見出し画像

家族にやさしいミニバンとの決別 日産 セレナepower 試乗レビュー

今回は、新型のセレナにのることができたのでレビューしていこうと思う。
先代のセレナといえばガソリンモデルにしろepowerモデルにしろボディの基本設計がかなり古く、飛ばさずゆっくり、マイペースに走ろうと思える車だった。室内も大変広く感じるように設計されており、非常にゆったり乗れる車となっていた。新型でも「優しいミニバン」としてのセレナの立ち位置は確立しているのだろうか。

最初に言ってしまうと、若干タイトル詐欺である。別に優しくなくなったとは思わない。しかし、付加価値が非常に目立つ結果となっている。

ミニバンなので外装についても少しだけ。かなり先進的になったが、以前の価値観や先代の面影も感じる。例えば巨大なグリルやフォグランプ、スポークの多いホイールなど、先進性の中に、多くの人がかっこいいと感じるデザインセンスが散りばめられている。

丸型というよりは角が立つ造形が目立つので、特にハイウェイスターはシュッとした印象になっている。プラットフォームが変わらないのでベースのスタイルにはそこまで変化はなく、C25の世代の方々がタイムスリップしてこのクルマを見たとしてもセレナとわかるだろう。ただ、そろそろプラットフォームから一新し、デザインも新たに刷新しても面白いかもしれない。

セレナといえばこのバックドアだろう。これのおかげで狭い場所でも簡単にトランクを開けることができる。今回トランクを使うことはなかったが、これなら狭い空間で荷物を入れられずストレスがたまることはなさそう。むろん、重いものを持ち上げるのにはかなり難儀しそう。

また、コレがセレナの一番の不満点なのだが、床が高い。一つステップは用意されているが、乗り込みはほかのノアなどと比べると若干スマートにはしづらい。

内装は先進的

今回上位グレードのハイウェイスターVで、なおかつオプションのナビまで入っているので、かなり先進的に見える。また、先代と同じく横基調で、室内を広く見せようという工夫を感じる。2つのディスプレイも大きく、縦向きのラインはほとんど入っていないので、タイトというよりはまるでもっと全幅の広い車に乗っているかのような錯覚がある。

ただ先進的ゆえのデメリットもかなり大きい。例えばナビは、UIはかなりわかりやすく、何がどこにあるのかスマホ感覚で操作できるが、その分バグが多いのかスペックが足りないのか、固まって操作不能になったり、突然ナビの音声案内が全く喋らなくなったりと不具合も多い。また音質も悪く、空間自体は上質なのに音楽はペラペラで安っぽい音質になってしまっている。

メーターはまたノートとも違うデザインで、オーラからもデザインは変更された。シンプルでみやすく、情報も多彩に表示できる。画質もよく、先進性もある。個人的にはスバルのレヴォーグなどと比べても引けを取らないくらいデザイン面と情報量を両立しているメーターだと感じる。
個人的には、メーターデザインを変えられるギミックが好きなのだが、それでいてシフトポジションや速度、ガソリン残量やパワーメーターなど、必要な情報は一通りしっかり分かりやすく表示されている。

エアコン周りもかっこいいが、タッチパネルに突起すらないので運転中はかなり操作しづらい。操作音も音量が小さく、目視しないと今自分が希望している温度、風量なのか微妙に分かりづらい。ただエアコンの効き自体はかなり良く、快適に過ごせる。
また、デイズなどではこの下に小さくテーブルが付いており、小物を置くのに意外と重宝するのだが、セレナではドリンクホルダーのみと少し寂しく、スマホの置き場にも困る。
この車、何よりスマホの置き場所に困る。2列目の真ん中を前までスライドさせれば小物を置けそうな場所はあるがスマホには若干キャパが足りない。センターコンソールの下にもあるが奥まっていて使いづらいし、助手席の収納は助手席の人のために残しておきたい。

