見出し画像

のぼれる山を無理やり大きくした車 日産 セレナ 試乗レビュー

今回は、県外に遠征した際に、日産のセレナを借りられる場所を見つけたので乗ってみた。今回乗車した車両は先代型にあたるC27型である。90型のノアのハイブリッドに乗車した際にミニバンの走りに興味をもち、実は少しだけ興味があった車両である。
ミニバンという走りにこだわれないジャンルの車ではあるが、ノアのハイブリッドとは大きく違う車になっていた。

内装は見た目重視か

画像提供:@_10uring_h0n さん

内装は見た目重視な感じがする。全体的な造形は曲線基調ではあるが、ひとつひとつのパーツが大きい。例えばメーター。結構上の方についているなという感じはあるが、それよりすごく横に長い。

限られた空間を最大限活用しました感があり、その中でも質感を出してきた感がある。
その感じは特にステアリングに出ており、僕はあんまり好きではないがDシェイプになっている。乗り降りがしやすいらしいが、ルークスが円であることを考えると円にして欲しいところではある。

エアコンパネルの配置も最小限かつわかりやすく、初見でもわかりやすい配置になっている。風量と温度が円形になっているのがいい。よくエアコンで、どちらかが円形になっているような仕様のものがあって、風量を上げようとすると温度が上がったり、温度を上げようと思うと風量が上がったりでイラっとすることがあるので、このような対称的なデザインは個人的にかなり好き。

シフトレバーはガソリン車なのでストレートタイプで、操作感は普通。

ノアでは蓋なしのクソデカ収納があったが、こちらには収納は基本的にはフタが付いている。

蓋をいちいち開ける手間はかかるので、「何をどこに入れる」というのが決まりそう。ノアであればなんでも困ったら助手席の収納にポンポン入れられるのでそちらの方が使いやすいかもしれない。

面白いのが2列目真ん中シートの挙動で、前にスライドさせて肘掛けにもすることができる。これでシートを起こして前に3人乗れると面白いが、さすがにシートベルトの配置などもあってかそれはできないようだ。

サンバイザーにはあみあみがついており、太陽がさしてきても見やすいようになっている。

同じミニバンでも、企業の思想の違いだけでこれだけの違いが出る。この違いが走りにも出ているか気になるところである。

バックモニターがメーターに出てくるのも面白い。

走りは潔さが

個人的にこの世代のミニバン(RPステップワゴン、80系ノア、ヴォクシー、C27セレナ)の中で一番好きな27セレナだが、その理由は走りにも存在する。というのも、このセレナ、限られたものの中で割り切りをしながら商品力を持たせるという努力が見られるからである。今回もその詳細を詳しくみていこうと思う。

全体的に表れている「ゆったり感」

このC27セレナという車、ノアのハイブリッドと比べるとかなりゆったり感が出ている。この感覚は27セレナでしか味わったことがないものなのだが、せかせかと走る車たちを横目に、普段の3倍くらいの車間距離で。自分の領域を確保して自分のペースで。ゆっくりマイペースに運転したい、と感じる。

シャシーは率直に「古い」

大前提として、よく言われていることでご存じの方も多いだろうが、実は27セレナのシャシー、C25からのキャリーオーバーとなっている。新型となるC28でも新しいシャシーが使われることはなく、そこを残念がる人もかなり多かったように見受けられる。個人的に新型のC28セレナには是非とも新しいシャシーでもっと高みを目指してほしいと感じた(走行距離が少なすぎるのでレビューは未定)が、先代にあたる27では、「古いシャシーだからこそできたこと」があるように感じた。

しかし、シャシーは事実として古い。フロアは常にプルプルしており、わかりやすくいうと、「床が薄い感じ」がする。ドア周りの作りはそれなりで、薄すぎずかといって特段厚い訳でもない。なのでドアの薄さからくる不安はないが、法定速度の1.5倍とかでぶっ飛んだら命が危ない。
フル加速も2.0Lなのでそこまで速いわけでも特段パワーがあるわけでもないのにシャシーが加速力に対して追いついてない感じがあり、パワーがないにも関わらず7割以上の踏み込みは割と恐怖。

加速感はそれなり

もちろんミニバンなのでさしてパワーがあるわけでもないということは先述したが、2.0Lもあるので必要十分である。epowerでもなければSハイブリッドのようなテコ入れもない純ガソリン車で、アイドリングストップもないが、ミニバンとして使われる必要な加速力は持たせてある。
個人的にはディーゼルのミニバンが国産であれば…とは思うが、ガソリンエンジンでも充分である。
もちろんシャシーが7割のアクセル開度でもよれるような感覚があり、必要十分な加速力ながらもシャシーが負けていると言える。

