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「そこから1ミリも動かず、現実のほうが変わってくれるのをひたすら待つだけ」の男がもたらす悲劇

こういう男性はリアルで話を聞いていると意外なほど多く、要は

「努力してまで現状を変える気はないけれど、これまでそれで現実のほうが変わってきたから味をしめているだけ」

だなぁと見ていて思う。

恋愛でも仕事でも同じ。頑張って結果を出す自分より、今のまま、「自分は何も変わらないけどそのうちまた周りが良くなるだろう」って無意識に思い込んでるのな。

恋愛なら、好きな女性とうまくコミュニケーションがとれずにつまずいてばかりだけど、努力しなくても女性のほうが歩み寄ってきてくれたから、「それが正解」だと意識に刷り込まれている。

このとき、女性がどんな思いで自分を尊重してくれたか、どんな言葉を飲み込んでどんなつらさを乗り越えてそれでも自分を愛することを決心したか、こういう男性は決して考えない。

考えないというか、思いがそこまで至らない。

見えているのは、「このまま終わったらどうしよう」「嫌われたらどうしよう」と何も行動せずにいるうちに彼女が変わってくれて、「あ、今の自分でもいいんだ」という安堵だけ。

だからさっきまで味わっていたつらい気持ちもすぐ忘れるし、自分を受け入れてくれた女性の悲しみも「なかったこと」になる。

すごく極端な実例を挙げると、ある40代なかばの男性は、自分から好きな女性にめったに連絡せず、そのせいで寂しい思いをさせ、女性のほうから「もっと連絡してほしい」「たまには誘われたい」「求められたい」とほぼ”懇願”に近い言葉を言われても、「どうすればいいかわからない」で女性の気持ちをその場に置き去りにし、その結果女性は別の男性を選び、そのついでに自分にも連絡しているのを「俺を受け入れてくれたのだ」と勘違いし、女性に堂々と「現状維持で」と言ってのけた。

この女性は、自分からこの男性に電話をして食事やドライブに誘うことが常だった。そうしないと会えない、自分から声をかけないと一緒に過ごせない惨めさを抱えながら、それを伝えても一向に歩み寄る気配のない男性に愛想を尽かし、自分が心の方向を変えた。

はっきりと「この人を好きになったから」とは言われないけど、ほかの男性と親密な仲になり、デートの内容やホテルでの情事をあからさまに打ち明けられ、この男性はかなり打ちのめされただろう。少し前まで自分に向かって「好き」と言っていた女性が、ほかの男性と自分が手にできなかった幸せな時間を過ごしていると知り、ショックを受けたと思う。

それでも、この男性は自分を変えることができなかった。

男性にとって大事なのは「それでも彼女が自分に連絡してくる」ことのみであり、それが「選ばれている証拠」であり、努力しなくても常に彼女のほうから連絡がくる、いわば「これまでと変わらない現実」のほうに満足したのだ。

この女性は、こんなことを何度も繰り返し、男性が「その場から1ミリも動くつもりがない」ことを確信した。だから「現状維持で」の言葉が出てくるのであり、

「決して私と幸せになりたいわけではないし、そのために努力するつもりは一切ないし、その程度の存在ってことだよね、私が」

と自分の存在の軽さ、この男性に”都合よく”据え置かれる自分の現実を思い知った。

あくまで私は、この人の望む形でしか存在できない。これが実感。

「LINEでもね、平日の朝限定でおはようの挨拶が来て、それに返信して終わり。雑談したいと言っても『雑談は嫌いだから』て断られるし、土日も一通のLINEも電話すらないの」

「だからLINEはもうアカウントを消したの、私が寂しいから。

そしたらメールを送ってきたのよ。LINEで送ってきていた頃と同じ、ただの挨拶で。返信せずにいたら、彼から電話がかかってきて『メール読んだ?』って。

それで、何でメールしたのって訊いたら『LINEは嫌いだろうと思って』って。

どうして私がLINEのアカウントを消したのかは訊かないのね。それはスルーなんだって思ったらもう絶望感しかなくて。

だからメールはそのまま『届かない設定にしている』でごまかして、今は連絡の手段は電話だけ」

これが今のふたりの現実なんだけど、男性はどこまでも自分から行動する選択肢はない。

LINEもメールもなく、本当はそれが寂しいし気軽に話をしたいときがあっても電話するしか方法はなく、二人の心はどんどん離れていく。

それを実感しても、男性は何もしない。「ここから1ミリも動かなくても、現実のほうが変わってくれる」と信じているからだ。

いつか彼女のほうからまたLINEしようって言ってくれるだろう。今の男性と過ごしていても俺にも連絡をくれるだろう。彼女がほかの誰と過ごしていようと、「選ばれる自分」さえ確認できるのなら、それでいい。

