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【歴史・時代小説】『法隆寺燃ゆ』第五章「法隆寺燃ゆ」

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白村江の戦の戦後処理に頭を悩ませる間人大王、次の王位を虎視眈々と狙う中大兄皇子、それを憂慮する中臣鎌足、そして朝廷内での権力復活を画策する大伴氏……、彼らの権力争いに巻き込まれて…
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『法隆寺燃ゆ』あとがきに変えて

『法隆寺燃ゆ』ようやく完結しました。  2017年9月3日に掲載をはじめ、足掛け2年5ヶ…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 最終章「受け継ぐもの……、語り継ぐこと……」(完)

 火は、未明から降り始めた大雨で、昼前には全て消えた。  お寺は、講堂から中門に至るまで…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 45(了)

 塔の中に、男がいた。  頭を剃っているので、僧侶だと分かる。  が、背中を向けているの…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 44

 ―― 天智天皇の治世3(670)年4月30日  丑三つ時を過ぎたころから雲が空を多い、…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 43

 斑鳩寺襲撃の日取りが決まった。  4月の終わりである。  部隊は、大伴御行を将軍(いく…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 42

 飛鳥に戻ってきたのは何年振りだろうか?  やはり近江とは風が違う。  黒万呂は深呼吸を…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 41

「馬鹿な話ではない、真だ。斑鳩寺は高安城に近い。また百済とのつながりも深い。あの寺を襲撃すれば、葛城や大友の後ろ盾となっている百済の旧臣や渡来系の氏族たちに衝撃を与えられる。次は、お前たちだぞと。後ろ盾が動揺すれば、葛城や大友たちにも影響しよう。そうなれば、あとは容易い。土台が脆くなれば、城は簡単に崩れる」  そんなに上手くいくものかと、安麻呂は思う。  それでも馬来田や吹負を見ると、満足そうに頷いているのだから、歴戦の猛者たちからすれば、まことに結構な策なのだろう。

【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 40

 年が明けて、天智天皇の治世3(670)年正月7日廷内で大射礼が催された。  その月の1…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 39

 弟成の話し相手と言っても、別段することもない。  食事や衣服のほうは寺の小僧が仕度をす…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 38

 明師が、「聞師殿、ちょっと……」というので、「また入師殿から何事か?」と跡についていく…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 37

 男は、最期の力を振りしぼり、手を伸ばす。  その手を、鏡姫王がしっかりと掴む。 「あな…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 36

 手が……、無数の青白い手が、男を大地に引きずり込もうとしている。  また、あの夢だ。 …

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 35

「弟成!」  名を呼んだが、反応はない。  彼は虚ろな眼差しで、仏像を彫り続けている ―…

hiro75
4年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 34

 そんなことを思いだしていると、斑鳩寺に着いた。  何年振りだろうか?  大伴家から逃げ出し、連れ戻されたとき以来だ。  彼の塔が見下ろしている………………相変わらず、威圧的だ。  寺の周りに広がる田畑では、奴婢たちが働く姿が見える。  自分も昔あのなかにいて、泥だらけになりながら畑仕事をしたものだ。  それがいまでは貴人の服を着て、馬に乗って寺に向かっている。  八重女は、知り合いに見られるかもしれないという気恥ずかしさに、小さくなりながら寺へと向かった。