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エターナルライフ第13話 冬 美里

昨日の晩から強い北風が吹いて大気が入れ替わった。窓を開けて外に出てみると、かすかに冬の匂いがした。

昼食の準備をしていると、空を覆う低い雲からちらちらと雪が降ってきた。雪は地面に落ちるとすぐに消えてしまったけど、午後の遅い時間から徐々にその勢いを増してきた。

「積もるかな?」
「さあ、どうだろう。この辺は真冬でもあまり積もることはないんだけどね。でもこのまま夜中まで降り続けたら、分からんな」
「積もるといいな」
「何で? 積もったら町まで出るのも大変だ」
「そんなの何てこと無いよ。明日起きたら一面の銀世界。だったら素敵だな」

彼は微笑んで私を見つめた。小さな子供を見るみたいに。
康輔さん、私は子供じゃないんだよ。せっかく二人きりで旅行に行けたのに、結局何も起こらなかった。
私は何か悲しいような、腹立たしいような思いがこみ上げてきて涙が出そうになった。

部屋の中は薄暗くなってきて、照明を点けると台所の蛍光灯がチカチカしている。もう寿命なんだ。
私は買い置きの蛍光灯を探して取り替えることにした。いつもなら彼に頼むのに、何だか頼みづらくて脚立を立てた。
俺がやるよという彼の言葉を無視して脚立に登って交換していると、彼がやってきて脚立を押さえてくれた。交換が終わって脚立を降りようとしたときにバランスを崩した。
気がつくと二人で床に転がっていた。

「ほら、言わんこっちゃ無い。大丈夫か?」
「ごめんなさい。康輔さんも大丈夫?」
「ああ、何でも無い。さっ、起きろ」
「嫌、もう少しこうしていたい」
私は甘える猫のように、下から抱えてくれている彼の胸にギュッと頬をすり寄せた。彼の鼓動が、私の鼓動とシンクロしている。彼は私の髪を優しくなでながら言った。
「君に話しておかなければならないことがあるんだ」

私たちはテーブルを挟んで向かい合って座った。
「話すよ。俺が歩んできた人生を隠さずに話そう」
そう言うと彼はドライブインで買ってきた地酒を冷蔵庫から取ってきて、ふたつのグラスに注いだ。そして、そのひとつを私の前に置き、もうひとつを一気に飲み干して大きなため息をついた。

「実は……。俺は人を、たくさん殺してきたんだ」
「どうゆうこと?」


エターナルライフ第14話 1960年~1977年


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