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『霧島』黒千代香三代

2001.03.30 by 猛牛

■2022年追記(文中敬称略):ぐるぐる鶏皮の元祖・『焼とり権兵衛』にまつわる若かりし日の、霧島販促用黒千代香の個人的エピソード。

『焼とり権兵衛』は今から半世紀ほど前から、『霧島(現白霧島)』を前割して1日寝かせて黒千代香で温めて供するということを実践していたお店さん。私の本格焼酎の初体験は、40年程前の北九州市八幡東区中央町にあった同チェーン店で飲んだ『霧島』の黒千代香でした。

その中央町の店長から霧島酒造の販促用黒千代香をいただいたことから、本稿を書くことにつながり、その続編みたいな後日談へとつながっていきます。ご縁というのは不思議なもんです。

改めて読むと、霧島酒造が1995年5月に全国発売を開始した『黒霧島』の、福岡都市圏制覇に向けた巨大キャンペーンの真っ最中だったことを思い出します。私も駅頭でサンプリングの小さなペットボトルを貰いましたね。風聞ではありますが、地方都市に対して当時としては破格の一億数千万円と言われる予算が投入されたと言われてます。

その成功が、現在の霧島酒造の状況へと連なっています。

1970年前後、福岡県において先行していた薩摩酒造『白波』の波濤を走破するために、霧島酒造が取った戦術はこの千代香やグラスなどの什器備品の充実と提供も大きなひとつ。その手厚さを語る料飲店店主さんは多かった。

そういう地道な営業活動がベースにあって、いまでは本格焼酎業界のトップとなったわけですね。この20年の歴史を感じます。


2001.03.30

私事で恐縮ですが・・・。わてが黒千代香なるものに初めて出会ったのは、今から16年ほど前、北九州市八幡東区のとある焼鳥屋でのことだった。

当時勤めていた会社には高校の3歳年下の後輩、しかも同じ町内に住んでいるヤツが居て、仕事が終わると中央区にあった『焼き鳥 権兵衛』なる店に行って飲み明かしていた。なぜそこによく通っていたのかというと、この『権兵衛』の看板メニュー「鳥皮」が目当てだったのである。

それはふつうの鳥皮とは違い、特製のタレで数時間もしっかり煮込まれ脂分がすっかり抜けた、歯ごたえのある病みつきになる味。肴には最適で、しかも値段が安い(現在1本70円)というのが、当時も貧窮状態であった猛牛には涙ものだった。

  福岡市中央区大名の『権兵衛館 大名』の鳥皮とキャベツの付け合わせ

その店で後輩と、当時出たばかりの○サ○『酸っぱドライ』なるビールを10本、15本と飲みまくり、かつ鳥皮を喰らいまくっていたが、店の大将からは「酒ばっかり頼みやがって。収益性の悪い客だ!」と言われながらも妙に気に入られた。 

ある日のこと、メニューに「焼酎(黒千代香)」とあるので一度頼んでみた。実はそれがわての本格焼酎初体験になったんやけど、その焼酎は『霧島』、出てきた器が金文字・霧島銘入りの黒千代香だった。

 真っ黒で艶消しの鈍い色調がなんとも美しく、しかも金色に輝く霧島のロゴマーク・・・。一目で気に入ってしまった。「大将、これいいねぇ・・・。欲しいぃぃい(ニヤリ)」と言うと、大将は箱に入った真新しい霧島千代香をわてにポン!とくれたのである。(それにしても何でも欲しがるヤツだね、わてはw) 

以来、その千代香はわての家宝になったのだが、引っ越しを繰り返す中でどこかに紛れ込んだのか、消えてしまった(痛恨)。

  16年前に貰ったものと同型の霧島千代香(撮影協力『権兵衛館 大名』)

ところが先日のことである。福岡市内のある酒屋の店頭で、霧島酒造さんがノベルティ付き販売をやっているという情報が入ったのだ! 『黒霧島』1.8Lパック2本を購入すると、もれなく「霧島銘入り黒千代香と猪口2個セット」が貰えるという。 

