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海の灯籠流し

海の灯籠流し
そう、川ではなく海。
初めて出逢ったその情景は
とてもやさしく爽やかなものだった。
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今年は昨秋に逝った義父の初盆。
義母がかつて勤め,義父も通院していた病院から
灯籠流しのお誘いが来た。
なんでも,毎年,前年の8月から当年の7月の間に病院で亡くなった方、そして病院縁の方〜義父はこの病院で亡くなってないのでおそらくこちら〜の供養のため毎年灯籠流しを施しているという。

まずは追善法要。
病院スタッフの方々がロビーで、礼服姿でなめらかに立ち働いている。
いつもと違う雰囲気が不思議だ。
病院のロビーに仏壇が安置され,手作りの灯籠が積み上げられている。白木と和紙が清々しい。
それぞれに名前と南無阿弥陀仏。40余もあるか。
屋形船型の灯籠には全員の名前が記してある。
それが,今から皆いっしょに船旅するみたいで,
なんだかうれしい。

そして僧侶の読経。参列者も共に唱和する。
人々の声が響くこの時がとても好きだ。
背すじがしゃんと伸びて。
でも、あたたかで穏やかな空気に包まれる。
南無阿弥陀 南無阿弥陀
阿弥陀さまとともにいる私たち。

いよいよ、灯籠流し。
病院の外,どこから流すのかと案じていたら,
それぞれの灯籠を手渡され,海への道を案内される。
さっきまで礼服姿だった職員さんがいつのまにかウエットスーツで待ち構えている。
堤防が張り巡らされている海沿いの道路から、遺族たちがつぎつぎと灯籠を手渡す。
砂浜の手前は洪水よけのコンクリートだらけで、遺族は危なくて近寄れない。
職員さんが堤防の階段を降り、砂浜に灯籠を並べていく。
残念ながら,もうどれが義父のかわからなくなる。

そして。
灯籠を手に持った職員さんが,ゆっくりと海へ入っていく。
足首から膝へ腰に,ゆっくりと,でもどんどんと進む。
やがて、胸まで浸かったときに,灯籠をゆっくりと手放し,携えていた長い棒でそっと沖へ押しやる。
潮にのって灯籠が流れ始める。
浜に降りた数人の職員さんが,灯籠を携え何度も何度も海に入り胸まで浸かり、
優しく灯籠を手放し,送ってくださる。

遺族は,堤防から浜にいたる階段にたたずみ,じっと見送る。
海の上で自由になった灯篭たちは,
潮にのり,一列になって沖へと進んでいく。
ほんとうに一列で。お行儀のよい灯籠たち。
1人じゃないね,みんないっしょだね。
よかったね。
そう呟きながら,そっと手を合わせた。
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瀬戸内の片隅にあるこの小さな病院が,70年以上続けているこの行事。
院長先生がその謂れを語ってくださった。
73年前,この病院はサナトリウム〜結核療養所〜として出発したという。
そう,”風立ちぬ”の”七石山病院”の,サナトリウム。
サナトリウムは山の中,そんなイメージがあったけど,そうか、良い空気と潮風は胸の病気にいいと言われていたものね。
海辺のサナトリウムは,昔は浜にある桟橋からそのまま入院できたという。
本土から船に乗り,そのまま病院へ。
そして,不幸にもなくなってしまった人のために。
島の小さな病院で,共に暮らしてきた仲間たちが,年に一度,自分たちの手で灯籠流しを始めたという。
哀しいけどとても美しいはなし。
時代が流れ,
病院の姿も海辺の姿も変わっても
この美しい行事を続けている。
その優しい姿勢が嬉しい。
多分,一期一会の貴重な出来事。
本当に出逢えてよかった。

#初盆 #盆行事 #見送る #病院



















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