ここでエンジンについて。これに関しては非常に日産らしいと感じた。自分が乗ったことのある日産のエンジンはHR12(ノート)とBR06(ルークス、eKワゴン≒デイズ)、そしてこのセレナに積まれているMR20エンジン。この3つに共通するのは、低回転トルクが太いこと、高回転はただ回っているだけという感じがすることである。そしてエンジン音は低回転では静かだが、回すと大変勇ましい音がするという、人間の感覚にも合わせてある(回転数の上昇と音量がマッチしている)、公道において大変扱いやすい実用的なエンジンであるという印象がある。
特にMR20エンジンは4気筒エンジンであるということもあり高回転での勇ましい音はひときわ目立つように感じる。ただ低回転では静かで、街乗りでは非常に快適なエンジンと言える。
日常加速域だと2500回転も回せば充分すぎる加速感が得られるし、そもそものエンジン音が大変静かなのでそれくらい回してやっと少しエンジン音が聞こえてくるかなといったかんじ。

セレナというかミニバンに求められるエンジン特性に大変マッチしており、非常に扱いやすい。

ハイブリッドという性質上仕方のないことだが、90ノアのハイブリッドだとベーーーという味気のない音が結構入ってくるので、そちらと比べるとだいぶいい。
80系のノアと比べてもかなりよく、あちらは低回転からそれなりに音が侵入してくる割にそんなにパワーがあるわけでもなく、高回転でもモーモーとただひたすらにうるさいだけという傑作()なので、エンジンの特性といい快適性といい、セレナの勝利かなと感じる。

ブレーキタッチは不満が

完成度の高いエンジンやCVTの制御に対して、ブレーキタッチには不満が残る。結構デカいボディサイズに対して、ブレーキの剛性感が全く足りていない。ひとクラス下となる先代型のシエンタのブレーキを踏んでいるような感覚にも近く、なんというか、塊のゴムでも踏んでいるかのような感覚である。このクラスならもう少し安心感に繋がる剛性感があってもいいように感じる。

乗り味は上質ではないが快適

乗り味に関しては全体的にゆったりしていると感じる。ただ、それは全体的な総評で、乗り心地だけを注視していると意外とガタピシしている。もちろん全体的に見ればゆったり、いい感じに緩んでいて決して硬いわけではないのだが、ボディのゆるさからくる振動が全体的に響いてしまっている。シンプルに言うなれば振動収束が悪い。
また、ステアリングが非常に軽く、ここにも剛性感はさほど感じることはなかった。軽いので確かに駐車場やUターンにおいての取り回しは楽だが、スカスカ感がどうしても出てきてしまっている。また、必要ない情報までもがビシビシと伝わってきてしまっているので、必要な情報を鮮明に受け取れるわけではない。C28セレナではステアリングがデュアルピニオンに変わっており、相変わらずステアリングは軽すぎるがこの辺りの剛性感は上がっていると感じたので、モデルチェンジにて改善されたと言える。

日産車全体の印象としてハンドルが軽すぎるというのはあるが、最近の日産車では軽さの中でしっかり剛性感が出てきているので、願わくばそのような造りがあればと感じるが、世代の古さを感じてしまうのは事実である。
そもそもここまでハンドルを軽くする意味はあったのだろうか。エントリーミニバンであればこのハンドルの軽さはわかるが、もう一つ上のMクラスミニバンと言われるセレナならもう少し重たくてもいいのではと感じてしまう。

まとめ

確かにシャシーは古すぎるが、かといって商品力を落とすことはできない。27セレナからはそういう日産の意地を感じた。
シャシーの能力は必然的にその車の能力に直結してくる。シャシーが弱ければ乗り味においてできることも少ないし、シャシーがしっかりしていれば優しい乗り味からスポーティーなものまで、色々な乗り味を設定することができる。
ただ、最終のセッティングも車にとっては要となる。個々が頑張っていても、車のコンセプト通りの世界観ができていないとどっちつかずな車という印象になってしまう。

このC27セレナという車、限られまくったシャシーの能力やコストの中で、車としての世界観を走りや内装に落とし込んでいくことで、すごく統一された世界を乗り手に感じさせることに成功した。
セレナなら割り込まれても気にしないし、車間を詰めて煽る気にもならない。ここまで乗り手の心理を操作してくる車というのは実はありそうでなかった。

C28がどうなっているか楽しみではあったが、27にあった親しみやすいファミリーのミニバンから高級志向になっていた。もちろん最近の傾向としてはあるあるではあるが、それならシャシーを新しく刷新した方が、もっとレベルの高いものを見せてくれるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?