喜び勇んで、さっそく入手したのが下記の黒千代香である。

  福岡市内の某酒店店頭のキャンペーンで進呈されていた新世代・霧島黒千代香

手に入れたその千代香は16年前に北九州市の権兵衛の大将からいただいたものとは明らかに違っていた。黒千代香が代替わりしていたのである。 

ふたつを比べていただければ解るが、“初代”は算盤の珠状で鋭角的なフォルム、表面は艶消しである。“当代”はより曲線的になり表面は滑らかで輝いている。さらに写真ではよく判別しにくいが蔓が“当代”の方がより粗く安価なものを使用している感じだ。 

どちらにしろ、メーカー販促グッズには目のない猛牛にはうれしい話だった。 

◇    ◇    ◇

 それを入手した翌日、久しぶりに福岡市中央区大名にある系列店の権兵衛に行って鳥皮を食べたくなった。辛子めんたいで最近有名になった料亭『稚加榮』にほど近い『権兵衛館 大名』に足を運んでみた。

まず黒千代香をひとつ頼む。出てきたのは懐かしいあの算盤型黒千代香だった。さらに久しぶりに食べる鳥皮は、いまも味に変わりはない。うん。やはり絶品である。

 大将に話かけてみた。

猛牛:「『黒霧島』は千代香で飲ませて貰えんとですかい?」
大将:「済みません。『霧島』だけなんですよ(^_^;)」
猛牛:「そうですか・・・」
大将:「でも、うちは前日に割水してますからね。まろやかでしょ」

 確かにそうだ。まろやかで美味い。

 霧島酒造さんは福岡・北九州地区で長年料飲店に対しての営業活動を熱心に展開されていた企業である。なにせ甲類の牙城であった北九州市でも、16年前にすでに千代香で『霧島』を飲ませる店を確保していた位だ。実際、いまも飲屋街を回れば看板に霧島ロゴが入っている店が実に多い。料飲店で圧倒的シェアを誇っている。

そういう訳で霧島千代香を他店でも見ることが多いが、わてが見た限り、ほとんどの店ではその場で割り水して温めるだけのようだ。その点『権兵衛館 大名』、良心的な店である。

 ひとしきり焼酎談義が続いた後、かつて北九州市の権兵衛で霧島千代香を貰った思い出話をしたら、大将が奧からちょっと大きめの千代香を手にして戻ってきた。

『権兵衛館 大名』にあったもう一つの霧島無銘千代香(都城焼)

大将曰く、これも霧島の千代香だという。都城焼だそうである。霧島銘は入ってないが、大きさといい焼成といい蔓といい、風格あふれる黒千代香である。・・・実に美しい。思うに高級店用に制作されたものなのだろうか。思わず喉が鳴る・・・。 

またお話によると三代目の千代香は日向焼らしく、三代それぞれ産地・窯元が違うとのことであった。三代目の新黒千代香もお店にあったが、使用していない風に見えた。

  優美なフォルムが美しい霧島無銘千代香(都城焼)の側面と底。
3合は軽く入りそうなやや大きめのサイズである。
底には「○に都城の印」があった。
どの時期にどれくらいの量を、どういう目的で制作したのか気になる。

と、ところがである。大将が突然、この無銘黒千代香をわてに呉れるというのだ!

大将:「よかったら、お持ち帰りください(^_^)」
猛牛:おおおおおおおおおおおおおお! 

なにも物欲しそうな目をして千代香をなでなでしていたとか、品性を疑われる真似をしていたわけではぬぅあい。至ってストイックに『霧島』を飲んでいただけなのだ。ところが大将がわての目の前にこの千代香を差し出してくれたのである。

やはり、九州もん同士。焼酎好きの熱い血が、心が、通ったということであろうか・・・(うむ、美談じゃのぉ~)。

というわけで、16年目にまた『権兵衛』さんより黒千代香の寄贈を受けた猛牛。再度お邪魔し、鳥皮や千代香を撮影させていただくお願いをして店を後にしたのだった。

◇    ◇    ◇

北九州で一緒に飲んでいた後輩は、その後別の会社に移り、いまは帝都に居ると聞く。もう何年も会っていない。わての方はその後、筑前や豊後を回りまた筑前に戻ってきた。その間に初代霧島千代香は悲しいかな姿を消してしまった。

後輩はあれからどういう年月を重ねたのだろう。手元にあるふたつの霧島千代香を眺めながら、また二人であの鳥皮を食べて語り合ってみたい、そんな気がしてきた。

『権兵衛館 大名』を経営されている株式会社コガの社長後藤正行氏に心より感謝致します。

(了)

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