で、「現状維持」。彼女は彼の期待どおりに存在させられることに嫌悪感を抱き、

「あなたに負担をかけたくないから、私から連絡するのは控えるね。あなたが私のことを思い出してくれたら、たとえそれが月に一回でも2ヶ月に一回でも全然構わないから、いつでも連絡してね」

と「必死に声を押し殺して”我慢している私”を演じながら」男性に伝えた。

すると、男性は明らかに「嫌そうな声で」

「あなたから連絡がないのは”困る”。

そんなに深く考えなくても、いつでも連絡してくれていいから」

と「何も努力するつもりがないこと」を堂々と伝えてきたそうだ。

が、彼女が「ううん、あなたが連絡をくれるのって、私を好きって証拠でしょ?それが幸せなの。待ってる」

とあくまでも「いじらしく男性を立てて自分は我慢を通す自分」を演じていると、大きなため息をつきながら

「あなたからの連絡はない、と。

わかった。じゃあまた俺から電話する」

と「不機嫌そうにさっさと電話を切った」そうだ。

彼女は笑いながら言った。

「この人に恋愛感情なんかとっくにないのよ。

どうしてこんな男を本気で愛せるのよ。

でもこの人は、いまだ私に好かれていて、自分は何もしなくても関係を続けられるって思っているのよね。

それがおかしくて、しばらく様子をみようと思う」

やめときなよ、という言葉を私は飲み込んだ。

彼女は気づいていない。

そうやって縁を断ち切れない弱さこそ、彼に対する執着なのだと。

本当に愛想を尽かしたのなら、さっさと捨てればいい。他人とまともにコミュニケーションがとれて、友人も多ければ男性に声をかけられることも多い彼女なら、この人でなくても恋愛関係になれる人は必ずいる。

が、彼女は彼への悔しさを手放せない。

「自分ばかりが努力を強いられ、彼に気に入られるように我慢し続けた痛み」

「それでも自分の望むように愛されることは一度もなく、いつまでも自分が歩み寄るだけの関係への怒り」

が彼女を彼のもとに縛り付ける。

この男性はこれからも決して変わることはない。

あくまでも「自分は正しい」「何もしなくても現実(彼女)のほうが変わってくれる」と思いこんでいる男性は、この「現状維持」を平気で続けていくだろう。

とんでもない悲劇であって、ただの不幸でしかないと思う。

捨てるが勝ちなのだ。努力せずに良好な人間関係が続けられることなんて100%ありえないのに、それを知らず自分を変える気もない男性なんて、どんなに愛したところで満足する瞬間など訪れないのだ。

彼女の望みはわかっている。

「本当に自分から連絡がないとわかった彼が焦って電話してくること」

「何とか口実を作って自分と会おうとする彼の姿」

「『あなたからも電話してほしいな』とお願いをされること」

賭けてもいいが、叶わない。

「現状維持」を選ぶ彼にとって、彼女から連絡がこない寂しさ(不機嫌の正体)はあっても、それを受け入れる余裕はすでに心にある。「こちらからいつでも連絡すれば彼女は受け入れてくれる」事実のほうが大事。だから、そのとおりにする。

変わる気はない。ここから1ミリも動くつもりはない。

なんて不毛で、幸せから真逆の状態なのだろうと思う。

「やめちまえよ、そんなクソみたいな恋愛」

と言いたいが、きっと彼女には届かない。

「彼に求められる自分」を見るまでは、彼女は引き下がれない。悔しさのもとを取るまでは、彼から離れることはできないのだ。

突き放したつもりで、実はそこに縫い留められたのは自分。

それも、自分が落とした針で。

「そこから1ミリも動かず、現実のほうが変わってくれるのをひたすら待つだけ」の男がもたらす悲劇は、いつ終わるのだろうか。

私はまたいつ、彼女から絶望した声で

「あの人が変わってくれないの」

と何度耳にしたか知れない言葉を聞かされるのだろうか。



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