ボタンシフトは賛否両論あるが非常に使いやすく、見た目もスッキリしている。ブレーキを踏んでいないと前進も後退もできないのでアクア同様かなり暴走対策はされている。

ステアリングはいつもの日産のデザインで、触り心地はオーラと比べてもかなり改善された。キックスやオーラ、特にオーラに関してはコンセプトを考えると触り心地はセレナのものがいいだろう。
セレナくらいの車格になるともう少しメッキの加飾があったりしてもいいのかもしれないが、これで充分と言ったところ。メッキ加飾はやりすぎるとセンスが悪い印象にもなってしまうので、これでいいのかもしれない。ただ、今の日産ならセンスのいいメッキの入れ方だってできたはずだと感じる。

ブレーキホールドは記憶タイプで、いちいち押す必要はない。電動パーキングはブレーキホールドと連動して、ブレーキホールドが作動している状態ならPに入れるだけで電動パーキングは作動してくれる。なかなか便利だ。

全体的に高級感と先進性を持たせてあると感じるが、ところどころ気になるところがある。例えばドア側のアームレスト。まさかのプラだ。ノートでもソフトパッドなのに。400弱もする割にありえない。ハザードボタンのあたりももうすこし質感は欲しい。サラサラした触り心地ではあるが、オーラのような木目の素材など、もっと選択肢はあったはず。ドアハンドルはメッキだが、その周りまでガッツリプラ。シンプルにいって酷い。自分は質感を求める人ではないが、だとしても400弱も払えるような質感ではない。

バカデカい音量調整のボタンも意味が分からない。本来ならハザードをそこに配置するべきだし、ナビの電源ボタンをそんなに頻繁に使うわけでもない。むろんこのナビは定期的にバグるので、そのために触りやすい場所に配置したのかもしれない。ただ、ハザードの位置に関しては何度かとっさに探すはめになったので要改善かと感じる。ドライブモードスイッチの場所も意味不明で、なんで運転席の右端に追いやったのか正直理解に苦しむ。個人的には、今のハザードの位置にドライブモード、オーディオの電源ボタンの位置にハザード、ナビの電源ボタンに関しては運転席の右端に追いやってもいいと感じる。音量調節の位置ももっと助手席の人が操作しやすい位置はあるはず。なんなら、ナビの電源ボタンの位置にスマホが入るくらいの小物入れをつけてくれてもいいのに。

サンバイザーには、先代同様網目が付いており、地味に便利ポイント。これで日差しも防ぎながら信号も見やすい。この辺りはやはりユーザーに優しいミニバンなのだなと感じる。

ルームランプの形状もかわいく、ついついお粗末になりそうな部分ではあるが機が使われているのがわかる。ホンダeなどもこのようなデザインになっており、まるでリビングのようにくつろげる空間を演出している。

デカい収納はノア同様助手席に存在するがこちらは蓋つきで、プライバシーにも気が使われている。しれっとセレナの文字入りで、おしゃれさを感じる。気を使わずにガンガンものを放り込めちゃうのはノアだが、ティッシュを入れて置いたりするのにはこれでも十分なのかもしれない。

走りは優しい

走りに関しては、先代同様優しい。しかし、その中でも先代からの進化が見られた。先代はとにかく親しみやすい走りで、どれだけ人が乗ってもマイペースに、のんびりゆったり移動するのにちょうどいい車だったが、新型でもその優しさと親しみやすさは引き継がれているのだろうか。

セレナというミニバンの強みとは

まずここで、セレナという車の強みについて少しだけ話したいと思う。一言で言うと、「誰にでも優しいミニバン」である。
例えばデカいフロントスクリーン。ここまではどのミニバンでもそうだが、セレナでもかなりでかい。それプラスダッシュボードは平坦で、仙台と違ってセンターメーターではないので完全に平坦になった。
それよりも左前、右前のAピラー部分のガラスがかなり下まで広がっており、衝突安全上の不安こそあるが見切りは初見でもかなりいい。

