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国分酒造 焼酎イノベーションの系譜(5)-『大正の一滴』

【大正の一滴】

2001年秋 発売

「大正時代に飲まれていた芋焼酎は、
今よりも、もっと旨かったのではないか?」
という安田の着想から、当時の造りを再現した一本。

現在の造りの基本である「2次仕込みと黒麹使用」が浸透したのは大正時代。しかし今と違って、菌の培養時間や仕込み後の日数も時間をかけていた。

安田は当時の焼酎の方が美味しかったのではないかと熟慮した末、老麹(ひねこうじ)を使った長期醗酵による大正期の焼酎づくりにチャレンジした。それが『大正の一滴』である。


芋麹による芋100%焼酎を実現して、改めて気づいた米麹の大切さ。
米麹の全麹仕込みである泡盛にヒントがあると、沖縄に飛んだ笹山と安田。

安田が苦労して造り上げた、芋100%焼酎『いも麹芋』。

芋100%焼酎だけに、より芋臭さのある焼酎になると想像していたが、あにはからんやキレのあるスッキリとした焼酎に仕上がって予想外の結果に。

『いも麹芋』の後に定番の『さつま国分』を飲むと、米麹の味わいがよく分かり、米麹の大切さを再認識する。

安田は米麹のみで仕込む泡盛に何かヒントがあるのではないかと考えた。当時少しだけ面識のあった那覇市の宮里酒造さんの許へ二人して飛び、米麹造りの勉強をお願いしたのだ。

安田が一番驚いたのは、宮里酒造さんの泡盛もろみの香りの良さ。この香りを出すためには米麹造りが非常に重要で、宮里さんの米麹はどうかと見れば、菌がしっかりと繁殖した老麹だったのである。

沖縄では独特の気候もあり、このような麹を造りやすい環境にあるが、鹿児島の地ではなかなか難しい。

老麹(ひねこうじ)による仕込み

かつてと同様、たっぷりと時間をかけた麹ともろみ、
タンクから立ち昇る芳香。
大正時代の造り再現の手応え、『大正の一滴』ついに完成す。

鹿児島に戻り、過去の文献を調べてみると、現在一般的な2次仕込みが定着しはじめた大正時代では、米麹造りに4日から1週間ほどかけるところもあったという。

「もしかしたら、この頃の芋焼酎は今よりももっと旨かったのではないか」、安田は確信に近い思いを抱いた。

そして、米麹造りの時間を従来の日数から1日延ばして様子を見たのである。

すると、菌がしっかりと繁殖した老麹ができあがった。そしてもろみから、宮里酒造さんのものと似た香りが漂ってきたのだ。

さらに文献に倣い、麹だけでなく二次もろみの日数も長く引き伸ばして、じっくりと時間をかけて行った。

このような試行錯誤の末、大正時代の芋焼酎の造りを再現した『大正の一滴』はついに完成をみた。

老麹(ひねこうじ)による仕込み

『大正の一滴』よもやま話

小林:この焼酎の一番の特徴は「老麹」。

で、この老麹は沖縄の泡盛の麹造りに起因していますね。

ふつう麹造りは、蒸した米に種麹を掛け40時間で出麹と聞きますけど、「老麹」はさらに時間を長くし米の芯まで麹菌をはぜ込ませる手法です。

その始まりはどうして?と考えた時、味を追求して意識して時間を長くした、と言うよりも、沖縄の生活習慣に思い至ったんですよ。

ウチナータイムや沖縄タイムとも言われる、南国らしい時間感覚で生活する人達と接してみて、私的な約束とかで「時間を守らなくても、守れなくても認め合う」、大らかな県民性からの生まれた副産物に違い無いと、酒屋の立場で確信したね。

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笹山:『大正の一滴』にチャレンジする前に、安田杜氏と二人で沖縄の宮里酒造さんにお邪魔して、泡盛造りを学んだのです。

この経験が、非常に大きかったと思いますね。

宮里さんは、米もほとんど洗わず、造りにおいてもあまり手を掛けない。

それなのに、素晴らしい香りのもろみを造り上げるんですよ。安田も大きなショックを受けるほど、驚いていました。

宮里さんは、泡盛用の黒麹造りにおいて右に出る者がないぐらい、素晴らしい麹をお造りになる。

那覇市内で夜に一緒に飲んでいる時でも、ポイントで席を外して蔵に戻っていかれた記憶があります。

小林:そうそう! たしか笹山さんと安田さんは、『春雨』の宮里酒造所へ宮里徹さんにお話しを伺い行ったことがあったでしょ?

宮里さんに「空港からタクシーで行きます」と言ったけど、ぜひ迎えに行くとおっしゃる。お手間取らせるのも悪いのでお断りしても、「いえ、迎えに行きますから!」と頑なに譲らずで。宮里さんも頑固なんだ。

で、空港で待っていると、迎えに来たのはなんと約束の2時間後だったとかね!(笑)。

そんなウチナータイムが生んだ「老麹」と言う私の新説は決して間違っていないと思う。

清酒でも酒母に老麹、醪に若麹を使う蔵もある。味はこの『大正の一滴』も黒麹仕込みながらソフト。きっと国分酒造さんの蔵癖なんでしょうね?

○○○○○○○

笹山:この沖縄の旅で、小林さんがおっしゃる”ウチナータイム”を一番認識したのは、空港で待っている時ももちろんそうでしたが、帰りもかなり大変でした(笑)。

翌日も宮里さんに迎えに来ていただき、空港まで送っていただいたのですが、飛行機の出発時刻まで1時間を切っているのに、なかなか空港に着く気配がない。

空港に着いたのは出発時刻の10分前、ぎりぎりセーフでした(笑)。

余談ですが、『大正の一滴』は、最初の2、3年ほどは、九州内の酒販店でのみで販売していました。

そのため、他の限定流通銘柄がアルコール度数26度であるのに対し、『大正の一滴』だけは25度だったり、また九州価格と本州価格があるなど、他の焼酎と少し違う面があります。


(6)へ続く。


一部画像は「めぐりジャパン」さんの記事より承諾を得て転載させていただいております。

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