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国分酒造 焼酎イノベーションの系譜(10) -『マグノリア サニークリーム』

【マグノリア サニークリーム】

2021年9月発売

『クールミント グリーン』で確立した香りの技を、
さらに高次元へと究めた、2021年の最新作。
それは『黄麹蔵』があってこその新境地だった。

米麹と鹿児島香り酵母1号を使った『クールミント グリーン』開発により、
バナナやメロンの香気を醸す酢酸イソアミルの値が高くなることが解った
安田は、より高次の段階を目指した。

1996年に送り出した『黄麹蔵』の手法を踏まえ、米麹の割合を増し、
さらに香気増強用白麹も投入。結果的に酢酸イソアミルの値は
37.7と『クールミント グリーン』を大きく凌駕した。


さらなる香りの高次元を求めて、安田の飽くなきチャレンジは続く。
『黄麹蔵』の手法援用で見いだされた、高まるバナナの香気。

安田は、『クールミントグリーン』の仕込方法、つまり米麹と鹿児島香り酵母1号を使うことで、バナナやメロンの香りにたとえられる酢酸イソアミル値が高くなることに確信を得た。

この香りを、さらなる高みへ極めようと安田は考えた。それは米麹の割合を多くして仕込むという方法である。つまり1996年に国分酒造が送り出した『黄麹蔵』の仕込方法の応用であった。
 
2020年秋、『黄麹蔵』と同じく米麹の割合を増した配合に加え、さらに秋田今野商店の香気増強用白麹を使った米麹と鹿児島香り酵母1号で一次仕込みを行ってみた。

加えて、二次仕込みの際にも、香気増強用白麹を使った米麹を追仕込し、さつまいもを掛けて仕込んでみたのだ。

このチャレンジは、一次仕込みの段階から非常に強いバナナのような香りが立ち込め、安田自身も驚いたほど。減圧蒸留後も、バナナの香りがとても強く華やかに感じられる焼酎へと仕上がったのである。


改良を加えた2年目に、酢酸イソアミルはついに37.7という驚きの数値を記録。
安田が当初描いていたより以上の、これまでにない成果を収めたのだった。

2021年9月、本作を『マグノリア サニークリーム』と命名し発売することとした。

発売前に酢酸イソアミル値を分析してもらうと、19.1という値で、『クールミント グリーン』の17.6よりも高い値を示した。

初年度は発売本数が非常に少ないこともあり、あっという間の完売となった。しかし今後もしっかり育ててゆくために、2年目について、安田は仕込法や蒸留法などにさらに工夫を凝らした。

2022年5月、2年目の『サニークリーム』が発売を迎えたが、酢酸イソアミルは、なんと37.7と驚きの値を記録したのである。

香り焼酎3銘柄の酢酸イソアミルの計測数値推移

令和3年発売の『サニークリーム』の酢酸イソアミル値は19.1で、それでもかなり高い値を示したのだが、今年は更に昨年の倍近くの37.7となり、安田も驚くほどのレベルに到達。風味も初発売分以上に、濃厚なバナナやクリームの香りが引き立つ結果となった。


『サニークリーム』よもやま話


小林:国分酒造との取引以前、鹿児島では白麹仕込みと黒麹仕込みの2種類だけの芋焼酎を造る蔵がほとんどでしたね。そんな中、『黄麹蔵』と言う黄麹で仕込んだ焼酎が国分酒造に存在すると知って、口にしてみたんですよ。

すると、清酒圏で育った私には麹臭さもなく清酒大吟醸の香り、成分はリンゴ様の香りであるカプロン酸エチルと、バナナ様の香りの成分である酢酸イソアミルですが、この酢酸イソアミルの香りがするわけです、『黄麹蔵』は。

「これは芋焼酎に馴染みのない方には受けるよな?」と、思いました。でも当時は、そういう芋焼酎より黒麹仕込みのどっしりしたものが消費者に受ける時代だった。店の柱になる商品ではありませんでした。

時は流れて焼酎ブームも去り、黄麹好きの私は新しい登山ルートの開拓も必要だと感じていた時に他の蔵に「黄麹仕込みで造りませんか?」と提案し実現した芋焼酎があったのです。

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笹山:安田杜氏は、1992年、41歳の時に国分酒造の杜氏となったんですが、5年経った1997年、46歳の時に芋100%の焼酎造りにチャレンジしたことが大きな転機となって、その後いろんな焼酎造りに挑んでもらいました。

