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精霊の舎-53(連続短編小説)

アークの陽気さにつられて、
マギはほほえむ。

そして時間が止まったバーを
改めて見渡し、
その巧妙な作りをしばし見つめる。

過去の現実と、
マギの創造の間にあって、
どちらのイメージも裏切らない、
カイとアークの居場所。

マギも、この物語の登場人物の
一人になって、この世界で生きてみたい、
と思えてくる。

マギが物語の中で一番、
感情移入していたのは脇役の、
ある女性だった。

ナミ、という名のその女性は、
もちろん最終的にアークと
結ばれないのだが・・・

ここで、マギはハッとした。

「ねぇ、カイ、
あなたがここで生きようと
思ったのは、なせ? どうして?」

マギの緊迫した口調に、
アークはおかしそうに答える。

「どうしてって・・・
君の物語を読んで、気に入ったからさ」

「じゃあ、知ってて・・・
アークが最後にどうなるかわかっていて、

それでも、ここを選んだっていうの?」

話の筋では、最後にアークは
殺されてしまうのである。

そして、ナミが・・・。

マギがありありと物語の細部を
思い出している間に、
アークはきっぱりと言った。

「ああ、知ってて決めた。
でも、君は、次の物語で、
アークを生んでくれる。
アーク自身である、アークの子供を」

               続


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