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汗腺と汗



はじめに

 汗は、皮膚にある汗腺という器官から出てきます。汗は、暑い時や運動した時に体温調節のため、または興奮や緊張など精神的な要因がきっかけとなるときや、辛いものを食べたときに出ます。

 汗腺には、エクリン腺とアポクリン腺の2種類が存在します。それぞれの汗腺と、出る汗について説明します。なお、日本人の佐藤氏が発見したとされる第3の汗腺アポエクリン腺もありますが、その詳細はエクリン腺との区別が難しく、一般的には認知されていません。

エクリン腺と汗

エクリン汗腺とアポクリン汗腺([1]から)

 エクリン腺は全身のほとんどに分布しています(唇と亀頭にはありません)。 内腔径は20~60um(マイクロメートル)、長さ4mm~8mmであり、体全体に200万から500万個あります。平均密度は200個/cm2です。 
 この汗腺から出る汗は体温調整のためのもので、もともと無色、無臭です。99%は水分、それ以外はの成分は塩分ほかカリウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、重炭酸イオンなどのミネラルや電解質、さらに乳酸、尿素などの老廃物も、ほんのわずかですが含まれています。 
 この汗は皮膚の表面でアカや皮脂などと混じり合ったところで、これを細菌が分解することでニオイ物質が発生し、臭くなります。

アポクリン腺と汗

 アポクリン腺は、出生時に存在しますが、思春期になるまで活性化しません。腋の下に多く分布しており、ほかには、乳輪、へその周囲、外耳道、外陰部、肛門周囲などに存在します。さらに、毛根に開口があります。
この汗腺から出る汗は白く濁っていて、脂質やタンパク質成分を含んでいます。
 細菌が脂質やタンパク質を分解することによってニオイが発生します。これはワキガ臭となります。

汗の原料

 汗の原料は血液です。汗腺には「分泌部」という、汗のもとをつくる部分があります。ここで、血液から赤血球などを取り除いた「血漿(けっしょう)」という液体から汗のもとがつくられます。
 血漿には、各種のミネラルが含まれており、そのまま汗となって出てしまうと、体にとって大切な成分であるミネラルが大量に失われてしまいます。
そのため、分泌部から出てきた汗のもとは、皮膚表面に出るまでの「導管部」で、血漿に含まれたミネラルなどの成分が吸収されることによって、
余分な成分が含まれない、99%水分の汗が出てきます。いわば「導管部」でろ過しているのです。よい汗はろ過されたもので悪い汗はろ過されない汗です。日頃から汗をかいている人は導管部が働くためよい汗がかけるそうです[3]。

 興味深いのは、汗から重金属が排出されることがあるといいます。たとえば、カドミウム、アルミ有無、鉛、水銀などです。これらは糞、尿からも排出されますが、さらに、汗からもポリ塩化ビフェニルが排出されるといいます。汗腺の導管部のろ過装置は体にとって有害金属を排出してくれるのです。

花王の汗の基礎知識[3]から

アポクリン分泌臭気タンパク質について

 アポクリン腺から分泌される汗には、ASOB1とASOB2という2種類のタンパク質が含まれています。これらのタンパク質は「アポクリン分泌臭気タンパク質」と呼ばれ、体臭の原因となる揮発性の臭気分子の運搬役割を担っています。具体的には、ASOB1・2がこれらの臭気分子を取り込み、アポクリン汗中に可溶化させることで、臭気が発生するというメカニズムです。つまり、ASOB1・2は臭気分子の「キャリア」として機能しているのです。

分泌部の構造

 汗腺の本体部分である分泌部は、真皮の深い層にあります。従来は「コイル状」と考えられていましたが、実際はコイル状ではなく、毛糸がからまったような複雑な構造をしています。この部分で汗の元となる液体が作り出されます。

導管部の構造とろ過機能

 分泌部で作られた汗の元は、導管部を通って皮膚表面に運ばれます。この導管部は、エクリン腺とアポクリン腺で構造が異なり、ろ過する成分も違います。
 エクリン腺の導管部は、汗の元から不要な成分(ミネラル、老廃物など)を選択的に再吸収する働きがあります。そのため、最終的に皮膚に分泌される汗は99%が水分となります。
 一方、アポクリン腺の導管部はタンパク質などの高分子をろ過せず、そのまま皮膚に分泌されるため、アポクリン汗には脂質やタンパク質が多く含まれています。
 このように導管部はろ過機能を持ち、不要な成分を体内に残して適切な汗の組成を作り出しています。導管部の詳細な構造とメカニズムについては、文献[2]に詳しく記載されていますので参照してください。

おわりに

 先月書いた記事と重複するところがありますが、ご勘弁ください。

 汗の働き|hiro (note.com)

 汗の季節。制汗剤の8x4の出番です(笑)。あと、汗腺と汗の研究は地味なため、あまり進んでいないそうです。

参考資料

[1]運動の良い汗と悪い汗 | 健康長寿ネット
[2]A short history of sweat gland biology - Wilke - 2007 - International Journal of Cosmetic Science - Wiley Online Library
この論文は、ドイツのBeiersdorf社によって全額資⾦提供受けているそうです。同社はパーソナルケア製品(化学製品)の世界大手でニベア花王が販売する制汗剤に技術提供しています。ニベア、8x4はBeiersdorf社のブランド名です。
[3]汗の基礎知識 - 汗はなぜ臭うの?|知りたい!汗とニオイ|ニベア花王 8x4(エイト・フォー) (kao.co.jp)
[4]体温調節を担う汗腺の三次元構造の可視化に成功 - ResOU (osaka-u.ac.jp)

変更履歴

Rev.1 2024.5.22 初版



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