ところで、芋100%焼酎にチャレンジする2年前の1995年、黄麹を使った焼酎造りにも挑戦していたんですよ。ファンの方ならご存じの『黄麹蔵』です。

当時の理事長である父の笹山健一郎から、都会需要向けに、黄麹を使った芋焼酎を造って欲しいとの提案があって、それで取り組んだそうなんですね。

父としては、都会で飲んでもらえる米の香りを強調した、黄麹を使った芋焼酎をという狙いだったのでしょう。

ところが黄麹は本来は日本酒造りに使われる麹で、白麹や黒麹と違いクエン酸が出ないため、温暖な南国での焼酎造りにはとても難しいとされてきたものでした。

小林:黄麹仕込みは手間が掛かりリスクも生じますが、ひとつのルートではある。

一大ブームの時でも関東以北での波は弱かったと思っていて、『新しい焼酎の時代-香り高いプレミア焼酎と本格焼酎前線再北上の可能性-』という政策投資銀行の論文も出ましたが、販路拡大には『黄麹蔵』にもヒントが隠れているんではないかと、私は考えていたんです。

笹山さんから『サニークリーム』の試作品をいただいた時に、『安田』から『フラミンゴオレンジ』、そして『クールミントグリーン』へと連なる山脈とは、異なる頂きがあると思った。

それらの先駆とはひと味違う、名も無き白麹仕込みの芋焼酎が帯びていたのは、この酢酸イソアミルが放つバナナの様な強い香りだった。これを発売しない手はなく、是非にでもと進言した事を覚えております。

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笹山:安田は、黄麹で一次仕込みを行ってもうまくいかないと考えたそうで、ならばと一次仕込みはひとまず白麹で行ってクエン酸を確保し、二次仕込みの時に多量の黄麹を掛けて仕込むという、米麹の割合を多くする仕込み法を編み出したそうです。

安田の結論としては、黄麹の特徴をしっかり出しつつも失敗しない方法として考えついたのが、米麹の割合を通常の芋焼酎よりかなり多くして仕込むことだったわけです。

結果として焼酎は上々の出来に仕上がって、1996年に『黄麹蔵』として発売にこぎ着けることができました。初年度は発売本数が少なかったこともあって、あっという間に完売となりました。

翌年(1997年)は数量を増やして発売したんですが、販売方法がしっかりしていなかったこともあって、1年経ってみると『黄麹蔵』の存在が忘れ去られてしまって、思うような売り上げを上げることができなかったんです。

小林:マーケット的には、ここ数年芋の病気「基腐れ病」のおかげで、芋の納価は高騰、値上げは避けられない状況になっています。

その渦中であっても、「少しでもお安く」と知恵を出し、今年は昨年より1度低い27度での出荷になります。しかし酒質に影響なく原価も酒税も押さえて『サニークリーム』は価格据え置きとなりました。

安易に値上げしたくないと言う蔵元・笹山さんの知恵と工夫、バナナ様の香気をさらに高めるにはどうすれば?と造りにおいて手を惜しまぬ安田杜氏の知恵と工夫、この両輪があって、またまた魅力的な芋焼酎が誕生したのですね。

「めんどうだ」とか「それやるのは大変なんです」なんてお二人に口から聞いた事はありません。人間ですからそんな気持ちになる時だってあるでしょうが、蔵元としてあえて言わない配慮、杜氏として手間や工夫を逆に楽しんでいる姿が想像できますね。

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笹山:次に控えた『いも麹芋』という芋100%焼酎へのチャレンジは、こんな状況の中で行われたわけです。

現在では芋100%焼酎が安田の代名詞のような存在になってるんですが、初めて杜氏として自分の仕込み方法を編み出した『黄麹蔵』に対しての思い入れも強いまま、ずっと時が経過してしまった。

その思い入れへの安田自身のひとつの回答が、この『マグノリア サニークリーム』と言っていいんじゃないでしょうか。
 
なお、『サニークリーム』は当初発売する計画はなく、地元卸店のオリジナル焼酎で終わる予定だったんですね。

小林さんにサンプルを送り飲んでもらったところ、すぐに電話が入り、小林さんの一声で、発売に向けて準備をすることになったのです。

(11)へ続く


一部画像は「めぐりジャパン」さんの記事より承諾を得て転載させていただいております。

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