運転席に座ってみると直立しているメーターに対して、ステアリングはかなり寝ており、バスのような着座感覚になっている。バスがぶっ飛ばしていくのをみたことがある方はいるだろうか。少なくとも自分はないのだが、この着座姿勢の時点で「この車はゆったり運転するべき車なのだ」と言うことがわかる。平坦なフロントスクリーンや下の方まで続いているAピラー部分のガラス、前述の先進性を求めていたり、横基調な内装デザインは全てゆったりとした「空間づくり」の一環なのだろう。

その上でひとつ苦言を呈するとすれば、この車、思った以上に小回りが効かない。普段からこの手の車はそれなりに乗っており、普通に駐車も一発でできるのだが、セレナはなぜか一発で収まらず、外側に膨らんでしまう。確かに大きな車ではあるが、もう少し小回りが効くとありがたい。

パワトレは力強い

パワトレはかなり力強い。先代の1.2Lのものは確かに絶対的な加速力はあったが、エンジン音だけが先に上昇してしまう現象があり、エンジン音と加速感という意味ではミスマッチになってしまい、結果、そこまで速くないという感じがした。新型になって速くなったかというと、加速感はやはりその延長線上にある感じ。ただ、合流時の加速やドンっと踏んだ時、アクセルをカーブ出口で踏まして行った時など、随所でパワトレの良さは感じる。

まず1.4Lのエンジン。先代と比べても確かに静かになった。踏み込めば確かに3気筒のバラバラした音はするが、普段はかなり静かで、発電中も気を張ってないと気づかないことが多い。先代型ではエンジンの吸気の音がモロに入ってきており、発電中は結構分かりやすかったので、決して不快なレベルではないがエンジンが常にかかっているガソリン車と比べるとオンとオフの差が激しかった。

燃費も良く、今回の試乗では20.6km/lだった。途中上り坂が続く区間もあり、シリーズ式のハイブリッドにはなかなか厳しいものもあったが、それにしてはかなり優秀だと言えるだろう。
正直同じ日産のノートより燃費は出しやすい。その秘訣は後述の乗り心地などとも関連している。

シャシーは予想通り

今回のセレナ、ハンドリングがいいなどの評判もあった。ただ、20年ほど前から基本設計が変わっていないのにどうしてハンドリングにおいて高評価がなされているのかわからない。ここが今回の試乗の一つのミソとも言える。
結論からいうと、ハンドリングや運動性能において、シャシーの剛性の高さは皆無と言っていい。
普段乗りでも床は常にプルプルしている。車両重量はそれなりに重いらしく、シャシーのプルつきの割に跳ねるような動きはない。さすがに角のある段差が連続で続くと跳ねるというか車体全体がブルブルするような動きが出てしまうが、それ以外は上質で、基本設計が先代モデルから変わってないと考えるとかなり頑張っている方ではある。ただ、車両重量を調べてみると1.8tとかなり重く、シャシー性能的には限界を感じてしまう。やはりこの車は、速くなったとはいえゆったり乗る車であり、飛ばす車でないことには変わりはない。

街乗りではパワトレの滑らかさと、日産の車らしく車体全体で揺れをいなすような雰囲気があり、乗っていて非常に楽である。エアコンもかなり効くので、街乗りでこれ以上のものは必要ないとさえ感じる。まだステップワゴンには乗れていないが、街乗りでベストバイはセレナだろう。ノアのハイブリッドも快適だが、セレナのように全体でいなすと言うよりは、ボディの剛性を高めて、足回りで衝撃を抑えるような感じで、ある程度の衝撃レベルを超えると、意外にも硬く感じる。ノアにも空間が移動する感はあるが、セレナほどの居心地の良さはなく、どちらかというと万人ウケしそうな、従来の考え方をベースにして作られた感じの親しみやすさを重視しており、確かに馴染み深い操作系の中に、アドバンストドライブなどの先進装備も装着できるように電子系のベースも更新してきているような感じ。
高速域でもあまりその印象は変わらない。常識的なスピード域なら非常に快適で、のちほど詳しく書くがプロパイロットの制御にも安心感がある。多少のロードノイズはあるが、快適に移動することができる。

