・・・! マジか、
  あのヤロー!?」

○同ビル・中庭(夜)

    勇太、胸に抱え込んだ勇気を見る。

勇太「大丈夫か?」

    うなずく勇気。

    勇太、警官のいるビルの正面の手前で、
    勇気を放す。

勇太「行け!」

    明るみに走りだし、
    驚く警官たちに保護される勇気。

    最後にチラリと勇太の方を振り返る、
    勇気の小さな体。

○同ビル・中庭・物陰(夜)

    勇気のかわいらしい姿を見て、
    苦笑する勇太。

勇太「まいったな、DNA鑑定なんて、
  どっちでもよくなっちまった・・・」                          

            

              了                                                                                 


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