ではなんでハンドリングに安心感が伴ってきたのか、と言われると、ボディ剛性というよりは足回りの出来がいいからだろう。常に車の大きさを感じるセッティングにはなっており、カーブの入り口でアクセルを緩めて頭をカーブに入れ、カーブの出口では徐々にアクセルを入れていく。これがアクセルのみでできてしまうのも革新的で、epowerならではの気持ちよさに繋がっている。これだけいうと先代モデルと大差ないように感じてしまうが、先代モデルと比べると足回りの取り付け部分がガッチリした。これは現行のルークスでも感じたことで、もちろん他の日産の新しい車はそうなのだが、カーブを曲がっても足回りがグニャッとして不安定になる感じがない。もちろんある程度のロールは許すが、ある程度のところでショックがグッと抑えてくれるような感じ。足回りに安心感があり、なおかつepowerなのでバッテリーのおかげで多少ではあるが床面の剛性も上がっている。もちろん重量もその分上がっており、正直バランスのよさだけでいえばガソリン車に軍配が上がるのだが、epowerモデルでも先代ほどのバランスの悪さやステアリングの頼りなさは消えた。

高い直進安定性とプロパイロットの安心感

このセレナという車、何よりまずハンドルがとんでもなく軽い。街中での運転のしやすさを意識したのか、小指一本でも楽に回せてしまうくらいハンドルが軽い。それでいてハンドルが戻る力も強く、街中はかなり運転しやすくなっている。
そうなると高速域で不安定になりがちだが、ハンドルが戻る力も強いので、ハンドルの軽さの割にかなり安定性は高く、よって直進安定性も高い印象。

シャシーの剛性自体は低いが、ステアリングの安定感が高いので、プロパイロットも制御しやすそう。直進時はかなり支援力が強く、ホンダセンシングほどではないがビシッとしている。ただハンドルを握っていても「握ってください」の警告が出る率が高く、せっかく支援力が強いのにもったいない。
カーブでもかなり自立してハンドルを曲げてくれる。これだけの支援力があればプロパイロット2.0なんてなくても普通に満足できる。

ただ、車線変更した後に車線を認識するのに若干のタイムラグがある。また、ステアリングの制御は全車速対応しているはずだが、少しスピードに乗らないとハンドル支援は効いてくれない。最新のホンダセンシングでは0キロからハンドル支援は入るので、この辺りはもう少しストレスなく使えるようになるとなおいい。

基本設計は20年前から変わらない

このセレナというクルマ、基本設計は20年ほど前(C25)の頃から変わらないのである。となると、基本設計はかなり古い部類に入ってくる。当時の技術で言えばまだ「最新型」と言えたかもしれないが、令和の世の中でTNGAプラットフォームやハーテクトが出てきている中でいうと少し基本設計に無理があるというのがセレナの正直な感想になってしまう。
例えば乗り心地面で見たとしても現代の車であればもう少しフロアの振動は収めたいところだし、ハンドリングで見てもあまりにもカツカツすぎる。

ただその中で、やはりセレナというのは「最後の世界観に対する合わせ込みが大変うまい車」である。これは先代もそうで、ゆったりとマイペースで、大味な走りができるように、横基調な内装に始まり、エンジンの音も静かに、CVTは滑らかに、ステアリングもゆったり回さないと心地のいい動きはしてくれない。

新型ではどうだろう?パワートレインは違うのでアレだが、余裕を持って走れる、マイペースに走れるような空間を担保してくれるのは確かである。その中で商品力をあげるために、ボタンシフトであったり、メーターと一枚になっているかのようなデザインのナビを配置して先進性に振っているような感覚。
先代のような親しみやすさこそ少し減ってしまったが、広い空間を余裕持って使うことのできる安心感の表現は、セレナにしかない魅力として新型にも残り続けている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?